知らぬ間の実り2
昼間は友達と遊んで、夜は空いてる──という今日の旦那の予定は、既に調べ済み。
俺様も親に遅くなるっつったから、告白にどれだけ時間かかろうと大丈夫。
『あ、今から皆で飲むのだが』
旦那に電話してみると、後ろから明るく笑う声が聞こえた。
『お前さえ良ければ、来ぬか?』
「えっ!」
マ、マジ?…えぇ、いきなり初対面の人と会うとか──全然お手のものだけど。
それに、旦那の友達ってなら話は別。
興味?…あるに決まってる。
きっと、友達も似たような人なんだろう。例えば、親ちゃんみたいな。
間違っても、小・中・高とクラスがずっと一緒だったけど、お互い顔も合わせたくないあのパー(リィ馬鹿)とは、全っ然違う感じの。
(高校卒業は、ようやくあいつと離れられるってのも、大きな喜びの一つだ)
…とか、余計な考えは置いといて。
そんなこんなで、じゃあ飯をよばれてから、旦那と違う場所に移った後で告おう──
そうすることに決め、教えられたマンション(友達の)へと向かった。
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(でっかぁ…)
目の前の高層マンションを、唖然と見上げる。
一人暮らしの友達だって聞いてたけど…
半ば疑う気持ちでロビーのチャイムを鳴らすと、家主の後旦那も出てくれたので、間違いではないらしい。
「よく来たな、佐助!」
「ごめんな、何か…突然」
「いや、構わぬ!皆も喜んでおる」
そう?と言いながら中へ入ると、
「ようこそ!ワシは、徳川家康という」
「──どうも…」
俺様も同じように挨拶し、持参した差し入れとかを渡した。
「おぉ、すまないな。さぁ、座ってくれ」
彼は、目が眩みそうな明るい笑顔で、促してくる。
「家康殿、手伝いまする」
「すまんな。──ああ、遠慮せずに座っていてくれ」
旦那と徳川さんが台所に立つ姿を、「…すんません」と見送る俺様。
…てか、何?何、あの爽やかな人?
つぅか、すげぇガタイ良いし、顔も男前──タレント顔じゃね?てか、整い過ぎくね?しかも、金持ち?
性格はまぁ、旦那の友達らしく、明るくて真っ直ぐそうな、男らしい感じの…
(顔も性格も良いって、完璧じゃ…)
いや、別に二人は恋人ってわけじゃないんだから、そんな気にすることは、
「熱ッ」
「大丈夫か、真田っ?…ああ、だから良いって言ったのに…」
「いえ、某にも…家康殿だけにさせるわけには」
…え、ちょ、なに
何なの旦那、その、ちょっとすねたような声は?
『某だって、料理くらい…嫁の務めを果たさせて下され』
『馬鹿だなぁ、ワシはお前がいてくれるだけで良いのに』
『家康殿…』
『…そんなお前も、可愛いがな』
『(おでこに)ちゅ』
(ちょっと、待ったぁぁ!!)
速攻、二人の間に割って入ろうとしたが、
「赤くはなってないが…目に入らなくて良かった」
「ちょっと飛んだだけですので、平気でござる」
(な、何だ…)
油が、おでこに飛んでしまったらしい。…いや、そんなことだろうとは思ってたけど。
少し経つと、下のロビーからの呼び出し音が鳴り、徳川さんは台所を離れた。
「…旦那、料理できんの?」
後ろから覗くと、「うわっ!」と驚かれたが、
「いや、せっかくお前が来てくれると言うから、ならばと思い…。何のごちそうでもないが、家康殿が『これならできるんじゃないか』と」
──旦那の手元には、鶏の唐揚げ。
「ほとんど、家康殿が揚げて下さったがな」
(旦那…)
苦笑する顔に胸をかき立てられて、無性に抱き締めたくなった。
…俺様のために、火傷までして作ってくれようとしてたのか…
あのすねたような声も、そのせいだったんだ…
ジーンとしてると、徳川さんが戻り、買い出しに行ってたらしい他の友達が帰って来たと、リビングに呼ばれた。
「どうも〜!前田慶次ってもんです。こっちは、石田三成。よろしくなー?」
やったらテンションの高い長髪の男に、愛想のあの字も見当たらない、痩身の男。
この二人が友人同士ってことにも驚きだが、旦那のって方が意外で、戸惑ってしまう。
「俺、雑誌見たことあるよー。本屋とかにゃあんま出してねぇみてーだけど、服屋でさ。いや、やっぱ本物は違うね!」
と、前田さんは楽しそうに俺様を眺めてくる。
…とか言う彼は、モデルの自分から見ても、服のセンスがめちゃくちゃ良い。
女の子並みの長髪も、何故か似合ってるのが不思議だ。
(しかも、でっけぇ…)
旦那と並ぶと、その違いがよく分かる。…旦那って、あんなに華奢だったっけ。
…いや、別に羨ましいとか思ってないけど?
(俺様だって、旦那よりかは高いし、…)
少なくとも、こっちの人には色々勝ってんじゃないかな。
と、暗そうなもう一人の方に目をやると、
(──あ、足長ぇー…!つか、顔小っさ!)
石田さん、だっけ?
この人、モデル以上にスタイル良いじゃん…
モデルを始めてから、『いるとこにはいるんだな、イケメンって』と世界の広さを知った自分だったが、
(何も、旦那の周りに、これだけ揃わなくたっていーのに…)
徳川さんと前田さんに挟まれて、楽しそうに笑う旦那。二人とも──てか、三人とも酒好きみたいで、乾杯から間も空けず、空き缶がハイスピードで増えていく。
…もう、グラスに注ぐ意味なくない?
徳川さんと石田さんは幼なじみで、前田さんは大学からの付き合いらしい。
誰々が旦那と同じ学科で、誰それが旦那と同じサークルで、その繋がりから四人の仲が深まったとか、楽しそうな学校生活の話を沢山してくれた。
石田さんは寡黙な人だが、旦那と喋るときは表情が柔らかくなる。
旦那も、それを受けて温かく笑う。…というか、全員に対してそんな感じだ。
俺様があぶれてしまわないようにと、前田さんの話の運び方なんかは、かなり巧みだと思う。
普通なら、感謝ものなんだけど、
(…仲良いんだな…)
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