ねじれる2






佐助は、膝が震えた。

その身体には包帯が少々巻かれているが、もうすっかり回復している。今日は退院できる日。…だというのに。

(…何でこんなことに)

佐助の足元に転がっているのは、猫の死体。…幸村が見舞いに来てくれたときに中庭に出るといつも寄ってきて。
虎猫だったのだが、彼はものすごく可愛がっていた。…なのに。

腹が裂け、臓物と思える物がはみ出ている。轢かれたのだろう…。

「佐助、こんなところに…」
「あっ旦那、駄目」
「え?」

体力のない身体では遮ることもできず、幸村との対面を許してしまう。

「……」
「旦那…」

幸村は、そのまましゃがんで猫に手を伸ばした。

「だっ、駄目だよ旦那!触っちゃ…」


汚れ……




佐助は、硬直する。



幸村のその姿。
哀れな猫を腕に抱くそれは、

…あの青い聖母を彷彿させた。

しかし、抱いているのは白くて綺麗な赤子ではなくて。





…許されるんだ、あんなモノでも…。





――自分の幸村への思いの正体が、やっと分かった瞬間だった。













「だーんな!おっつっかれ!」
「おお!」



月日は流れ、高校生になった二人。
佐助は、跡継ぎということもあって勉学に勤しまなければならなくなったが、元々の才覚もあってかみるみるトップクラスの殿堂入りを果たし、それが現在でも続いている。
痩せていた身体にも肉が付いて、今では幸村に負けないほどの体躯に、身長も数センチ勝っていた。

幸村の部活が終わるまで毎日図書館で待っている。
塾に通うなど世話になっている今の家に申し訳ないし、何より幸村と一緒にいられる時間はできるだけ長く欲しい。
その為の勉強など、全くもって苦労にはならなかった。


「帰り、アイス食べない?」
「おお、良いな!」

幸村は、キラキラした顔で頷く。




――ああ……可愛い。


たまらない…



佐助の胸が、静かに高鳴る。

いつ言おう。…この気持ちを。
旦那は、色恋なんてもちろんまだしたことない。だから、驚くのは目に見えている。
だけど、この優しい人なら、恐らく偏見の目では見ないはずだ。きっと、自分の気持ちを理解しようとしてくれる。
いつも、自分のことを周りに誇らし気に語ってくれてる。自分に、一番心を許してくれている。
自分たちは、こうなる運命なんだ。

旦那は初めは戸惑うだろうけど、必ず俺を受け止めてくれる。

もう、あのときみたいに哀れで貧弱な俺じゃない。いつ、どこで、どのような雰囲気で告げればベストだろうか…



「…佐助…実はな…」
「ん?」

幸村は、アイスを食べ終わった後で、急に声を落とした。
少し下を向いていたかと思うと、佐助にゆっくり向き合う。…その頬は染められており、佐助の心臓を握り潰す。





可愛い可愛い可愛い可愛い…!




愛しくて、苦しい…



切なくて………泣きたい。



どうしてこんなに好きなんだろう。自分でも分からない。分かったところで意味もない。どうせこの気持ちは一生終わることがないのだから。


もしかして、…旦那も。


そう思い、佐助が手を伸ばそうとすると、



「実は…な。………恋人、が…できた」








「………………え?」






何を言われたか、分からなかった。

頭では理解できているけど、本当の脳は動いていない。


「…マ、ジでぇ…?…え、誰、誰?」

やっと出たのは、意外にもまともな言葉だ。


「――孫市殿だ…」

そう呟くと、幸村の顔は真っ赤になった。


佐助は、どこか遠くを見るような目でそれを眺める。


この間の体育祭で、旦那は実行委員会だったのだが、そのときに彼女と親しくなったらしい。
向こうから言ってきたらしいが、旦那も密かに気、に、な、っ、て、い、た、、、らしい


それからの話はよく覚えていない。

しかし、次の日から二人がいつも一緒にいるのを見ることになるので、嫌でも分からざるを得なかった。

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