塞がれ募るは、3







あれは、中学三年の夏休み。

部活の引退試合となる大会の後、部の女子マネージャーからコクられ、付き合うことになった。
かなり可愛い子だったし、理想が高いらしい俺様にはぴったりだと周りからも推され、自分も初めてのシチュエーションに大分得意になっていた。

『らしい』というのは、俺様が恋愛に淡白で、それまでずっとそういう話に縁遠かったせいだ。

だけど……



…………………………



(あーあ…。また見に行けねー…)


放課後は、彼女と過ごした後家まで送り、土日の昼間はデートの日々。
部活を引退してからも、後輩の練習や試合の応援を定期的にやるつもりだったのが、なかなか上手くいかなくなっていた。

その日は彼女を送った後、再び学校に戻り、いつものように旦那(俺様と同じサッカー部)が着替えて出てくるのを待っていると、


『今日も先輩迎え来んの?』
『毎日毎日大変だよなー。俺なら、そのまま帰るけど』

『…ですよな』

旦那の沈んだ声に、部室を開けようとした手が止まる。


『夜はお前の家庭教師だって?先輩受験生なんだから、真田も遠慮してやったら?』
『新婚ホヤホヤなんだしさ、邪魔しちゃ気の毒じゃん』

『はい…』


──今思えば、旦那はあのときも『破廉恥!』と叫ばなかったな。

それに気付く余裕がないほど…だった、ってことなんだろうけど。



…………………………



「俺様、勉強見んのやめないよ?」
「え?」
「それと、今週の試合見に行くから。練習も、週に二三回は」
「…しかし……」

「あとさ、彼女と別れた」
「──はっ?」

「ちゃんと考えて話して…で、フラれた。大丈夫、穏便に終わったし」
「…、…だ…だが……」

「皆の練習見たり、旦那と一緒にいるときのが何倍も楽しくて、彼女といるときは部活以上に疲れてるって気付いてさ。だから彼女送った後、家で待てなくて旦那迎えに行っちゃうみたい」

「──さすけ…」


「…彼女とか、もう大人になるまでは良いや」


あんな思いをするくらいなら。



(…旦那が、俺様から離れていくなんて)


想像しただけで足許の地が脆くなり、周りの景色は色をなくした。


あり得ない

自分の隣に彼がいない世界なんて。

間違ってる。


……間違ってた。





「そう、…か……」

こういう話だからこそだろう、旦那は他に言葉が見つからないようだ。
けれど、俺様にはそれが一番ありがたい。


「俺も…まだ、そうしたかったから、その…」
「…旦那、かわいい。いい子いい子」
「んな…ッ!」
「良い意味だってば。愛情、愛情。好ましいってこと」

そう言えば、うっと詰まり反論してこなくなる旦那。

下がったり上がったりの眉、への字を描く口、それらを置く赤い顔を見ていると、


(やっぱり俺様は、これが一番…)



それからはもう、女の子から申し出されても、一切心が動くことはなかった。














「…で、それが彼女作んねー理由?」
「うん。──旦那、まだかなー」

今日は委員会の集まりがあり、終わった後友人とダベっていた。
旦那の方はまだみたいで、メール待ちの身だ。


「俺はそういうの気にしねーから、安心しろな?んで、いつコクんの?」
「は?」
「だから、真田に。好きなんだろ?」
「──はいぃ!?」

俺様は一気に目が覚め、「何でっ?」


「お前そう言ったじゃん」
「いや…っ、そりゃ人間として好きって意味でさ!」
「真田そのものが、ってことかー。すげーなぁ」
「そ…ッ…」

「猿飛先輩、ちょっと良いですか?」
「っ!?」

教室に残ってた何人かの一人が、いきなり話しかけてきた。どうやら一年生らしいが、



「…何?」
「俺、真田と同じクラスなんです」
「あ、そーなんだ…」

彼に促され、人気のない場所へと移った俺様たち。…旦那の話か?と窺っていると、


「真田、俺の他にも仲良い奴いるんですけど、これからは俺らと一緒にさせてもらえませんか?登校下校、昼飯も」
「……は?」

「噂になってますよ?先輩が、真田狙いだって」


「──…」

そのときの、俺様のショックと言ったら。
ついさっきこそ、友人の言葉に目をむいたばっかだっつーのに。


「真田は気付いてないけど、あいつが先輩の話する度、皆から興味津々な目で見られてます。…真田のこと、そんな風に見てるんじゃないんですよね?」

「あ、たり、前……」

友人との話を聞いていたのだろう。…それは、説明する手間が省けたけど。


「じゃ、先輩も迷惑ですよね。真田には、上手く言っときますから」
「…あ、うん……」

衝撃に混乱したまま、俺様は一人で下校した。











それからの俺様の気分は、一転。

旦那の前ではいつも通りでいられたけど、それ以外は電池が切れたように虚ろだった。

一年の頃でも、ここまで無気力だった覚えはない。むしろ、旦那が合格するよう、俺様も力入れて勉強を見る日々だったし、合格後は、四月が来るのが楽しみで仕方なくて…


「じゃあね、皆によろしく」
「おぅ…」

朝の、駅に着くまでが唯一二人でいられる時間。弁当を渡すと、俺様は先に乗車する。
旦那は、一本遅い電車で友達の皆と乗り合わせていた。


(旦那……)


ホームから手を振る姿に、俺様も軽く手を上げる。

恐らく旦那の友達は、


『俺らとも友達だろ?それに、先輩の方も、友達といる時間取っちゃ迷惑じゃん?』

とでも言い含めたのだろう。
旦那が、嫌でも頷きそうな要素が二つも入ってる。


(早く、夏休みになんないかな…)


旦那と顔を合わす朝は嬉しかったけど、駅に近付くにつれ逆になっていく。ならいっそ一人で…と思うのだが、弁当を渡しに早めに家へ行っても、旦那は常に準備万端。

向こうも、俺様と少しでも一緒にいたいと思ってるのは、聞かなくても分かる。…なのに、何でこんなに離れてなきゃいけねーの?


(…俺のせいで……)


よくよく考えりゃ、違う学年同士が弁当を…しかも二人きりなんて、目立つに決まってた。見られてたとしたら、俺様はヘラヘラデレデレしてたんだろうし、誤解されるのは必至だろう。

しかも、男子校。噂が立つのも無理はない…気もする。友人によると、密かにそういう関係の人らも少なくはないらしいしで。

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