思いがけない休日5



「あのっ、違うのです、これは『修行』で…っ」

「修行…」

幸村の声に意識が戻ったらしい小十郎が、その手の拘束を解いてやる。


「政宗殿は、某のために…ですが、某が抵抗して」
「…………」
「『女子』の気持ちを知る修行でござる、決しておかしな…っ」

「──分かってる」

小十郎はボソリと呟き、幸村を目にしたまま、険しい表情に変わっていく。


「それ…で、……」
「?片倉殿…?」
「いや、まさか…政宗様も、そこまで…」
「???」

ブツブツ言う彼の顔を幸村が覗くと、小十郎の目にあるものが入り、


「それ、は…」
「?…あ、それは、慶次殿が…」

「前田が…!?」

「(ぅわっ?)」

くわっと仁王のような形相になる彼に、内心縮み上がる幸村。

小十郎は、慶次の垂らした鼻血の跡を、目が飛び出さんばかりに凝視している。


「おい、大丈夫なのか!?切れ…病院行かねぇと!」

「えっ?…い、いえ、それには及ばぬかと…暑さに弱いだけだ、と」

「んだと!?あの野郎、何勝手なこと言って…熱のせいじゃ、済まされねーだろうが!」

「あっ、でも『善処する』と…恐らく、今度は触っ──」

そこで、幸村は自ら成長の遅れを暴露しようとしていることに気付き、口を閉ざしたが、




「どこに、…触る…だと…?」




「(…お、お館様よりも…)」

その迫力に勝てるわけもなく、幸村は、そっとその場所を指した。




「──前田と政宗様は、しばらく留守にするかも知れねぇ。…って、信玄公に伝えておいてくれ」

「え、あの…」

「…いつでも相談に乗る。気が向いたときに、連絡しろ」


最後はわずかに涙ぐみ、小十郎は壊れたドアを飛び越え、出て行った…。














(…何やら、ドッと疲れた…)


そういえば昼食もとっていない、と思いながら、幸村はアパートから自宅へ戻る。

すると、玄関先に人影が…


「旦那!!」

「あ……」

佐助が駆け、幸村に飛び付く。


「っ、佐助っ?」

「旦那、家出したかと思った!帰ったらどこにもいねーし…っ、俺様が悪かったよ、ごめん、ごめんな…!」

力強く回してくる腕と、その胸の中は、珍しいことに汗ばんでいた。


(…バイト先から、走って…?)


今日も終わりは夜になると言っていたが、しかし、仕事はキッチリやり遂げる彼だ、いつもの何倍もの力を発揮したのだろう…



「さ、すけ……俺の、方こそ…」


──今思えば、彼の言葉が正しかったのかも知れない。
『修行』したと言っても、少しも耐性が付いてない現状が、それをまざまざと物語っている。


「いや、ちゃんと謝らせて?…旦那が悔しかった気持ち、すごく伝わったってのにさ、俺様…。──でもさ、旦那を馬鹿にしたっていう奴らの気持ちも、ちょっと分かったかもなんだよね」

「何…?」

佐助は苦笑すると、


「そいつら、本気で言ってなんかないよ。ガキなんだねぇ…旦那に構ってもらいたいがために、からかってんの」
「か、ら…?」

「うん。仲良くしたいんでしょ……旦那が、こーんな良い子だから」
「っ!」

普段聞かぬストレートな褒め言葉に、幸村は目を丸くする。

だが、佐助はニコニコと笑うばかり。


「さっ、ちょっと早いけど、ご飯にしよう?今日は作り置きのもんで悪いけど」
「いや、そんなっ」

元々、今日は信玄も飲み会で、二人だけの予定だった。
佐助が帰る前に、食べておくつもりだったのだが、


(何と意地の悪い…)


今朝、顔を合わせなかったことに対しても、罪悪感が一挙に湧く。


「旦那…」
「…すまぬ……朝、も……」


今度は、自分から佐助に抱き付くと、幸村の頭に優しい手が降りた──…










「旦那〜、座って座って、早く」
「おうっ。すまぬ、待たせて」

風呂から上がると、ソファで佐助が手招きする。
隣に座ると、彼がリモコンの再生ボタンを押した。

佐助は、面白い映画を選ぶのが上手く、二人でよく鑑賞するのだが…仲直りには、もってこいのもの。


(やはり、佐助には敵わぬなぁ…)


涼しげに整った横顔を窺い、幸村は小さく笑みをもらす。



「旦那、俺様はいつでも旦那の味方だし、どんな悩みでも聞くからね。これに懲りずに、これからもずっと、俺様を頼ってくれよ?」

「っ!当たり前…!俺は、佐助を一番──」






『や、ぁあッ、激し、ィィ…っ!ぁ、ぁん、ぁぁぁあ……ッ!』






………………は、?





「ぅわ、いきなり?…あ〜、最初にチラッと見せて、話戻るタイプかぁ。…いや、ドラマ風のが楽しめるかなぁ、と思ってさ」



(さ、す……?)


聞き返したつもりが声にならず、ぎしぎしとぎこちない動きで、幸村は佐助に向く。

…彼は、見たこともない真剣な──また、驚くほど男前な顔で、


「今日、ずっと考えててさ……やっぱ、旦那のことが一番大事だって。俺様のことなんかより、全然。…ほら、旦那のために、たっくさん厳選して来たんだよっ?」



「(ひ……ッ!!?)」

佐助がドサッとローテーブルに置いたのは、



「ほら、これとかこれなら、全然大丈夫そうでしょ?写真も映像も、キレイなのばっかだし、超初心者向けなんだよー。俺様のオススメは、これかなぁ」

と、佐助は大量の雑誌やDVDの山から一つを抜き出し、幸村の膝に置く。



「弱点克服して、そんな奴ら、さっさと蹴散らしちゃおーね?俺様に、何でも聞いて?何だって教えてあげるから!ねっ、だん」












(──何があったんじゃ…)


リビングに倒れている佐助を踏まぬよう、跨いでソファに腰を下ろす信玄。

翌日は日曜日、久々に夜中まで飲んでいたのだが、


(家まで、この有り様とはな…)


だから、電話しても出ないわけだ。…幸村の方は、部屋で寝ているのを既に確かめていた。

飲み会中に何度もケータイが鳴り、


『申し訳ない…!自分が、必ず責任を取りますので──』


…片倉のは、一体何があったのやら。
幸村を嫁にくれとか何とか──酔っていてよく覚えてはいないが。

彼が言うには、前田と伊達の小童どもは旅に出たとか、他の住人からは、どこかの玄関のドアが大破していると苦情は入るし、長曾我部のに事情を聞いても、ひたすら謝られるばかりであるしで…



(…まぁ、今日は休み…たまには、良かろう)


信玄は細かいことを考えるのをやめ、腰を上げる。


再び佐助を跨ぎ、テーブルの上の大量の山から何本かを抜き取り、自室へと消えた…。







‐2012.1.21 up‐

お礼&あとがき

ゆや様、相互ありがとうございます!

「幸村総受け的なギャグ」という素敵リクを頂き、妄想が止まりませんでした。
変な話で本当に申し訳ないです; ギャグになれてただろうか、と思いながら。

私だけは、すんごい楽しみながら書かせて頂きました。関ヶ原+就も大好きで出すつもりだったんですが、ページ爆発してしまう警報鳴りまして、断念しました(;_;)
(というより、佐助を出し過ぎですね;)

幸村、中二でそりゃないだろう、とは思いながらも(汗) あと、慶次の、「たったことないの?」の台詞をぼやかすかどうかで、アホみたいに苦悩し、結局は。こじゅも、思い込み無理あり過ぎでした(^^;

このような者ですが、これからもよろしくお願い致します(=^▽^=)
本当に、ありがとうございました。


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