とある純情物語3
(……腹ァ、くくれ)
もう、決めたのだ。
いつまでもウジウジとするなんて、彼が一番呆れそうな女々しさではないか。
どう思われようと、これが自分なりの…
「…うしっ」
気合いを入れてから部屋の奥へ戻ろうとすると、玄関のチャイムが鳴った。
『ゲッ』と、下着一枚姿の自分に焦り、シャワーが流れる浴室を慌てて見るが、
『朝からすみませぬ、幸村でござる』
(ああ……)
ならこのままで良いか、と元親はドアを開けた。風呂上がりなどはパンツ一丁がスタンダードで、幸村も見慣れている。
「おぅ、どしたぁ?」
「──っあ、じ、実は、昨日ケータイを忘れてっ…」
「へ、マジでっ?わりぃ、全っ然知らねーで──ちょ、待ってろ?」
「す、すみませ…」
自分のものを使い、幸村のケータイを探し出し、
「入れたまま、布団畳んでたわ。電話してくれりゃ、届け行ったのに……幸村?」
「………」
浴室の方を呆然と見ている幸村に、元親は怪訝な顔をするが、
「…あ、はい、お手数かけて…」
「いや。…何か顔色悪くねーか?」
「えっ?そんなことは…いつも通りでござるよ!あ、ありがとうございました、また明日!」
「あっ?」
バタンとドアが閉まり、幸村は走り去ったようだ。
(何だぁ……?)
元親は首を傾げたが、『ま、いつものことか』と苦笑した。
さてと、と部屋からタオルを持ち出すと、浴室のドアの傍らに置いてある、ランドリー用の二段カゴの上に入れる。
その下から制服のスカートがスルリと落ち、面倒そうに拾うと畳んで入れておいた。
文化祭もすぐ間近に迫ったある日、
「アニキ、最近良いことでもあったんすか?」
「ん?…あー…、良いことっつーか…」
「羨ましいっす」
何がだよ、と笑うが、舎弟たちはそれ以上はつついてこない。
すると、近くの席の幸村が立ち上がったので、
「お、もう帰んのか?」
「あ、はい。今日も練習が早くて…」
「そか、頑張れよ」
手を振ると、幸村も笑みで返す。
最近、大会後の反省鍛練とかで、放課後はさっさと帰る日が続いていた。
「女に振られたみてーな顔してますぜ」
「…アホか」
舎弟たちにからかわれ、内心ドキリとする元親である。
「最近ツレねぇですよねぇ。彼女でもできたんじゃないすか?」
「あり得ねー」
「分かりませんぜ?兄さん、結構モテてるじゃないすか。こないだも、女子たちが…」
「…お前ら、言ってねーよな?」
ギロッと凄味を出す元親に、彼らは慌てて、
「まさか!言えるわけねーっすよ、鼓膜破られたくねぇし」
「だろだろ」
それで良い、という風に頷く彼に、
「(見てみたくもあったけどな…)」
「(だいたい、過保護過ぎなんだって)」
「(しっ、聞こえるぜ)」
と、ヒソヒソ言い合う舎弟たち。
知らない内に、大層同情を買っている幸村なのだった。
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そして週末、いよいよやって来た文化祭当日──
出店を二つ出しているので、クラス全員がてんやわんやである。
愛らしいウサギやクマの被り物をした生徒は、付き添いが一人付き、食べ物を売りに出回っていた。
他にもコスプレをして宣伝する者は、全学年にいるので、誰が誰やらな感じにもなっているが、
(あいつ、どこ行った?)
所用から出店の方に戻ると、幸村の姿がない。
まぁそれならそうで、と元親は近くのクラスメイトに、
「なぁ、結局アレ誰が着てんだ?」
「え?…あー…」
元親は笑って、
「何だよ、やっぱ誰もやんなかったんだろ?」
「いやぁ…」
その彼が、隣の女の子に助け船を求めると、
「…元親くん、落ち着いて聞いてね?」
「超可愛い!超似合う!キャ〜!!」
「真田、俺と付き合おう!(笑)」
「おっ前、美脚過ぎ〜」
「ちょっとどいてよ、私らが先だってばっ」
わらわらと群がる生徒たちの中心で、困った顔で、また照れたように笑う幸村。
その傍らで、売り子の生徒が「撮りたきゃ、買って下さいね〜♪」と、笑顔で押し売り。
幸村は、学校の制服をさらに可愛くアレンジした衣装をまとっていた。──ただし、女子の…であるが。
スカート丈は腿の半分まではあるが、その身長からして脚の露出は結構なもので…
男女に関わらず、そのスラリとした二本に、陶酔の眼差しを向けられている。
髪には、三つ編みのカチューシャなどが着けられて──いるだけだというのに、制服と全く無理のない、奇跡のコラボレーションを起こしていた。
「……元親殿…」
ようやく客が引き、場所を変えようとしたのだろう。幸村はすぐ近くで見ていた元親に驚き、付き添いの生徒は青ざめる。
が、
「おぅ、お疲れさん。あとは俺がやっから」
いつもの調子で二人に言うと、売り子の彼は出店に戻らせた。
そして、
「あの…っ?」
「………」
無言で幸村の手を引き、使われていない教室へと連れ込む。
イベントものからは離れており、中も外も静かで閑散としていた。
「…どーいうつもりだよ、それ」
「あ……」
幸村は、自分の姿に赤面すると、「じゃんけんに負けまして…」
「嘘つくなよ」
「…嘘じゃ……」
「どーせ、泣き落としにでも遭ったんだろ?ったく…」
「………」
呆れたように大きく息を吐く元親に、幸村の顔はますます下に傾く。
「笑わぬのですか…?」
「…いや、笑えねぇし」
「何故……」
幸村は、スカートの裾を掴み、
「わ……笑われる、ための……これで、しょう?…どうして、怒…」
「や、怒ってんじゃ…」
はぁ、と洩らすと、
「お前、こんなの死んでも嫌がるじゃねーか?俺はなぁ、それが嫌なんだよ…そんな我慢してまで、やることねーだろうが」
「………」
だが、幸村の顔は上がらぬまま、
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