塞がれ募るは、2



「制服、似合ってるよ」

朝よりも板に付いてきたように思えたので、つい今朝と同じ言葉がこぼれた。

だが、旦那は嬉しそうに笑って、


「お前も、学校で見る方がしっくり来ておった。やはり佐助によく似合うな、これは!」
「やっぱり?ま、男前だからどうしてもね〜。周りには気の毒だけどさぁ」

「言っておれ」

苦笑する旦那に、俺様もいつもの調子で軽く笑う。



“やはり佐助に……”


(そういや、あれ聞いてからだったっけ…志望校決めたの)



『ここの高校は、制服が格好良いなぁ…佐助によく似合いそうだ』


それからは、調べれば調べるほど今の学校が気に入り、男子校だという点も大した問題ではなくなっていった。


「そういえば、俺が行くまで何を話していたのだ?彼らと」
「え、何で?」
「いや、すごく楽しそうにしておったから」
「あー…」

そう、今日は朝から『何か良いことあった?』と、友人にも会う度必ず言われていた。…理由も、薄々自覚していて。


「俺様モテるよなーって、褒められてた。あ、『持てる』じゃなくて、女の子にって意味ね」
「──そうだったのか」


(…あら?)

その反応が意外だったので、


「てっきり『破廉恥』って叫ぶと思ったのに」
「お…俺も、もう高校生だぞ。…し、かし、佐助はすごいな。共学でもないのに」

「ほら、行き帰りの電車とかでさー?」
「あ、あ……なる、ほど」

成長は、わずかなものでしかないらしい。いつもの反応を、『やっぱ、旦那はこうでないと』とほくそ笑み、彼に手を振った。

俺様の家もすぐ近くで、ケータイをいじりながら歩く。

新規メールを開き、


『さっきの冗談。今日は、入学式だったからさ。これからまた二年間、よろしくね』



…旦那、これで意味分かるかなぁ?

とは思っても、『今日から旦那と通えるのが、朝からずっと嬉しくて』なんて、まさか書けるわけがない。そんな恥ずかしい…恋人じゃあるまいし。

ケータイをポケットに入れ、着いた家の先で鍵を出そうとすると、


「佐助!」
「!旦那ぁっ?」

瞬間移動でなければ、駆けて来たに違いない。何事?と近寄れば、


「おれっ…も、楽しみ…っ…だった!朝から、嬉しくて…!こちらこそ、これからまた、よろしく頼む!!」
「──…」


(わっ、わざわざそれ言いに…?)


メールですりゃ、済むことなのに。
だいたい、いつもはすぐ気付かないか、電話で返したりするくせに…

必死に追ってきた様子と、さっきとはまるで違う嬉しそうな顔に、胸が痛くなった。『正直に言っときゃ良かった』っていう、罪悪感だろう。


(…と、思うんだけど)


何故か緩みそうになる口元を抑えるのに、やけに苦労が要った。

「こちらこそ…」と、同じような台詞で上手く返した後、また旦那ん家まで付き合い、

帰ってから、『何やってんの俺様』と当然思ったが、一人であるしで、今度は遠慮なく苦笑した。













入学式から約三ヶ月が経ち、七月の初め。

快晴ではあるものの、風があり涼しかったので、屋上で昼食にしていた。


「ごちそうさまでした!今日も大層旨かったぞ!いつもありがとう、佐助」
「いえいえー」

その輝く笑顔は、毎日拝んでも一向に飽きない。


(あ〜、可愛いな〜…)


旦那の言う通り、これまでもしょっちゅうそれを言ってた俺様だけど…
友人たちの言動に乗せられたのか、日に日に旦那がそう見えてきて、それまでのように軽く口にできなくなっていた。


(言おうとすると、何か恥ずかしくなんだよね…)


まぁそれはともかく、こうして授業以外は旦那といられて、以前より断然、充実した学校生活を送っている。

中学では二人とも部活をしていたので、自由さが桁違いだ。弁当を作るようになったけど、その分早寝早起きの生活になり、不思議と成績も上がった。

よって、健康状態はすこぶる良好、入学式の日以上に、上機嫌な日々の連続なのである。


「いつもこんなに作ってもらって…俺も、何かお前に返しを、」
「だからいーってば、そんなの。俺様の分のついでなんだし、料理の勉強にもなるしさ」

「ぬぅ…しかし…」
「その気持ちだけで充分だよ」


(てか、あの顔がご褒美みたいなもんだし)


口走りそうになるのを抑え、中断していたケータイの操作を再開。
すると、


「何を見ておるのだ?」
「…ちょっとぉー」
「また靴でも買うのか?」
「いや、ただ見てただけ…」

隣の旦那が、俺様とケータイの間にヒョイッと割り込んできた。
つまり俺様の視界は、旦那の後頭部で一杯に。

風の流れに乗り、栗色の髪がふわりと揺れる。


「…旦那、シャンプー変えた?」
「!?すごいな、分かるのかっ?」
「俺様鼻利くし…つーか、結構匂い強いしさ」
「そ、そうなのか…?」

旦那は後ろ髪を手に取り、鼻先に運びながら、


「クラスの友人にもらってな。気に入りのシリーズなのだと」
「へー…、そい…友達も同じ匂いの使ってんの?」
「いや?俺にはこれが似合いそうだ、とな」

「ふーん…」


(……男が男にシャンプーやるとか…どうなの?)


さっきまでの楽しかった気分が、急激に下がっていく。
よりにもよって、この旦那に?タオルや、ダンベルとかなら分かるけど。

それは表情にも出ていたようで、「変か…?」と、旦那が不安げに聞いてくる。


「…旦那が気に入ってんなら、いんじゃない?別に変な匂いじゃないよ」
「だ、だが…そんなに匂うのか?」
「いや?近付かなきゃ分かんないし」

「──では、やはりやめておく」

え?と聞き返すと、旦那は俺様から少し離れていて、


「佐助、昔から強い香りは苦手だったものな…」
「や、臭くないってば!それに、普通あんな近寄らないし」


「……佐助に近寄れなくなるのは、困る」





──どうしよう。


旦那がすっごい可愛くて、何か異様に緊張してきた。
…いやいや、何で?何で緊張?
おかしいでしょ、普通はほっこりなるとこでしょ、可愛いんだからさ、ほら。

あれ?でも、旦那のこの顔のどこが可愛いんだろ?落ち込んだ顔してるのに。



(……あ、そっか。可愛いのは、顔じゃなくて──)


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