アイドル争奪戦2





『お前は、いつも通り相手と過ごせば良い。何もせずとも、後夜祭までには、答えが出る算段だ』


──と、元就が言い切るので、幸村は深く考えるのをやめた。

頭の切れる彼であるので、何か良い策を用意してくれているのだろう。
これで、安心して文化祭を楽しむことができる。

人数の関係から、一人一人の持ち時間は一時間。


(皆で回れば、一番良いのに…)


と、幸村が思ってしまうのも、当然の話なのだが。

彼らが自分を気に入ってくれているものの、当人たち同士は不仲であるという現実は、よく理解している。
なので、今のやり方は平和に終われそうで、良案なのかも知れない…と、前向きに捉えることにした。





*R(ラウンド)1 政宗×???






回る順番はクジ引きで決まったらしく、トップバッターは政宗。

二人は、話題のお化け屋敷のクラスへと訪れていた。


「面白そうですな、政宗殿!」
「Ah!?…ぁ、Oh〜…。造り、凝ってんな」
「…?」

政宗の口数が極端に少ないことに、幸村は首をひねる。…緊張、しているような。



(あの政宗殿が?…まさか)


何に緊張するというのだろう。

確かに、二人きりというのは、もしかしたら初めての状況かも知れない。だが、友人になってからの付き合いも、もう随分になる。
今さら、初めて会ったときのようなものなど、湧かないはずだ。

そんな彼に、早く元に戻って欲しくて、幸村はいつも以上に明るく接した。


お化け屋敷は、中もかなり上手にできていて、何もかもがリアルである。


(寒いな…)


仕掛けの冷気に、身を震わせると、



「(えっ…?)」
「……」

思わず政宗を見上げるが、彼は顔を背けたまま、無言。


──幸村の片手のひらは、彼のものに握られていた。


「あの、政宗殿…?」


(ど、どうしたのでござるか…!?こんな子供のような行為、果てしなく嫌いそうであるのに…っ)


離すどころか加わる力に、幸村は焦り、妙な緊張に襲われる。


「幸村、俺…」
「……ッ!?」

感情を抑えるように、切ない声を震わせる政宗。

幸村の頭は、混乱を来す。


「ま、ままま、え、と」



『ガッシャーン!』
『バササササッ!』

『きひひひひ!』
『ギャアアアアアア!!』


真横で、仕掛けがいきなり炸裂した。
何かが割れるような音に、コウモリの人形の大群が、足元から一気に飛び立つ。

吸血鬼なのか、ゾンビなのか?判別できなかったが、それはそれは気持ちの悪い特殊メイクを施した仕掛人が、二人を歓迎した。


(お、おぉ…)


さすがに驚き、彼が再び闇へ消えるのを、呆然と見送る幸村。


…だが、それよりも仰天したのは…



「あ、の、う、…」

とにかく、現実のことには全く思えなかった。

いつも自分と勝負する際に見せる、しなやかで逞しいその腕。…それに、今正に己が包まれている、など。



──いや、そうではなくて。

これは、抱き締められていると言うより、



「政宗、殿…」


「ぅうっわ、バカ!


はっ…、離すんじゃねぇぇ!!」



『むっぎゅうぅぅぅ』



…政宗は、ますます幸村の身体へとしがみ付く。(細かく震えてもいた)



「………」

『思考停止』といった顔で、幸村が彼を見ると、


「っんだよ、ここ…っ!怖過ぎだろ!つか、やり過ぎだろ!無理無理無理無理、もう、ぜっってぇ無理!次またあんなん出たら、俺マジ泣く!なぁ、どっか抜け道ねぇのかっ?何で、引き返すのNGなんだよ…!」

「ひぃぃ…っ」と、幸村に登りかねない勢いで密着し、辺りをキョロキョロと見渡す。

顔色をすっかりなくし、ガタガタと震えは止まらない。



(…某、今夢を見ているのだろうか…?)


だが、よくよく思い返してみれば、最後の悲鳴は耳のすぐ傍で聞こえたような。


(よもや、政宗殿がこのような…)


その気持ちを出さないよう、幸村はどうにか努めようとするのだが、



「…Hey」
「えっ?」

気付くと、政宗は幸村からやっと腕を離し、代わりに、


「…ぜってぇ離すんじゃねーぞ」

と、再び手を握ってきた。


「……」

黙って、それに従う幸村だったが、


「いつもは、片倉先生に…?」

場を和ませようと、口にしてみる。


政宗は、青い顔でチラリと幸村を見返し、
「お前が最初で、最後だ」と言い、少しだけ眉を寄せた。



「それは…」


『ガササッ』


「nギャアアアア!!
HeLL!ヘルぷmeーー!!!」



「………」


その後の仕掛けでも、毎回同じことを繰り返した政宗。

最終的には幸村が彼を抱き上げ、ゴールまで励まし続ける羽目となったのだった。












*R2 官兵衛×???






(つまらぬ…)


浮かんだ気持ちに、『何てことを』と、すぐに自戒した幸村だったが、


「真田?」
「あ、いえ!どこに参りましょう?」
「どこでも構わんよ。適当に、その辺覗くくらいで」

「……」

──二番手は、官兵衛だった。


(…楽しみにしておったのに)


幸村自ら案内を申し出た、彼である。

官兵衛は他の友人たちと違い、どこか三枚目な風体。さらに、運の悪さや悲劇をとにかく引き寄せる。
しかし、何故か彼といると、幸村はとても心が落ち着くのだ。

自分以上に周りから『からかわれる』(←幸村の寛容な目の判断)ことが多く、密かに仲間意識を持っていたり。

しかも、向こうが怒らないのを良いことに、彼を少しからかってみたりなど、今までにない愉悦さえ得ていた。

…のだが。


(今日の黒田殿は、寸分たりとも隙がない…)


──で、幸村は内心むくれている…というわけである。


「おう、幸村!やってかねーか?」
「!元親殿!」

声を掛けられ振り向くと、見るも派手な出で立ちの元親。
某アニメのフ○ク船長のようだが、主色は紫で、彼によるカスタマイズに違いなかった。

「どーよ、似合うか?」
「は、はい」

元親たちのクラスは『コスプレ館』らしい。客に好きなキャラを選んでもらい、写真撮影のサービスをしている。
また、客自身もコスプレをさせてもらえるようだ。


「ちゃんと、赤いのもあんだぜ?せっかくだから、着てけよ。そこのアンタも」
「「え、」」

「うぉ、良いガタイ!そーだな…アンタにゃ、これがピッタリだ」
「「……」」

元親が指したのは、『美女と…』の、野獣のイラスト。


(確かに…っ!)


想像し、あまりのハマり具合に、幸村は吹き出してしまう。

こういうとき、決まって官兵衛は言うのだ。
情けない声と困った表情で、『真田ぁー…』と。

幸村が彼を好ましく思う、一番の要素でもあった。

だが、


「時間もないし、さっさとしてもらおう」
「え…」

勘弁してくれ、と断ると思ったのに、官兵衛は自分から教室へ入っていく。
「毎度!」と元親が受け、二人を別々の更衣室へ案内した。



(──お、怒って…?)


今まで一度もなかったので、『いや、まさか』と思うのだが、官兵衛が自分を少しも見なかったことが、気になる。

幸村は、着替えさせられている間中、ずっとそわそわしてしまった。

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