唯一がくれる数多5







「佐助、小学校が見える!ほら!」

「ちょっ、走ったら危ないって、もう!」


枠組みだけの家屋の、二階になる場所で、二人の子供がじゃれあうように立ち並ぶ。


棟上げの大安吉日、天候にも恵まれ、その場にいる者全てが、晴れやかな顔をしていた。



(結果的には、良かったかのぅ…)

信玄は腕を組み、二人を見守る。



──あの日、早朝から佐助の姿が消えており、「どこへ」と焦っていたところに、友人から電話が入り…


『以前から、佐助くんを、養子に来ないかと誘っていた』──と。

それで、本人が来ているので、詳しい話を…との内容だったのだが。

勝手な話に激昂した信玄だったが、幸村が一人でその家に向かった後、再び電話が鳴り、


『いや、冗談のつもりだったんだが…』

佐助が本気のようで、どうしたものやら…と、何とも無責任な言い分だった。
初めの一本は、信玄をからかうための電話であったらしい。

何の相談もなしに、と怒りと寂寥に襲われたが、その理由を聞いた瞬間、一気にしぼんだ。

原因を作ったのは、ある意味自分でもある。
よって、償いの意味合いも込め、今日の晴れ舞台には、二人仲良く登らせたというわけだった。


(…幸村は、どのような魔法を使ったというのか…)


あの佐助が、今ではすっかり二人の『本当の家族』だ。
長年頭をもたげていたあれは、一体何だったのだ、と拍子抜けするほどで。

今まで以上に仲が良くなり、以前とは、少し雰囲気が変わった気もする二人。
だが、その顔付きを見ていると、心が海よりも広くなっていくのだから、自分の甘さには、ほとほと呆れる信玄だった。


「………」

座って景色を眺めている二人の後ろへ、コソッと近付く。



「佐助、もうすぐ誕生日だな。何が欲しい?」
「…って、まだ何ヶ月も先じゃん」
「そうだが、聞きたくなったのだ。なぁ、何だ?」
「何よそれ」

佐助は苦笑し、「欲しいものなんてないよ」

しかし、幸村は頬を膨らし、


「お前はいつもそうだ。…だから、毎年思うのだぞ。本当は、嬉しくないのだろうかと」

「っあー、ごめん!間違えた、言い方!」

佐助は慌てて、


「もらえるものが、俺様の『欲しいもの』なの。…旦那や大将が、俺様のこと考えて…俺様に似合うかな、これ好きかな──とかってさ。それが欲しくて、…嬉しいんだよ、いつも」

それを聞き、幸村は少しは納得した顔にはなったが、


「じゃあ、いつか何か欲しいものができたら、誕生日でなくとも教えてくれ!絶対、俺が渡したいから」

真っ直ぐな視線と、釣られてしまいそうになる、いつもの笑みを向ける。


「──うん…」

佐助も目を細め、ありがとう、と小さく呟いた。










「…お主、本当に欲のない子供じゃのう」

「!大将」

幸村は、様子を見てくると告げ、一旦地上へ降りていた。

普段は勘の鋭い佐助だが、信玄の気配に気付かなかったのは、降りた彼を目で追っていたせいだと、すぐに予想がつく。


「世の中の子供が全員お主のようなら、親は皆、苦労せずに済む」

そう笑うと、佐助も同じく返し、


「毎年考えはするけど、思い付かないんで。…これより他は」


この謙虚さが、もう一人の子供にも少しは移れば良いのだが…と、苦笑いしてしまう信玄。

──しかし。



「儂の目はごまかせぬよ、佐助」

「え?」

信玄は、あの豪快な笑顔で、


「お主らが大きくなった暁には、儂から盛大な祝いを贈ろう」












「本当かっ?この家を、俺に下さると!?」

「うん。大人になったら、ってさ」


「ふぉおおおお!お館様ぁぁぁ!!」

…餅まきが終わった後、二人は外で遊んでいたのだが。

その最中知らされたビッグニュースに、幸村の頬がバラ色に染まる。



「──して、お前は何をもらったのだ!?」


(………)


その質問には、「…あはは…」と口を濁す佐助。




『お主には、本当は唯一欲しいと思うとる、「アレ」をくれてやるわ。…ただし、』





(…絶対に、消すもんか)


自分は、信玄以上にこの顔が大好きなのだから。
そして、彼が好きだと言ったもう一つの顔は、この存在の前でこそ、有ることができる。

あの頃とは違い、今では本物になった、この笑顔。


もらった贈り物の中でも、一番嬉しい。

…これが、向こうにも同じものを与えていたのだと、教えてくれたから。



「大人になったときの、お楽しみ」

へへ、と隠すように笑えば、


「む──…約束だぞ」

少し拗ねたように、…だが、大人に近付こうとしてか、それ以上駄々をこねない唇。

それと、バラ色から桃色に薄まった頬が目に飛び込み、



(『大人』って、精神的なのと実年齢、どっちでの意味だろ…)


できれば、前者だと良いのにな──と。

それも隠すよう、幸村の手を取り、微笑む。


桃色が少し濃さを増したのを見て、胸が高鳴る。

…が、自分も同じ色を宿しているとは、思ってもいない佐助であった。







‐2012.1.29 up‐

お礼&あとがき

漫遊様、相互ありがとうございます!

佐幸でほのぼの、と下さったのに、佐幸なのか、ほのぼのなのか…(--;)

こんな設定アリでしょうか、と許可頂こうかとも考えたんですが、お優しい漫遊様のことなんで、嫌でも絶対オッケーなされるぅぅ(><)と思い。

結果こんな話になり、本当にすみませんでした; 私は、アホみたいに細かいリクを押し付けたというのに…(@_@;)

佐助はとことん甘く、幸村がワガママだったりと、激しい捏造申し訳ないです。
謝るところは全てで、完全に私のやりたかったもの三昧でした。

このような者ではありますが、これからもよろしくお願い致します(´;ω;`)
本当に、ありがとうございました。


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