ねじれる3
「旦那、その上着良いね」
「そ…そうか?」
幸村は照れたように、
「孫市殿が贈って下さった物だ」
「へ〜。良い趣味してんねー。俺様も、ここの店好き」
「そうだったのか。…俺、似合うか?」
「うん、似合う似合う。新発見だね」
「そ、そうか…。ありがとう」
佐助は、沈黙した。
「…佐助?」
「旦那、…また明日ね」
夕陽を背にした佐助の顔は黒く陰って見えない。
だが、その髪が一層赤く燃えていたのが異様に目についた。
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見覚えのある服が前方に見えた。
――あれは自分が贈った物。
後ろ姿を追う。…珍しくキャップを被っているが、あの背格好は間違いない。
しかし、走っているわけでもないのになかなか追い付けない。
スッとその背が曲がり角へ消えた。
「幸村…」
そう手を掴むと、グイッと引かれた。
直後、抱き締められる。
驚いた孫市だったが、胸をときめかせながら受け入れた。
奥手な彼は、未だに手すら繋ごうとしない…。
「…駄目じゃん、間違えるなんて」
「!?」
声が違う。――そう思った瞬間、地に叩き付けられた。
頭を思い切りぶつけ、目の前が白く光る。
「彼女失格だねぇ。そんなことじゃあ」
「お……前…」
顔は見えない。だが、その声は。
「よっぽど欲しかったんだね、抵抗もしないでさ」
「な…ん……で」
衣服が破られる。
音だけが妙にリアルに聞こえた。
「……綺麗、だね……」
孫市は戦いた。…まさか、こいつが自分に対してそんな思いを?
どちらかと言えば、逆な…
――そこで、理解した。
「ねぇ…。俺に、くれない?これ…お願い。……頂戴…」
自分が何を言っているか分かっていないのだろう、その声は完璧に異なる世界の住人のものになっていた。
「……」
「その顔も……全部。頼むよ……。俺、このままじゃ…」
声が震える。
孫市の脳裏に、幸村の笑顔が浮かんだ。
「嫌…だ」
睨み上げ、
「絶対にお断り…だ。あいつは……私のもの…だ」
その美しい桃色の唇を歪めた。
孫市の上に影が被さる。
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「…い…ち…殿、…孫、市、殿――」
幸村はひたすら嘆く。
拭うことなく両目から涙を流して。
…その腕に、動かなくなった彼女の身体を抱きながら。
「旦那…」
佐助の頭に、昔見たあの聖母の絵と、猫の死体を抱いた幸村の姿が浮かぶ。
幸村が腕を震わせると、彼女の赤茶色の髪が揺れた。
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