知らぬ間の実り5







俺様は今、人生最大の危機に瀕している。


…いや、昨日のあの流れなら、人生最高の、幸福な朝を迎えてるとこでしょ?
うん、そーだよね。本当だったら、そーなるはずだったんだけどさぁ。


(あの言葉さえ、聞かなけりゃ…)


いや、あれがないままだったら、今よりひどい悲劇になってた。
…そうは思うんだけども、あぁ…

俺様を凍り付かせた旦那の言葉、それは、



──“本命、合格おめでとう”──



初めは、「え、俺様言ったっけ?」くらいにしか思わなかった。
だが、少し冷えた頭でよくよく考えてみると、


『俺に、伝えることがあるのだろう?』
『どれだけ待ったと思う?…お前の口から聞くまでは、と抑えていたが、もう…』

あの台詞は…


『いい加減、どこなのか教えぬか』
『だーからー…本命の合否が分かってから、』
『その発表の日も、いつなのか言わぬし』
『楽しみにしててよ。サプライズ、サプライズ』


…つまり、

旦那が聞きたくて待ち望んでたのは、俺様の志望してる大学と、その合格報告…



(──だったのに、何っつー勘違いを…!!)


旦那は、まだ寝ている。あ、俺様もう泊まっちゃって。…てか、放心状態で帰らんなくて。

自分の早とちりを理解した後、そりゃあもう、男子ってのはナイーブな生き物なんで。猛ってた軍隊は、ものすごい勢いで引いてった。…思い出すだけでも、泣きそうになる。

──なので、旦那の貞操は無事です…ギリギリ。

酒も入ってたし、俺様の手先の器用さに参って(←ここは自信ある)寝ちゃった。



「ん…、」
「!!だ、だんな…」


(あああ、とにかくは、)



「ごめん──!!」

ベッド脇で、土下座する俺様。…ホント泣くかも。


「……?、…!…!!、…!!!」


旦那の顔色の変動が治まるまでは、とにかく謝り続けた…。












「俺こそ、謝らねばならんのだ…」

「えぇ?」

やっと出た旦那の言葉に、面食らう俺様。


旦那はバツが悪そうに、


「元親殿に、教えて頂いた…。お前が受ける大学と、合否の結果を」
「ああ…そんなの、すぐ分かったけど」

「すまぬ!どうしても知りたかったのだ!…遠方に行くのだろうかと思うと、いても立ってもおられず…」


(え…)


…あれ?俺様、夢でも見てんのかな?
昨日から、一睡もしてないはずだけど。


「お前が、俺と同じ大学を受けると聞いてから、もう毎日待ちきれなくてな…元親殿には、何度も同じようなメールをしてしまった。お前がどんな様子なのか、など…」


(──あ、夢じゃねーな。微妙に痛いもん。あんま痛くないのは、多分、)



「昨日は、それで飲み過ぎてしまったのだ…嬉しくてな」

「旦那…」


「………」
「………」

またもや訪れる、沈黙の時間。──だけど、きっと恐らくは、昨日とはちょっと違う、…



「昨日は、その…」
「っ!」
「ごめん。勘違いして、とんでもないことしちゃって」
「い、いや…」

真っ赤になる旦那の顔に、今さらながら、事の重大さを思い知らされる。


「でも俺様、ん゙っ?」

口に衝撃が走ったかと思えば、旦那の手のひらに塞がれていた。

…どっかで見たシーンだな。


旦那に目をやると、ふるふると震え、顔をゆでダコにしながらも、しっかり視線を俺様に向け、


「かっ……勘違いではないから、謝らなくて良い…!」



─────………



…結局、俺様はその日も旦那ん家に泊まることになってしまう。(というか、勝手に)

翌日、土下座まではいかずとも、ほぼ同等の平謝りを一日中しなければならなかったが、

──こんな詫びならいくらでもしたいと、果てなき幸福に破顔し続けたのだった。














「まさか、親ちゃんも同じになるとはねー。二人で内緒にしてるなんてさ」

「お前が隠すものだから、一つ仕返してやろうとな。しかし、良かったではないか。二人と一緒に過ごせるなんて、俺も嬉しい」

旦那の笑う顔に、俺様も釣られるように、「そだね」と返す。


──あと数日で、入学式。

当日は、親からの祝いのバッグと、旦那にもらったカッコいいネクタイ締めて、ばっちり決めて行く予定。

ネクタイ選びは前田さんにアドバイスしてもらったらしいけど、今の俺様は、以前のように口を尖らせたりなどしない。


(何つったって、毎日それを昇華してくれる、甘〜い時間があるからねぇ)


…いかんいかん、まーた顔崩れるとこだった。俺様、モデルでもあるってのに。

これからは、旦那の友達にも、ガンガンお付き合い願わなきゃ。
俺様は、旦那にとって、最高のパートナーになるって決めたんだから。


モデルの仕事も、この先どうしていくかはまだ分からないけど、あの場所には、自分が夢中になれる光がある。
それが見える内は、全力を注がなければ。


(俺様、旦那に近付けてるよな…?)


そんで、追い付いた頃には、旦那の還る場所的な存在に…。──まだ見ぬ未来が、楽しみだ。

青い空を見上げ、目を細める。



「そういえばな、この間剣道部を覗いたんだが」
「あー、旦那も高校までやってたんだっけ」

「うむ。今年の新入生を早くも入部勧誘したらしく、すごい熱気に溢れておった」
「へぇー」

「その新入生が体験に来ておったのだがな、それはもう、見事な太刀筋でなぁ…!」
「…フーン…」

「一度、手合わせ願いたいものだ!」

目を輝かせて、ウズウズするように身を震わす旦那。


(──カッコ可愛いなぁ…)


この顔を、そのルーキーが引き出したってわけなんだよね。
いや、新生俺様は、んなことで動揺したりしないけどな。

…全然、悔しくなんかねーし。



「そいつの名前、聞いた?」


(念のためのチェックね。俺様、マメですから)


んっ?と、旦那は変わらず、爽やか笑顔で、


「ネームには『伊達』とあったが…もしや、知り合いか?」



──神様は、ドSであることが判明。


俺様の忍耐や冷静さを育ててくれるつもりらしいが、そんなシチュエーションは、心の底から一昨日お越し下さい。

大学まで一緒って、どんな呪いだ。


「まさかぁ、聞いたこともないよ」と笑いながら、どうやって旦那の興味を失わせようか、必死で考え巡らす。

が、自分だけに向けられる、彼の目や表情を見ていると、そんなことに腐心するのが馬鹿らしくなってきた。


よって、いつもの如く、甘い時間を堪能することに決めたのであった。







‐2012.2.29 up‐

お礼&あとがき

藤篠様、相互ありがとうございます!

勝手に他話からの続き設定、佐幸よりすねる佐助のが断然多くて、本当にすみません;

すねる彼を見て幸村がキュンとなったりするのが美味しそうなのに、そんなのゼロでした…(涙) 幸村、全然気付いてないという。

自分が書きたかったもんで、前作の他キャラとのやり取りや背景まで食い込ませてしまい…m(__)m やっぱり佐助こんな感じやし、ラブラブ少ないし(--;) 反省だらけです。

アニキは、違う日程の試験を受けたようです。あと、拙宅の佐助は、旦那以外の目上の人には「俺」を使うようで。
幸村の唐揚げは、合格祝いのつもりも含めての行為^^

また、自分のやりたい放題してしまいました(´ω`)
こんな奴ではありますが、これからもよろしくお願いさせて下さい(汗)

本当に、ありがとうございました。


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