咲かせる毒にて8



「俺様、もっともっと頑張るから。旦那が、もっと自慢したくなるような、立派な…」

が、幸村は苦笑し、


「もう、既にそうだ。…嬉しいが、少しだけ寂しいな。…お前もきっと、ひと度外へ出れば大勢の人に囲まれ…」


(あんな風に、綺麗な女性と…)



「でも、どれだけの人にそう思われても、旦那一人の力には敵わないよ。…毎日、旦那のこと考えて、ここまで来られたんだ。これからも、ずっと…」

「……そ……う、…か…?」


──佐助がそう言うのなら、…それで良いか。

幸村は自身を納得させ、微笑が湧くのを感じた。



「それで、きっとそんな役者になって……次こそは、あのドラマの主役を獲ってみせるから。で、」


(ずっと隣で、俺様の一番のファンに、…)


佐助の腕に、力がこもる。





「……っつ、」

「!ごめん、痛かった?」

佐助は焦り離れるが、


「あ、いや、違うのだ」

幸村は笑って、Tシャツの首の中に手を入れると、


「これだ、これ。外しておけば良かったな」



彼の手のひらで光る、

……二つのリング。




「………これ」

それぞれの内側に彫られた文字を見ると、佐助の表情に険が漂い始める。


「政宗殿と慶次殿に頂いたのだ。少し遅れの、合格祝いだと。良いのに、と言ったんだがなぁ」

「合格祝いぃ…?」


(…普通、時計とかじゃ……いや、それも嫌だけど)


「嫌?」
「あ、いや、何でもない」

だが、佐助はその二つを、じとーっと睨み付けていた。


「やはり、俺には似合わんだろう?だから、隠して…」
「肌身離さず……てか、肌に触れてんじゃん、直で」

「え?」

険しい顔でこぼす佐助に、怪訝になるが、


「や……出遅れた俺様が悪いんだもんな、うん…」
「??何がだ?」

「んーん、何でも」

気にしないで、と佐助は元の表情に戻り、


「ねー、旦那……良かったら、一緒に住まない?来年あたりから」
「えっ!?…い、良いのか?」

「うん。つーか、お願いします。…ホントは、実家から聞いてて知ってたんだ、こっちに来てるって。夏休み中に、会いに行くつもりだったんだけど」

「そ…そうだったのか…」

幸村は、感激で笑顔が尚輝くが、佐助の胸中はそれを遥かに上回ることを、未だ知らない。

この二年間だけでなく、それまでの過去の記憶も反省となり、佐助の頭にのしかかる。

確固たる柱無しには、どうしても打ち明けられなかった、この想いを…


(…その日にこそ、は)


リングがかかるチェーンをぐっと握ると、静かに離した。



「あの『先輩』四人も、絶対追い抜いてみせるからね」

「向こうは、佐助に一目置いておったぞ。褒められて、俺は嬉しかった」

「…そ、…そお」

その言葉と幸村の微笑に、早くもほだされそうになる佐助だったが、もう一度リングを見てしっかり立て直す。


これ以上の良物を贈るのに、あとどれほどかかるだろうか、と一瞬うちひしがれもしたが、自分には自分だけの、『特権』を手に入れた。

次は、内側の『柱』を成し、彼の中に、しかと打ち込んでいかなければ。
…自分という楔で、彼の心を。



「一緒に住めるまでも、時々遊びに来てよ。旦那さえ良けりゃ」

「俺はもちろん!…だが、良いのか?お前、忙しいだろうに」

「それが、一番の休養になりますから」

「…ならば、仕方ないな」


であるのに口端を緩ます表情は、どんなに綺麗な女優の微笑みも、どれだけ端整な俳優のそれにも、勝る。


自分も、結構な美丈夫になったつもりでいたが、やはりまだまだ敵わない──心の中で、そう首を垂れる彼であった。















「ところでなのだが……佐助は、モデル殿の中で、親しい方はおるか?」

「モデル?…いるにはいるけど、何で?」

「おぉっ、そうなのか!…いや、政宗殿たちには、尋ねる時間がなくてなぁ」

幸村は、パッと顔を輝かせ、


「大学で親しくなった方が、モデルになられたのだ。忙しくなり、今は大学を休学しておってな。…お前のように、全く音信不通の状態で。何とか、会えぬものかと…」


「……へぇー……そうなんだぁ……すごいね、大学からデビュー?」

「うむっ」

幸村は自分のことのように、それは嬉しげに笑み、

「石田殿と言ってな?とても良い方なのだ!政宗殿たちのことも、興味深そうに何度も聞かれてなぁ。そうは見えなかったのだが、ああいう世界に、惹かれておったのだろうな」


「…ぁー……そう、なんだろうねぇ……」


が、幸村の笑みは少し陰り、

「すごいことだとは思うのだが……やはり、寂しくてなぁ。…せっかく、親しくなれたのだというのに…」



「………」






「旦那って、何か出してんのかな……色んな虫が寄る、樹液的なの」

「な…っ!?何か付いておるのかっ?」

「うん。四、五匹ほど」

「何と!?おっ…お前、そんな悠長にせず、早く払ってくれっ!アブは二度とごめんだぞ、俺は!」

「この辺にゃいないよ、あんなデカいのは。…でも、それより痛いヤツかも?」


「!!佐助ぇぇ!早くぅぅ!!!」





……ですね。


悠長にすんの、やっぱやめにします。




自分が虫除けになれたら、と思うが。

駆除してからでないと、己だけの場所は確保できない予感も、強くする。


これまでの下積み以上の苦労が見え、甘くて辛い思いに、佐助は改めて苦笑いするしかなかった…。







‐2012.4.23 up‐

お礼&あとがき

冬眠様、リクエスト頂きましてありがとうございます!

素敵なネタ提供して下さったのに、あんなことですみません; 芸能界、詳しくなくて(^q^) ただ、身近にいる人間がテレビっ子で、何とか本編の幸村よりかはマシなのですが。

ドラマや映画は大好きでして。が、全くそれらしい描写も背景もできず、本当に申し訳ないです; 捏造駄ドラマ、台詞についても。

元親は、ミュージシャンとかじゃ?常時眼帯の役者?眼帯の上にサングラス?長髪、規格外ですよ?家康以外、無茶じゃ?…とツッコみながらも。

あの四人を、そうしたかったです。慶・親・家ってすごく仲良さそうだし、政宗も東軍や、アニメで慶・親と関わり多いし。何より、政&慶の(捏造)ポジティブコンビが大好きで、幸村とのあーいうのやらせたくて(^^)

三・就も出したかったんですが、上手くイメージできず; 就様、モデルとしては背がアレだろうか?と。

全員贔屓したつもりでしたが、明らかに、佐助に一番良い思いさせてますね。幸村、佐助以外には「尽くす嫁候補」なのに、彼には態度でかくて…私のせいで。「甘え」を、上手く表現したい(´`)

「ツキの神」…いわゆる「あげまん」(女の子じゃないんで、使えず;)。幸村の毒に冒されると、仕事運・健康運・恋愛運、全て上昇(*^^*)

こんなことで申し訳ないのですが、良ければまたお越し下さいませ(~∇~;)

本当にありがとうございました。


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