塞がれ募るは、6
借り物競走のカード内容は、分かりにくいものだけアナウンス席からの説明が入る。
旦那と俺様は大いに笑われていたが、他にも似たようなのがいたし、簡単に予想がつくものだったので、説明はなく失格にもならなかった。
…腕に残る感触を、さっさと消さなければ。
そんなことを思いながら帰り支度をしていると、「用ができた」と友人らに置き去りにされ、一人廊下を歩く。
「佐助、ちょっと良いか?」
「…っくりしたー…!まだいたんだ…」
いきなり旦那が現れ、驚いてる内に空いた教室に促された。…以前までは、よく雨の日に弁当を広げていた場所でもある。
「明日の休みは忙しいと言っておったから、今日渡しておこうと…学校の方が、確実だと思ってな」
「え…?」
割と大きめの袋に入った物を渡され、中を開けてみると、
(これ……)
それは、メンズ物のバッグ…だったのだが。
「どうしたの…これ、…え?」
「いや、だから…一日早いんだが」
「──ぁ」
(…完璧忘れてた)
明日が、自分の誕生日だということを…
つまりは、本当は予定なんか一切ないくせに、嘘ついて旦那の好意を無下にしたってわけで、しかも、
(こんな高いの……あ、)
夏休みのバイトに行き着き、頭と胸の中で鈍い音が鳴った。
「実は…な、皆が協力してくれたのだ。先輩たちも…お前が『一番喜ぶもの』は、これだと教えて下さって。渡すまではバレぬように、佐助とあまり会わぬ方が良いと」
「……」
俺様は、何も動かない。
表情もないままだったが、旦那は照れ臭さからかこちらを見ずに、何かの封筒を出すと、
「あと、これ……」
「………」
それを受け取ったものの、俺の頭は上手く切り替えができなくて、
「…んな……」
「え?」
「こ…んな、もんのために、ずっと……
あんなに……俺様から、離れてた、…ってわけ…ッ?」
「ぇ──」
旦那の驚く顔。
当たり前だろう、本当なら『ありがと、旦那!』と、感激とともに返すべき場面なのに、
…俺という奴は
「ぁ…、の…」
「全然嬉しくない……誰が言ったよ、これが一番欲しいって?俺様は、こんなの…
こんなもんより、旦那と一緒に夏休みいられる方が、何倍も嬉しかったのに。二年間しかないのに、貴重な休みをこんなことに使って……ひどいよ。ひでぇよ旦那……俺が、どんだけ…」
「さす、け……、」
激昂しそうになるのをどうにか抑えると、手の中でぐしゃりと封筒が折れた。
「旦那が高校来んの、どれだけ楽しみにしてたと思う?学年違う分、行き帰りくらい一緒にいたって──それが楽しみで、ずっと待ってたのに…そんな理由で離れるなんて。
俺様のためだったんだろうけど、こっちは、もっと我慢してたんだぜ?夏休み、どこ行こうか何しようか、すげぇ考えてたのに…全部、あいつらとやりやがって」
つい口が悪くなり、自重するためにも一呼吸置いた。
だが、次に出たのは、
「…これがずっと続くのかと思ったら、本当に辛かったよ。頼むから、二度とこんなのしないで。気持ちは嬉しいけど…」
「佐助──すまぬ…!」
ずっと何か言いたそうだった旦那は、とうとうといった様子で頭を下げると、
「っ…、お前は、こんなにも優しい友でいてくれるのに、俺は…ッ…人に頼って、あまつ、お前を傷付け…!
すまぬ…、皆に勧められたとはいえ、俺は打算的な考えを……後では叶わぬと思うて、佐助の喜ぶ顔を、先に見ておきたかったのだ…」
上がった顔はくしゃくしゃに歪んでいて、俺様は自分の粗相にまた痛くなるが、
旦那は、一つ息を吸い、
「佐助を、──友としてではなく──好いて……しまった。それを、伝えようと…」
「………ぇ?」
何……言われ、た?…今……
旦那が、……、俺……、…を……
「…ぃ……つ……なん、で…」
嘘だろ、と出かかったが、旦那が嘘をつくわけがないしで。…隠し事はしようとも。
助かったのは、そんな俺様相手に旦那は、まだ照れて俯いたりなどしてくれたこと。
「もう随分前からのようで、俺にもよく……友人に告げられた際、『想う相手がいるので』と言うと、あっさり見抜かれてしもうてな。彼らが、お前へ告げるのを是非協力させてくれと…つい、それに甘えてしまった…」
(……ってことは、)
あの、旦那にコクった奴も、
旦那の取り巻き連中も、
さらには、俺様の友人二人まで、
皆…
(全部知ってて、旦那の応援を…)
──は、本当だろうけど。…俺様に対しては、絶対楽しんでたに違いない。
…あいつら、俺様があんなに悩んでたっつーのに…!何て鬼畜生な奴らだよ!!人間じゃねぇぇ…!
っは、
いやいや、今はそれどころじゃない。
えと、で、俺様、どうやったら、この状況からカッコよく、
(…なんて無理か。んな暇がありゃ……)
「旦那、俺様もそう。…俺様も、すき。友達としてじゃなく、旦那が好き。ずっと昔から好きだったけど、いつの間にかそうなってた。…だから一緒にいたい。離れたくない……離れないで、もう二度と…」
いつも近付き過ぎて、その大きな意味を見失いそうになる。
…でも、今度こそは本当に思い知ったから。
「──……」
旦那は、俺様の倍の時間は固まり、目を見開いたまま蒸気を噴出し続けていた。
普通にしてるときの方が、数段端整であるのに、可愛くて愛しくてたまらない。
これからまた前のように……前よりも近くで一緒にいられるなんて、…何て……
「──ぁっ、あぁありが、とぅ、佐助……俺も、もう二度と、佐助を悲しませたりはせぬ。…俺も、ずっと好き…で、やはり、ずっと一緒にいたかった…」
そう笑って見せてくれた顔が、全てを温かくしていく。
俺様の手の中の封筒からこぼれた紙は、見覚えのある赤色をしていて、
『愛する人を抱えて、ゴールイン!その後はお好きなように。
(いなければ、校長もしくは担任でも可)』
“──お前が『一番喜ぶもの』は、これだと……”
…そういう意味かと気付いて喜び半分、これを書いたであろう体育祭実行委員の生徒から、また噂が流れるのではないかと戦々恐々した俺様。
が、これも彼らが仕込んだものだったと後に知り、
『バレてもシャレにしか思われねぇよ』
『あ、噂とかハナから嘘っぱちですよ?』
などとのたまわれ、本気で嫌われてんじゃなかろうかと、しばらくは人間不信にならざるを得なかった…。
‥おまけ‥
「でも、このバッグはありがたく頂くね。…やっぱ、すっげーかっこいー…ホントは、憧れのヤツだったんだ。まさか、高校生の分際で持てるなんて…本当にありがとう、旦那」
「う、うむ…良かった…」
(…そんなに良い顔で言われてしまえば、『嬉しくないのだろう?』と、からかいもできぬ…)
「これ、見た目こんなシンプルでオシャレなのに、超使いやすいの。ほら、意外と中広いでしょ?丈夫だし飽きが来ないデザインだしで、一生もんだよ。俺様、死ぬまで大事に使うからね」
「お、おぅ……ありがとう」
(──あーもー…、かわいい、なぁ〜…)
………………………
「てか、男子校で良かった」
「何故?」
「旦那ってば、俺様以外にもモテちゃって…女の子がいれば、もっとだったかも知んないじゃん」
「…まさか」
旦那は、このとき相当に冷や汗をかいてたらしい。何故なら、
(似たようなことを……女性に会う機会が減ればと、佐助がこの高校に進学するのを願っていた──なぞ、言えるはずが…)
…結局、後で知ることができたんだけど。
『制服が似合いそうだと思ったのは、本当なんだ…!』
必死な顔と合わせ、同じほどの想いを再確認できちゃって…
柄にもなく運命の神様とやらに、こっそり頭を垂れてみた俺様だった。
‐2012.7.20 up‐
お礼&あとがき
ゆず様、リクエスト頂きましてありがとうございます!
「佐幸の学パロ、佐助目線」という素敵リクを全く生かせず、本当にすみません。全てを強調した上でイチャラブにしたかったんですが、叶いませんで(;_;) せめて学パロらしさだけは、とやってたらこんな長文に…(--;)
家近くなんだから夜会えば…は、都合よくスルー。
タイトルは、ことわざ『堰(せ)かれて募る恋の情』(第三者からの妨害があるほど…って意味)から。タイトル名に苦悩し、ケータイ辞書検索してたら発見しまして。『せかれて』って馴染みのない言葉だったんで、『塞がれ』に。
旦那がケータイ持ったのは合格後だったので、全然慣れてません。佐助のために、頑張って毎日メール送りました。本当は電話したいのに、佐助の言葉を真に受けて。その健気さに、友達たちはニヤニヤキュンキュンしたり。
佐助が後輩の練習見るのが楽しいのは、もちろん旦那がいたから。(無自覚)
これ以降の長期休暇はバッチリ遊び、学校でもラブラブ。佐助の心に余裕ができたのか、両方の友達と皆で過ごしたりするようにもなりました。来年は受験生だけど、旦那との時間のために効率よく勉強し、高校最後の夏休みも堪能したはず(*^^*)
ゆず様、こんなことで申し訳ないばかりですが、良かったらまたお越し下さいませ^^
本当にありがとうございました。
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