咲かせる毒にて2
「バイトなら、良いのがあるよ!やっぱ欲しい、っつってたよな?」
「Ahー…しかし、体力使うぜー?」
「あっ、それは問題ござらん!某、力も体力も有り余るほどでして!──ですが、一体どのような…?」
「(高校生だぜ?大丈夫か?)」
「(いーって!どうにかさせる)」
「(そ…そうか?)」
慶次の自信満々な笑みを、初めて頼り甲斐があると思う元親だった。
「実はワシら、ここに来ている映画のロケ隊の一員でな…」
「えぇ!?学校で皆が言っていた、あの…!?」
「そうそう、でさ、雑用のバイトくんが倒れちゃってね〜。この暑さだし、思った以上にハードだったみたいで。で、どうかなって」
「俺らからの口利きだし、無理はさせねーからよ。まぁ、まずは話つけてからだな」
「ふぉぉぉ…!どんな仕事でござろう…!」
ますます輝く目に、四人全員の顔も緩んでいく。
その後、熱心な説得で責任者を頷かせ、彼の保護者の方にも、同じく誠意を見せ、話をまとめ…
少年の名は、真田幸村。
それさえも、何か特別な響きに聞こえてしまう面々。
夏休みまでしか一緒にいられなかったが、毎日のように現場で会え、四人の士気はうなぎ登り。
撮影は順調に進み、スタッフも、『ツキの神だ』と、幸村を可愛がる。その容姿や物腰だけでなく、仕事の優秀さにも一目置かれていた。
見た目よりも器用で、言われた雑務をテキパキこなし、空いた時間は、四人の誰かのもとへ、必ず赴いてくれる。
「まさか、俳優の方だったとは…!存じ上げず、失礼を…」
首をすぼめ真っ赤に染まる顔には、全員が全員、口を開けたまま数分は見惚れ、
「そちらの大学を受けたく思うのですが、何分田舎者ですゆえ」
と恥じらう姿には、すぐにハッとし、
「そっ、そんなことはないぞ!ここは、すごく良いところで…ワシは好きだな。(何より、お前に会えたし)…でも、外を見てみるのも…」
「そうだよっ!俺、大賛成!男なら、一度は広い世界見といた方がさ!?」
「Ahー…したら、また会えるだろうしよ…」
「都会もどこも、人はそんな違わねーよ?つーか、お前だったら、むしろ目立…」
…が、他の三人の威圧的な視線に折られ、元親はそこから先を飲み込んだ。
「………」
幸村は、彼らの言葉により、気後れやためらいが解消されたようで、
「某……頑張ってみまする!──皆様とも、これでお別れは寂しゅうござるし、嫌でござる…」
──四人は、思う。
自分たちは恐らく、彼に会うまでに、何かそういった毒物を口にしてしまったのだと。
あの日寄った観光地では、見たこともない特産品を、多く食べて回った。…きっとその中に、この土地に伝わる、身体には害はないが、他は色々と覆されてしまうような、そんな毒が混ざっていたのだ。
とでも考えなければ、納得できない。この、未知なる現象は。
と、理由(?)付けながらも…
「映画、楽しみにしておりまする」
その表情と笑みの前では、そんな葛藤は、綺麗さっぱり塵と化していく。
斯くして、この記念映画は大ヒットを納め、それにあやかり、四人の名はさらに向上した。
そして、月日は過ぎ……
「どういうことにござるか?」
バサッと、幸村が新聞を突き付ける。
見出しには、
“伊達政宗、結婚前提の交際宣言!お相手は…”
政宗は不敵に笑い、
「お前が、俺を受け入れねぇから悪ぃんだろ。何べん言っても信じやしねぇし」
「…そんな、勝手な…」
だいたい、と幸村は呆れ顔で、
「結婚など、無理に決まっておりましょう?某と政宗殿は、」
「だから、何度も言ってんだろーが?お前のためなら、いつ辞めても良いってよ」
「そのような…」
幸村が俯くと、政宗は彼の髪を優しくすき、
「Jokeじゃねぇって…まぁ、俺だから仕方ねーのかも知れねぇが。…どんだけファンがいようと、お前が手に入んなきゃ、売れねぇ役者以下だよ俺は…。あれ以来、他の女にゃ、一切手も出してねぇし」
「政宗殿…」
やはり、今までの言葉は冗談であると思われていたようで、幸村は驚いた表情に変わっていた。
「ビビっただろうけどよ…俺は、本気なんだ。少しずつで良いから、考えてくれねぇか?」
「あの、…」
素早く鮮やかな動きで、幸村の片手は奪われ、
「そんときに、コイツを反対の手の方に付け替えてくれ…」
──右手の薬指で、キラリと光る…
幸村は、その光に辛そうに眉を寄せ、
「っ!…無理でござる、某はっ…」
「…っんでだよ…!」
「あッ!」
慌てて外そうとする幸村にカッとし、政宗が彼を床に押し倒す。
片手で幸村の両手首をまとめ上げ、バタつく足は自身の脚で押さえるように、上から乗り拘束した。
「な、何を、」
「お前が悪ぃんだろ…。俺のこと、好きだっつったじゃねーか。ありゃ、嘘だったのかよ…?」
「違…っ」
悲痛に顔を歪めるが、政宗の手は止まらない。
が、シャツを脱がせたところで、
「…これは…」
彼にしては珍しいなと、現れたネックレスを手に取るのだが、──チェーンに下がるリングを見ると、その顔に鋭い険がよぎる。
幸村は、身体の苦痛は何ともなかったが、目を滲ませ、
「すみませぬ…」
「………」
…政宗の手から、スルリとリングが落ちていった。
「謝るのは、政宗の方だろ?」
「「!!」」
声の主に、二人が同時に顔を向けると、
「け、いじ殿…」
「…てめぇ」
「間に合って良かった」
政宗の怒りに向かうより先に、慶次は幸村を解放させ、静かに乱れた服を整える。
「幸は責めんなよ?俺が、誰にも…お前らにも言うなって、口止めしてたんだから」
「お前ら…」
「うん、もう一年になるかな?…っても遠恋だったから、まだまだ新婚なんだけど」
「──んで、慶次なんかと…」
政宗は、呆然と幸村を見るのだが、
「俺フラれちゃってて、ちょうど良かったよ。お前は、あの後大変みてーだったよな?そんなゴタゴタ抱えながら口説くもんだから、本気にしてもらえねーで。売れっ子で、なかなか暇もねぇしでさ」
慶次は、幸村のネックレスを見せ付けると、
「卑怯かも知んないけど…俺だって、真剣なんだ」
と、政宗に対峙した。
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