思いがけない休日4
──そして、再び数十分後。
「まっ、まさ…ッ…」
「Oh〜!Very nice、very cute!幸村、最高だぜ!」
「どっこ、が…!…こっ、れ、では…っ」
幸村は、わなわなと震えながら、
「これ、の、どこ、が、『男』…っ!!逆ではござらんかぁぁぁッ!!」
と、政宗に殴りかかる。
……セーラー服の、スカートを翻しながら。
だが、あつらえたようにぴったりのサイズで、恐ろしいほどによく似合っていた。
そして、涙混じりの目と声、赤面しきった顔で殴られても、痛くも痒くもない。
それが、悔しさと怒りから来ているものとは分かっていながら、政宗のニヤニヤはノンストップ。
「慶次が着たときゃ、そりゃーヒデェもんだったが…やっぱ、俺の目に狂いはねぇ」
「何を……もう、早く脱がせて下されぇっ!」
「Hey、hey、積極的だねぇ……嫌いじゃねーぜ、そーいうのごぉッ…!」
思い切り鳩尾に入れられ、政宗は呻きを上げるが、
「Wait、wait!これも『修行』の一環なんだって!信じろ!」
「何がだぁぁ!!」
殴られ続けても、こういうことに関しては、不屈の精神を持つ政宗。
…幸村も、最後には抵抗するのを諦めた。
「『女子の気持ちを理解』…」
「That's right。大事なことなんだぜ?」
“良いか?お前が思う分の百倍、向こうの方が羞恥を受けてんだと思え。
それと、ぜってー間違えるな?女ってのは、男みてぇに単純な躰じゃねぇ。男が巧くなきゃ、地獄を味わうことになんだ。
そーいうの理解してる奴こそが、女から本当の意味でモテる…それが、真の漢──この俺が、良い例だが…”
「Understand?」
「…女子を大切に、というのは、分かりました……が…」
幸村は政宗を見上げ、
「しかし、某は男で…、これで、理解できるので…?女子の気持ちを」
「Yes。女が受ける恥ずかしさを克服できりゃ、お前の『男度』も、てっぺん極めるってモンだぜ」
「さ、ようで…っ」
幸村が、ビクリと身体に力を入れる。
「Oh〜、イーい反応だねぇ」
「(ぅぅ…)」
不敵な笑みを浮かべ見下ろす顔から逃れたくて仕方がないが、上から乗り掛かられ、許されない。
『女子の羞恥を知るの巻』──政宗が真剣に稽古をしてくれているのだと信じきり、幸村は必死に彼に応えようとしている。
…慶次のベッドで押し倒され、膝の横を撫でられ、幸村は身をすくめていた。
「や、なに、を…っ、ままま、まさむねどのぉッ…」
太腿に這わせていた手がスカートの裾を掴み、焦る幸村。
「Ahー?修行だろ〜?男同士なんだ、パンツの一つや二つ」
「し、しかし、何となく…っ」
このような格好をしている現実にも耐えられないのに、下着まで覗くと、ますます奇異さを突き付けられるような…
「ぃ、やだ、ぁ…、ッ、やめ…っ」
一気に顔を茹で上げ、両手で必死に押さえる。
すると、政宗は幸村の脚の間に入り込み、
「にぇぇぇぇぇぇ!?」
「ほーら、見えちまうぜ〜?」
両膝の下に両手を入れたかと思うと、素早く脚を持ち上げ、スカートの下を覗こうとした。
「やややめっ、政宗どの、やめて下されッ!」
「ほっせぇ脚…鍛練サボってんじゃねーか?」
「そ、んな、──ぁッ」
政宗が太腿を裏側から強く掴むと、幸村はくすぐったさに身をよじらせた。
「…しょーがねぇなぁ、もう脱がせてやるよ」
「ぁ…」
その言葉に、幸村はホゥッと大きく息を吐く。
やっと着替えられる、と乱れた吐息を落ち着かせていると、政宗はセーラー服のスカーフをシュルッと外し、
「えっ?」
「…だーれが、終わりなんざ言ったよ?」
「(ひぃッ…)」
幸村を横向きにさせたかと思うと、後ろに手首を回させ、スカーフでギッチリまとめてしまった。
先ほどの台詞を耳のすぐ傍で囁かれ、幸村の頭と身体が戦く。
「Partyは、始まったばっかだろーがよ」
「ぱぱ、パーリィじゃなく…っ」
スカートのファスナーを降ろされ、上の服の方も、『ぷち、ぷち』とボタンが外されていく。
いよいよ覚悟を決めると、
『ドドドドド!!』
「「!!」」
突如響く轟音──決してそんなものには聞こえないが、それはドアをノックする音で…
「政宗様!こちらにいらっしゃるのでしょう!?居留守を使っても、無駄ですぞ!」
(片倉殿──)
アパートの住人ではないが、政宗の幼い頃からの世話人らしく、こうしてたまに彼の部屋を訪れ、母親のように面倒を見て行く。
「今日は、○○家(こちらの親戚)へ挨拶に伺うとあれほど…!先日のように、お父上の顔に泥を塗る真似は許しませぬぞ!…おい、前田ァ、いるんだろが!?今すぐ開けねぇと、テメェも容赦しねぇ…!」
「「──……」」
ぞぉぉぉっと、顔色を蒼くし、目を合わせる二人。
幸村は悪いことをしていないのに、それでもそう怯えさせるものが、彼の声にはあった。
「(Sorry、幸村!俺ァ逃げるぜ!まだ死にたくねぇからよ!)」
「(ま、政宗殿、これ…っ)」
「(続きは、また今度な!See you!)」
「(あっ──)」
政宗は、素早く玄関の靴を手にし、ベランダから外へ逃走。(運良く、一階)
『バァァァン!!』
「政宗様ァァァァ!!」
破裂音とともにドアが吹き飛び、小十郎が飛び込んで来る。
「逃げッ、…──オメー、は…」
幸村の姿を目にし、若干怒りの勢いが薄まる小十郎。
「大家んとこの…遊びに来てたのか?」
「ぅぁぁの、ぃえ、その…」
今にもズレそうな布団を肩で持ち上げようとするが、上手くいかない。
「?どうした…?」
「ぅわ、だめ──」
当然、小十郎は怪訝そうに布団をめくり、
「───……」
…沈黙した。
それもそのはず、手首を後ろで拘束され、服とスカートはずれ、胸と細い腰が露に──しかも、幸村の目元は少し腫れている。
(片倉殿、固まって…)
穴があったら入りたい、…心の底から思った。
[ 22/69 ][*前へ] [次へ#]