ハッピーエンドレス5





『え…っ、あのとき、伊達っちもいたの!?俺、てっきり…!』


幸村が、タンコブを冷やしながら話をすると、慶次は、見事なまでの間の抜けた顔を披露してくれた。


彼の誤解は、小十郎の車の前で話す幸村たちの姿を見たときから、始まっていたらしい。

ちょうど、政宗がしゃがんで姿が隠れていたので、慶次には二人きりに見えた模様。

しかも、幸村は赤面し、小十郎は彼の肩に両手を置き、見つめ合って──

…いたように、映ったのだという。



『な、んだー…そうだったのか…』

『…しかし、あれが片倉先生の真似だったのだとは…。似ても似つきませぬ』


『あはは……やっぱり』

頭をかきつつ、苦笑するしかない慶次。


その顔を見ていると、幸村の中で、仔犬の鳴き声のような音が、小さく聞こえた。

クゥーンだとか、キューンだとかいう、あのアレだ。

しかも、何やら胸の辺りが、むずむずとこそばゆい。


何とも不可解な、と思いながら、



『慶次殿、』


頭で考えるより先に、口からこぼれた言葉。


直後、何度も聞いたせいで、その音の正体を嫌でも理解した幸村だった。














「おっはよ〜、幸!伊達っち!」


がっし!と後ろから、二人の肩に両腕を回す慶次。


「Shit!朝から暑っ苦しい!」
「おおおはようございまする、慶次殿!」

「うん、身体大丈夫ー?」
「は、はい!もう、万全でござる!」
「良かったぁ」

ニコニコと幸村を眺め、頭を撫でまくる慶次を、政宗は白けた表情で眺める。


「Ha、何か知らねぇが、上手くいきやがったワケか?」

「伊達っち、ありがとな!お前って、マジ男前!超cool!今度、何かオゴるから」

「Haーha…このhappy野郎…」

慶次を睨む政宗だったが、隣に並ぶ幸村の、同じようなハッピースマイルに、腹立たしさは消えた。


「…こういう状態の人間には、何を言っても苛々させられるだけさ。ましてや、普段からイラつく人間なら、尚更」

三人の後ろから、スッと現れた半兵衛。


「竹中殿、昨日はご迷惑を…っ」

「その様子だと、もう平気そうだね。良かったよ。迷惑だなんて、とんでもない。体調が悪かったのも、誰かさんのせいみたいだし、幸村くんは、何も気にしないでくれたまえ」

「それ、俺の話?てか、普段からイラつかれてんのか、俺?言っとくけど、お前よりかはマシだって。お前が振りまくウザさ、どんだけか知ってる?秀吉のさ、」


「ではね、幸村くんに政宗くん」

半兵衛は華麗に、昇降口から二年生の教室に向かおうとしたが、


「ちょい待ち!…今回は、本当にお前にも感謝してんだ」

と、慶次が引き留め、何かを手渡した。


「…?何だい?」

「秀吉の、セクシーショット☆」


「ブッ!?」という音とともに、政宗が戦いた顔で二人を見る。

もちろん、幸村は何も分かっていない。


「要らないよ。どうせまた、夢吉くんのふざけた写真なんだろう」


(Ohー…、騙され経験済みかよ…)


これが我が校の誇る、知将名高い生徒会副会長なのか…と、げんなりする政宗。


「いやいや、今度のはマジだって!撮るのに苦労したんだからな!?受け取ってくれよ」

ぐいっと押し付けると、慶次は、不思議そうな顔の幸村に、違う話題を振り始めた。



(…セクシーショットって…)


無言で写真を取り出す半兵衛の横から、政宗が覗いてみると、


「ふん。やるじゃないか、慶次くん」

「…って、ただのいかつい寝顔じゃねーか!どこがsexy!?」

半兵衛には、相当な侮辱だったらしく、ギロッと睨まれる政宗。


「何を血迷っているんだい、君は…。よく見たまえ、この皺の寄った眉間、少し開いた唇。これをそうだと言わずして、何をそれだと言うんだい?」

「深ぇ…。知将の考えるこたぁ、俺ら凡人にゃ分かんねーぜ、なぁ幸村──アレ?」


気付くと政宗と半兵衛だけになっており、行き交う生徒たちが、物珍しそうに二人を眺めていた…。












「慶次殿、ホームルームが始まってしまいまする…」

「まだ、時間あるじゃん。もー少しだけ!」

学校の屋上──朝の始業前。当然、こんな場所に来る者など、他には誰もいない。


「すぐに、休み時間が来まするのに…」

「だって、二人きりにはなれねーだろ〜?だから」

と、慶次が後ろから笑顔を見せる。


幸村は、絶賛赤面中。顔だけではなく、身体中から放熱状態。

それもそのはず、ベンチに座る慶次の膝に、前を向いたまま背中から身体ごと『抱っこ』されているという状況。

慶次が顔を傾けると、長い髪が流れて、幸村の視界を覆う。


「…慶次殿の髪は、良い匂いが致しまするな。初めて会った日も思いましたが…」

「マジで?嬉しいねぇ。幸の好きな匂い?」


子供がじゃれるように、幸村の肩や首に頭を擦り付ける慶次。

幸村は、くすぐったさに小さく笑いながら、

「そうですなぁ。桃…のような…」


「そっかそっか〜。じゃあ、移してやるな。腹減ったとき、幸せな気分になれっかも」

意味不明なことを吐きながら、慶次は、一層幸村に密着し始めた。


こちらの純粋培養少年が、ハグならば『破廉恥』だと思わないらしい事実を知った慶次。それを有用しない手など、あるはずもない。

ただ、恥ずかしさは当然のこと。友人たちの前ではしないで欲しいと、懇願されたゆえのこの行動。

許されるものなら、本能のまま、抱き付いたり手を握ったり──し尽くしたいのに。むしろ、見せ付けてしまいたい。


「自重するためにも、これが必要なんだよ。てことで、毎朝やろうな?」

と、爽やかな笑顔を、さらに見せる。

きっと、恥ずかしがって俯いてしまうだろう。その可愛さに悶える準備をしていると、


「では…明日からは、もう少し早めに登校致しませぬか…?」

おずおずと見上げてくる、真っ赤な顔。


予想は外れたものの、夢のような台詞とその表情に、慶次の心臓と血は沸騰寸前。


昨晩の、幸村からのあの言葉と顔は、一生忘れないだろうと思った。が、

この調子では、同じように永久保存されるものは、増え続ける…その覚悟も、決めておかねばならないようだ。



「なるべく言うの我慢するけど、


──好きだよ。…大好き」




「……ッ」


爆発しそうな幸村を見て、ますます幸せを噛み締める。

その姿だけで、同じほどのものを返してもらえたのが、充分伝わってきた。


一方、幸村は、『びっくり箱』は一生拒むことができないようだ、と諦めの境地になりながらも。…その笑みは、目の前の彼と全く同様。


呆れるほどの爽やかな二人のラブラブさに、かえって周りは、味方に付きたくなる。

無敵の笑顔に、怖いものはなし。

そうして、彼らは平和と幸福を、自分たちのみならず、周囲にも無限に拡げていったのだった。







‐2011.10.22 up‐

お礼&あとがき

雪乃様、相互ありがとうございます!

お任せというお言葉に甘え、どうしようもないものを放出してしまいました。
本当に、申し訳ないですm(__)m

慶幸でしたが、脇役を食い込ませてすみません。結果、激しく長くなってしまいました;
甘も、中途半端だという…。

幸村の方が頑張った感じに。
ラブラブにしたく、幸村も慶次に負けないように〜としてたら、こんなことに。
半兵衛は、愛ゆえに暴走。

沢山謝るべき部分はあるのですが、まとめてごめんなさいで失礼します。

このような者ですが、これからもどうぞよろしくお願い致します(*^^*)

本当にありがとうございました♪


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