アイドル争奪戦3
「似合うじゃねーの。よし、ダブルキャプテンで、一枚」
「はぁ」
着替えた幸村が出ると、元親がカメラマン役の生徒に撮らせる。
周りは、彼らのツーショットにコソコソ騒ぐ女生徒で一杯だったが、鈍い二人なので気付いていなかった。
官兵衛の着替えも終わったらしく、幸村は落ち着かぬ心地で待つ。
更衣室のカーテンが開き、
「おっ、思った通りだぜ!超似合う!な、幸村?」
「──え、(…えぇぇぇぇ…っ!?)」
はしゃぐ元親だが、幸村は茫然自失。
「少し、窮屈だがなぁ…」
官兵衛は、緩めるように首元に手を当て、苦笑する。
「………」
確かに、ものすごく似合ってはいた。
いたのだが、しかし、
(…これは、野獣が『元の姿』に戻ったときの…)
そう。
──つまりは、気品溢れる王の姿。
(目が、…)
いつもは隠れている彼の両目も、変えられた髪型によって露になっている。
……こんなにも、涼しげな瞳であったのだとは。
長髪も下ろされ、本当に異国の男性のようで、というか、彼がこんなに端正な面立ちだったなんて、
「うわ、超カッコい〜!え、真田くんの友達っ?」
「!…あ、は、はいっ、○○校の、」
「嘘!じゃあ、来年から同じっ!?」
キャーッと、それまでは幸村たちに惚れ惚れしていた女の子たちが、一挙に官兵衛の周りへ群がった。
「おいおい、写真撮影がまだ…」
元親が呆れ顔で、幸村を彼に近付けようとすると、
「私、ちょうど相手役だし!ね、撮って撮って〜!」
「ちょ、ずるっ!私も!」
「あのなぁ…。まだ、幸村と撮ってねんだぞ」
だが、聞く耳持たない彼女たち。
(別に、構わぬが…)
何となくつまらなく感じながらも、思う幸村だったが、
「せっかくの『美女』からの申し出だ、こちらから頭を下げるよ。…男役同士で撮っても、絵にならんし」
官兵衛は、幸村の方を少しも見ずに言う。
(…もっともだ…)
時間の邪魔にならないようにと早々に着替え、幸村は静かにその場を離れた。
*R3 三成×???
![](//img.mobilerz.net/sozai/1645.gif)
どうせなら、この前に、他の三人の誰かと過ごしておきたかった。
…そうすれば、さっぱりと明るい気持ちで、彼を案内できたはずであるのに。
「昼時ですが…」
「ああ」
努めて明るく振る舞おうとする幸村だが、声に張りがないのが、自分でもよく分かっていた。
しかし、普段から幸村の声の大きさや有り余る体力に、迷惑そうな目を向ける三成だ。
このくらいが、ちょうど良かったかも知れない。
(大谷殿が、石田殿は食が細いと…)
しかも、こんな出店の大衆メニューなど、敬遠しそうな気もする。
「某も減っておらぬので、」と三成を見た幸村だったが、息を飲み言葉を切らしてしまう。
──三成の両手に、食べ物が入った袋が、いくつも提げられていた。
(い、いつの間に…)
目を丸くする幸村だったが、
「…人前で食べるのが、慣れないだけだ」
端的に言うと、三成は校舎を見上げた。
![](//img.mobilerz.net/sozai/1645.gif)
今日は誰も来ない屋上に、二人。
「しかし、意外ですなぁ…。石田殿が、焼きそばに、たこ焼きとは」
中身を見て再び驚く幸村だったが、つい微笑んでもしまう。
「………」
三成は、それらを見ながら、
「貴様の好物が分からなかった。…結果の産物に過ぎん」
ぼそり、と一言。
(……へ)
幸村が間抜けな声を上げる前に、三成は目を伏せ、
「…こういうとき、私では何の役にも立たん。──家康であれば、容易に晴らせられたのだろうが」
「!(気付いて…!)」
幸村は瞬時に青ざめ、自責の念により、頭には血が昇った。
「す、すみませぬ…!そのようなつもりではなくて、悪いのは某でして…っ」
しかし、彼はもう全てお見通しなのだ。何を言っても、見苦しいだけである。
幸村は、自身の不甲斐なさを呪いながら、
「申し訳ござらぬ…!せっかくのこのような日に、不快な思いを…気を遣わせてまで…」
語尾も、尻すぼみになってしまう。
「──そうだな。…貴様が全面的に悪いのは、明らかだ」
「(う…)」
まさかこう返ってくるとは予想外で、幸村の顔色は悪くなる一方である。
「罰だ。…座れ」
「は、はい」
三成は、黙々と食べ物のパックを開けると、幸村に手渡した。
(あ…。そう言って、某に食べさせるために…?)
その優しさにじわりと温まりながら、幸村はたこ焼きを口にしようとし、
「誰が食って良いと言った?」
「…え」
止められた手に、三成を戸惑い見る。
「………」
「あ、の、…石田殿…?」
それから黙り込んでしまった彼を、幸村が恐る恐る窺うと、
「食べるのは、私だ」
(…………………はい?)
幸村は全身真っ白になり、目も口も点状態。
幻聴?
…いや、幻覚??
幸村は、自分の持ったたこ焼きが彼の口元へと寄せられるのを、未だ信じられない気持ちで、まじまじ見つめていた。
「………」
呆然としながらも、言われた通りに手が動く。
「待て。…決まりの『文句』があるだろう?」
「……」
幸村は少し首を傾げたが、
「(…あ、)『あーん』…?」
『ぱくり』
──たこ焼きは、綺麗に三成の口の中へと消えた。
「…一つでは、足りない」
「!!あっ、『あーん』んん…っ!!」
言い慣れないものだから、幸村のそれには何の甘さもない。
だが、たこ焼きの数は次々減っていく。
こんなにモリモリ食べる彼の姿など、実に貴重な事象であろう。
「お、美味しゅうござるか…?」
「……」
咀嚼しながら、三成は軽く頷く。
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