アイドル争奪戦4



──確かにすごい罰だと、幸村は戦慄し続けていた。

見れば見るほど硬直してしまうのに、彼から少しも目が離せない。


(口調は、いつも通りであるのに)



…何と、三成の顔は、見たこともないくらい、真っ赤になっていたのだ。



(恥ずかしいのは、こちらの方ですぞ…っ)


その顔を見ていると、自分の頬まで釣られてしまいそうになる。…なのだが、やはり貼り付いたように目が離れてくれない。

しかも、


「…何だ、その顔は」

と、三成が自分を棚に上げ言うので、幸村の頭の血は完全に沸点を越えた。


「いっ、石田殿こそ、真っ赤ではありませぬかっ!」

「なっ…!?」

バッと頬に手の甲を当てると、三成はショックを受けたように一瞬固まった。

が、すぐにわなわなと震え始め、顔色も赤味が増していく。


「この程度の罰では、足りなかったか…」
「…いえ、相当な痛手を被りましたが」

「よって、決定打を与えてやろう!」
「ええっ?(こ、これ以上…!?)」

今度は何を、と身構えると、



「貴様が最も忌み恐れている…

──『破廉恥』な罰をな!」


「なぁ…!?」


(石田殿たちには、話しておらぬのに…!)


いつ見破られたのだっ?と、幸村の赤面も一気にひどくなる。

そして、すぐに政宗や慶次たちから受けた、破廉恥な行為(ピンクな雑誌を見せられたりなどの)を思い出し、


「や、やや、やめて下され!石田殿が、そのような…っ、──絶対に嫌でござる!」

そういうものとは無縁なイメージの彼だったので、『破廉恥』と口にされただけでも、幸村の心には大打撃だった。

必死に許しを請うのだが、


「もう遅い!」

「(うわぁぁぁぁ!!)」

最後の抵抗とばかりに、幸村は両目を固く閉じた。





(──…?)



優に数分は置いた後、ゆっくりと目を開けると、

…三成の姿は消えていた。


結局は考え直してくれたのかと、ホッと胸を撫で下ろす。



(最初に食べようとしたあれの…ソースか青のりが、付いておったのだろうか?)


触れられたらしいそこを、舌でなぞる。

一応念のため、後で鏡を見ておこう…と思う幸村だった。












*R4 家康×???






次の家康に会いに行く途中で、柄の悪い他校の生徒に、捕まってしまった幸村。

文化祭であるし、喧嘩沙汰はまずい。
どうにか口で分かってもらおうとするのだが、

『可愛い女の子紹介してくれたら、大人しく帰る』などと、いかにもなことを言い、ニヤニヤ笑うばかり。

そんな人身御供、幸村が許すはずがない。
だが、どうするか…と頭をもたげていると、


「ああ真田、こんなところに」
「!徳川殿」

「…穏やかな話じゃなさそうだな」

一瞥で判断したらしく、家康は幸村の前に出る。


「こちらで、ちょっと話し合わないか?」

「何だ、お前?」
「この子の保護者ぁ?」

「…良いから」

ギャハハ、と笑う彼らを押し、階段の陰に移動させる。


「徳川殿、」
「少しだけ待っていてくれ。何、ワシはこういうの得意なんだ」

新たな絆を結んで来るよ、と笑い、幸村をその場に残した。


そして、数分後…





「いや、悪かったね!ちゃんと行儀良くして帰るから」
「お兄さん、立派な人だなぁ。良い出会いに乾杯!」

「は、あ…」

戻った彼らは、人が変わったように満足げな笑顔で、幸村にも頭を下げてくる。
唖然としている内に、そこから立ち去った。

笑ってそれを見送る家康に、幸村は尊敬の眼差しを向け、


「徳川殿、さすがですなぁ」
「いや、分かってくれる相手で、運が良かっただけだ」

はははと笑い、家康は何かをポケットに入れようとしたのだが、ポロッと落ちてしまう。

すかさず幸村が拾ったのだが、


「これは…」
「ああ、ちょっと珍しい種類だろう?」
「(え…)」


種類など、知るわけがない。

…吸ったこともないのに。


家康はタバコの箱を受け取り、「さっきの奴らが、『お近づきに』…とくれてな」と、ポケットにしまう。


「………」


(受け取るのですか…?)


幸村が複雑な顔で見ていると、気付いた家康は、


「戦利品の一つでもないと、払い損だろう?」
「……!?」

あっけらかんと言う彼を、幸村は愕然と見返した。


「まさか、お金を…」
「ああ、違う違う。貸してやっただけだ」
「………」

「暴力沙汰なんて、毛利には良い迷惑だろうしな」


(…本当に…?)


見ず知らずの者と金銭の貸し借りなど、普通はしないのでは。
そう言いたいが、家康のいつもと同じ笑顔に、ためらってしまう。


「真田は吸ったことなさそうだな。だけど、他の奴らはやってるんじゃないか?」
「……っ」

からかうような口調に、幸村の何かが込み上がり、


「どうしたのです、徳川殿…!?タバコなど、一つも似合いませぬぞ!それに、金で黙らせるなどッ」

周りに人がいなかったのもあり、思い切り大声で詰め寄った。

すると、家康はその口を手で塞ぎ、さらに人影のない校舎の死角へと幸村を連れ、


「声が大きい。…教師に聞かれでもしたら、また面倒なことになるじゃないか」


(………)


幸村の頭は、混乱が悪化していく。

…家康は、全くの別人のように、幸村を嘲る表情で見下ろしていた。



「『こんなの徳川殿じゃない』…って?」
「は…」

その通りだと言い張りたかったのだが、幸村の声は力をなくす。

いつも明るく、陽の光のように眩しく笑う彼が。


背筋にゾクリと寒気が走り、彼の顔から、目をそらすことができなくなる。

特に、その瞳から。


──凶暴で獰猛な、尖りを抱く二つ。



(…っ、)


見惚れている場合ではない、と、目を覚ますように、幸村は家康と向き合った。

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