アイドル争奪戦5



「たった数ヶ月…実質は、もっと少ない。それくらいしか顔を合わせていない相手を…、どんな人間かなんて、分かるはずがないだろう」

「そんなこと…っ」

「そうかな?」
「ッ!」

ずい、と近寄られ、幸村は後ろの壁に背を着いた。

…脅しか何かのつもりだろうか?
幸村の目と鼻の先まで顔を接近させ、家康はジッ…と見つめてくる。


「お前には、まだ何も見えていない。…そんな程度で、ワシに勝手な虚像を押し付けないでくれ」

怒りを抑えているのか、ゆっくりと、また詰まりそうになりながらも言うと、家康は幸村から離れた。


「まだ少し時間はあるが…今からでは、もう遅いな」

自分は他の友人たちと落ち合うので、幸村は次の相手のところへ、と促し、会場の方へ戻ろうとする。



(………)


その背中を、幸村は何も言えず、ただ見送るしかできなかった…







──わけがなく。



「待たれよ!!」
「ぅん゙!?」

力一杯に制服の裾を引かれ、家康がくぐもった声を洩らす。

何だ、と振り返れば、


「確かに、付き合いは短うござる!徳川殿が言われるように、某の知らないことも、きっと多くありましょう。…ですが、」

幸村は、下から家康を真っ直ぐに見据え、


「某は、己の目と心を信じておりまする。自分が見てきた徳川殿は、決して『嘘』ではござらん!」

と、堂々言い切った。

家康が目を見開き固まるのを見て、それに押されるように、


「勝手な押し付けでも、某は嫌なのです。こんなのは、徳川殿には似合わぬ…絶対に。やはり、いつもの感じがお似合いでござる」

「………」

反撃の言葉が浮かばないらしく、家康はまだ沈黙の状態にあった。

それに、と幸村は続け、


「タバコなんて、成人してからいつでも吸えるでしょう。この成長期に、わざわざせずとも。どのくらい害をなすか、今度じっくり聞かせてあげまする」


「どうしてそこまで…」

家康が呆れ顔で首をひねると、


「決まっておる。いつもの徳川殿で、いて欲しいからです。…某の、好む」

「──…」

家康のその顔に、幸村はムッと、


「何を笑っておられるのだっ、某は真面目に言っているのに!」

「えっ、」

一瞬慌てて口元に手を当てた家康だったが、すぐにもとの表情に戻り、


「…真田は、案外我儘な奴だったんだな」

と一言、後はもう振り返らない姿勢で、歩き出す。



「徳川殿が嫌がっても、某は諦めませぬからな!覚悟しておかれよ!」


家康は何も答えなかったが、
『見ておれ…』と、幸村は闘志にも似た熱を、内に燃やし始めていた。












*R5 佐助×???






「佐助!」

「あっ旦那、やっと──な、何?」

会うなり自分のポケットに手を突っ込まれ、上着もくまなく探られ、佐助は内心ドギマギするのだが。


「(お前…、もう吸ってはおらぬよな…?)」
「!あ、あぁ…」

何だ、という風に佐助は息をつき、


「誓ったじゃん、ハタチまでにまた手ぇ出したら、縁切ってって。旦那の徹夜の説教も、もうあれきりで充分だし」

本当は、そこまで自分の身体を思う幸村に、また惚れ直してしまったという甘い思い出なのだが…こちらはそうでも、向こうには嫌われる可能性が大きい。

元々興味本意でやったことなので、何の苦もなく、佐助はそれを捨て置いていた。


「ならば良し。…そうか。やはり、あのやり方で間違いないのだな…」
「旦那?」

「いや、何でもない。ここに入るのか?」
「芸術の秋だからねぇ。たまには良いでしょ?空いてるしさ」


──佐助が案内したのは、『アート展』

少し広めの会場で、生徒個人から団体、美術部や写真部、書道部に手芸部…他にも様々な部門からの作品が、ズラリと展示されている。

生徒よりも一般客の姿が目立つが、その数は少なく、静かで本物の美術館然としていた。



「………」
「………」


(何だ?急に黙りおって…)


この雰囲気なので騒いだりはできないだろうが、別に無言でいなければいけなくはない。

いつもの佐助なら、作品に対して色々コメントをしてくれそうなものなのだが。


「…これ、すごいな?本物みたいだ」
「ん、どれどれ?」

たまりかねた幸村が作品の一つを示してみると、佐助は普段通りに反応し寄ってくる。

幸村はホッとした表情で、「ほら、この…」と言いかけたが、やめた。


「佐助…?」
「………」

幸村は、自分の手を取り、それを観察するように眺め触る佐助の行動を、不思議そうに見返す。

佐助は、じっくりたっぷりといった風に、幸村の手を解放しない。
その表情にはいつもの彼らしさはなく、恍惚と慈しみのもので染められていた。


(ど、どうしたのだ…?)


ただならぬ様態に、幸村が身構えてしまうと、


「俺様には、この手が一番だなって」
「は」

佐助は、役者の如く熱のこもった瞳で笑み、


「そっちの手も綺麗だけど、俺様はこれが一番好き。…幸運だよね?それは、こうして離れて眺めるしかできないけど、こっちはいつでも見て、触れることができるんだから」



「──…」




……佐助が、壊れた。

幸村の頭に真っ先に浮かんだのは、それ一つ。


彼は、映画やドラマの『クサい台詞』に「俺様は、絶対無理」と言い、いつも顔をしかめているというのに。


(き、聞かなかったことにしよう…)


やっと離してくれた手を引っ込め、幸村は他の作品へと身を移す。



「旦那、これもすごいよ」
「む?」

それは、ハンドルを回すとメロディが流れ、箱の中の人形が動いたり背景も変わるといった、立体紙芝居のような作品。

内容は、よくあるようなおとぎ話であったが、


「この主人公、旦那に似てる」
「なっ、どこが?」

幸村は、その端整で颯爽とした王子の人形を再度見て、

「俺より、お前だろう?」

だいたい、綺麗な王女様と恋に──など、自分の様からは程遠い。


「俺様は、こっちの親友役でしょ」

佐助は、またあの瞳で微笑み、


「主役は、いつでも旦那だよ。

旦那は、俺様の太陽なんだ…常に高いとこにいてもらわなきゃ。俺様の物語も、旦那が主人公なんだから、こうやってハッピーエンド迎えてくんないと」




「………」




(…ダレガ、ダレノ、何、デス、と…?)



びしっと固まった幸村は、周りにいくつかある石膏像と並んでも、無理なく溶け込んでしまいそうだった。

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