永久トライアングル2
「――では、この問題を…」
「「はい!」」
(……またか)
小十郎は、溜め息をついた。
普通、高校の授業ではまず見られない光景。
…目の前には、離れた席で挙がる二つの手。
他の生徒は、楽ができるし愉快であるしで、クスクス笑っている。
「さっきもお前らだったろーが…。ちったぁ遠慮しろ…」
「Ah?Hey、教師が、んな生徒のやる気削ぐような発言して良いのかょ――すかぁ?」
「そ〜ですよぉ。俺ら、先生の授業がホントみなぎるっていうか〜。時間がもったいないです、早く当てて下さいよ。もう俺で良いですよね?」
「てめッ、おい小十郎…ッ先生、俺だよな、当たったのは」
カキカキ……
「ゴラァ、サルてめッ」
「あー、もう分かった。二人とも書け。どっちも見るからよ…」
小十郎が、諦めたように黒板前を空けた。
―――………
――休み時間。
「…ありゃ、何だったんだ?」
「元親、知らなかったの?…また、あいつら勝負してんだよ」
「はあ?今度は何の?」
「何の、ってか、勝った数で、勝ちが決まるらしいよ」
「は?何だそりゃ」
「――今度の、幸村の誕生日。…その日に、どちらかが二人で過ごせるらしい。勝った方が」
「……」
元就の言葉に、元親は絶句したが、
「幸村、知ってんのか?」
「もちろん知らない。けど、二人から言われて予定は空けてるらしいよ」
と、慶次が苦笑する。
「旦那〜!見て見て!俺様、こないだの中間、二位!」
佐助の声に、幸村も顔を輝かせ、
「すごいな、佐助!」
「でしょ!?一位は就ちゃんだからさ〜…」
佐助は、フフンと勝ち誇ったように政宗を見るのだが…、
「残念だったな」
と、こちらも余裕顔。
「俺も二位――だ」
バーカバーカ、と政宗は自分の成績表を佐助に広げて見せる。
「うわぁー…ノリが小学生だよ。見てらんな」
「すごい!佐助、すごいなっ?政宗殿も二位と!」
「ホントだねー、旦那!政宗スゴ〜〜イ!!」
「Hahaha……ノリが何だって?」
「二人とも、本っ当にすごいでござる!某、自分のことのように自慢したくなりまする!早速、お館様にご報告を!」
「あ、旦那ちょっと待ってよ、どっちの点数の取り方が良いか判定…」
「幸村ほら、武田のオッサンの教科、俺満点――」
三人は、教室を出て行く。
(何だ、良い点数の取り方って…)
残った慶次たちは、冷めきった表情で彼らを見送った。
「…?一人分、多ござりませぬか?」
ひょいっと顔を覗かせたまつを、
「あっ、あのさ…っ、俺が大食いなもんだから、余分にっ」
と、慶次が慌てて彼女の気をそらした。
「まあ、慶次。何と我儘な…」
まつはブツブツ言っていたが、すぐに他の班から声をかけられ、移動してくれた。
慶次は、ホッと息をつき視線を戻すが…
「さっ、旦那食べてみて?」
「早く感想聞かせてくれよ」
佐助と政宗の間に挟まれ、幸村の前には、全く同じメニューが、――二人前。
…ただ今、調理実習の食事が始まろうという時間。
いつものメンバーで班になっていたので、またも二人の勝負に勝手な行動がなされていた。
「良いのでござるか?こんなに…」
佐助たちに上手く言いくるめられ、幸村は美味しそうな料理にすっかり心を奪われている。
成長期の時分に、この量は魅力的以外の何物でもない。
たちまちどちらも平らげ、
「ごちそうさまでした!実に…」
「「どっちが美味かった!?」」
仲良く声がカブり、睨み合う二人。
「…てかさ、アンタの味付け濃そうだったよね。あんなの絶対身体に良くないって。旦那みたいな健康優良児には、もっと」
「Ha!テメーの方こそ、病院食かっつーんだよ。コイツみてーに、よく動いて汗かく奴には塩分多めのが良いんだよ。あんなんじゃ、弁当なんかどんだけ味気ねーもんだか。可哀想に、毎日我慢して食ってんだぜ、コイツ」
「はぁ〜?食べたこともないくせに、勝手なこと言わないでくれる?俺様のは薄くも濃くもなく、そりゃあ絶妙な」
「……こっちが、佐助の作ったものであろう?」
二人の言い合いが細かくまで耳に入らない(ように、これまでの過程でなってしまった)幸村が、佐助に尋ねた。
二人とも我に返り、
「っうん、そう!…どうだった?」
幸村はニッコリと、
「やはりな!…ずっと食べてきた味だ。分からぬはずがない」
「だ、旦那…」
それだけで表情が百八十度変わる佐助。
「佐助の料理は、本当に美味い。…ホッとする。……大好きだ…」
「旦那ぁぁ!俺様も、好ブッ――」
――政宗の手が、幸村に抱き付かんばかりの佐助の顔面を押さえた。
しかし、佐助の喜びはそれで害されるほど弱いものではなかったらしい。
「政宗殿も、料理がお得意なのですなぁ。美味かったでござる」
笑顔とその言葉にかなり救われた政宗だったが、
(――やっぱ、料理じゃ敵わねーか…)
「俺様、最後の片付けやっとくから。先戻ってて」
鼻歌でも口ずさみそうな勢いで、佐助は他の五人の背を押した。
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