バカップル万歳!3
幸村は、唖然とした顔で佐助を見つめている。
「旦那…」
「──…」
「え?」
幸村の呟きに、佐助は聞き返すが…
「佐助の──……大馬鹿者ォォォ!!」
「ごはッ!!?」
鋭い一撃が腹にめり込み、佐助は悲痛な唸り声を上げる。
──顔も、せっかくの男前が、非常に残念なことになっていた。
「ぇ……な…ん──で…」
「……ッ」
幸村は、怒りの形相で、
「それは、俺の方が言いたい!…何なのだ、一体!?お前、言っておったではないか、嫉妬などする相手は、鬱陶しくて敵わんと!」
「……へっ…!?」
(いつ!?)
思い巡らすが、幸村にそんなことを言った覚えは全くない。
「だから、俺は…っ。──本当は、何度も何度もしておったわ!お前は、昔からずっと周りの注目の的で!知らぬ間に、何人もの方と親しくなっておるし、街中で必ず知り合いの女性に──でなくとも、声をかけられるし!部屋の中には、贈り物ばかりが増えておるしで!」
「え……」
「…この間も、かすが殿たちと、何やら秘密めいた話を…。──『チャンス』とは、…その彼女の話をするための…という意味であろう」
「や、あの…っあれは、その」
「──何故、怒鳴られねばならぬのだ!?…俺が、どのような思いで…っ…」
「──旦那…」
佐助は、やっと元の顔に戻り、神妙な態度で幸村に近付くが、
「佐助など、もう──」
…そう上げた顔に、止まった。
「……っ」
幸村は顔を背け、バタバタとリビングを出て行く。
佐助は、固まったように動けずにいたが、
──ガチャガチャッ──バタン──
「……!」
その音に、すぐさま廊下へ飛び出した。
『──俺様ばっかり、めちゃくちゃ惚れてて──』
その言葉だけが頭に響き、幸村は思い切り首を振った。
(…都合の良いところばかり、思い出すな…)
音楽室での佐助を思い返し、正すように、呼吸を整える。
──夜の公園。…小さい頃、よくここで遊んだ。
「…いくら旦那でも、風邪引くよ」
「っ!」
見上げると、傘を手に立つ佐助の姿。
…と言いながら、自分もずぶ濡れである。
幸村を見つけてから、広げたらしい。
座る幸村を雨から守るよう、その前に立ったまま黙っていたが、
「──…俺様、全然覚えがなくて…。いつ、言った?そんな…嫉妬されるのが嫌だとか」
(な…んだ…と…)
幸村の怒りは、再燃してきたが──
…………………
『聞いた〜?あいつらの話』
『またヨリ戻したってね。飽きないよねーホント』
『彼女、すげぇ嫉妬深ぇのなんのって。俺、よく相談受けるんだけど』
『無理だわー…俺様。ああいう子、絶対ムリ。萎える』
『さっけ、そーいうの淡白だもんねぇ』
『嫉妬深いのは醜いよ。…俺様、よく知ってるから』
『さすが、モテ男。俺も言いてーなぁ』
…………………
「──と、慶次殿と話しておるのを、聞いた」
「…………」
佐助は、幸村の隣へ座り、傘を手渡した。
「…佐助…」
「もう小雨になってきたから。…それに、今さらだし」
と、濡れ鼠の自分を嘲笑する。
「──それで……旦那、我慢してたの?焼きもち妬くの…」
「……そう……だ」
詰まりながらも、幸村は頷いた。
「…しかも、昔から…?何度も何度も…?」
「そう──申したであろう…っ」
「それってさ、もしかして…」
「…嫌われたくなかったからだ。昔から、お前のことを慕っておったゆえ。…なのに…俺がしていたことは、結局──」
傘が、転がった。
──ゆっくり離れる、佐助の顔。…幸村の、同じそれから。
「…初めては、“雨の味”…?」
呟いた後で、「ぶはっ」と吹き出す。
「──な、何を…」
「ごめんごめん。あまりの台詞と、旦那の顔に、我慢できなくて」
幸村は、未だに何が起こったのか、実感がない様子。
「旦那が、今までで一番嬉しかったことって、何?」
「え?」
佐助は、これ以上ないくらいの笑顔になり、
「今、俺様さぁ……それの、何百倍も嬉しくて、幸せ!」
「──……」
一瞬、何もかもが頭から消え、その顔に魅入ってしまう幸村。
「…旦那にオッケーもらえた日と、同じくらい」
佐助は微笑みに変わり、「ごめん…変な誤解させちゃってて。──でも、嬉しい」
「誤解…?」
うん、と佐助は、
「それはさ……自分見てるみたいで、嫌になるから──って意味だったんだ。嫉妬深いのは、俺様のこと。本当に、醜い…」
「……え……」
佐助は、きまり悪そうに、
「旦那にも嫉妬してもらいたくてさ。そしたら、俺様も少しは好かれてるのかなって、安心できると思って──てか、安心したくて。…どんどん苦しくなってきてさ」
「な…っ!俺は」
「うん、ごめん。…本当、俺様が情けなかった。自分のことばっかで」
実はね──…と、佐助は『あの計画』を、幸村へ白状する。
聞いている内に、驚きと、…それが、徐々に怒りへと変わっていく、幸村の表情。
「…だよね。殴られて当然」
(………)
だが、自嘲するような佐助の顔を見ていると、自分への想いがゆえ…というのが思い出され、赤面する。
…幸い、頭を下げる佐助には見えていなかった。
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