迷路は明路へと3







彼──…だろうか?



制服でないと、雰囲気が違って見える。

幸村には、ファッションセンスというものは無に等しいのだが、


(何というか…)


ラフに思えるジーンズなどは、元就のイメージではないと思っていた。

上は濃色のジャケットに、中には淡色なTシャツ。この辺は彼らしくて綺麗な色合いだと感じたが、全体的に、カジュアルでありながら整った風でもある。

──しばらく眺めていると向こうが気付き、幸村は慌てて駆け寄った。


「申し訳ござらぬ、お待たせして!」
「いや、つい先ほど来た──…」

「(あ…)」

元就の視線を受け、


「お恥ずかしゅうござる、まだ中学生のようで…。未だに服は、母上にお任せしっ放しでして」

と、苦笑いする幸村。

彼は膝下丈のパンツと、上は少し大きめで長めのカーディガンに、ボーダーのTシャツ。
ボーダーは黒×濃いピンク、カーディガンの編み目も大きめで、首を被うようにフードが付いていた。


(子供っぽいと言うより…)


視線をずらす元就だったが、ヘアゴムまで、シンプルとはいえ可愛らしいものになっている事実を知る。

完全に遊ばれ…いや、騙されておるな、と思いながらも、決して口にはしなかった。


「我も、同じようなものよ。近所の知り合いが、こういう服の店で働いておるのでな」

「しかし、よくお似合いでござるよ。某の言うことなので、あてにはなりませぬが」

元就は、いつもとは違い、


「…ならば、良かった」

と返し、

「母君のお目は確かぞ。…お前も、よく似合っておる」

と、静かに笑む。


幸村の照れ笑いが治まるまで、元就の表情は、ずっと変わらなかった…。











街の案内が一段落すると、元就の気に入りだという場所に足を運んだ。


彼らしく、『科学博物館』であったのだが、興味が引かれるもので溢れており、かなり楽しめた。
また、元就の解説というかウンチクが、会場のガイドよりも明快で、かつ面白い。

幸村は、その数時間だけで大分賢くなれた気がした。

そして、そこを出た後は、海を臨める広場にて、出店の軽食で昼とする。


「元就殿、半分こしましょうっ!」
「何…?」
「昔、よくしておったでしょう?」

幸村は、とにかくずっと笑顔で…

時間が経つにつれ、元就に対して遠慮をなくしつつある。

──何を分けるのかといえば、食後のデザート。


「某、そちらも気になっておったのです」
「構わぬが…」

その言葉に、嬉々とする幸村。


「元就殿も、変わらず好物であって良かった」

と、ドーナツを美味しそうに頬張った。


幸村が嬉しくて楽しいのは、入学日以来、元就とほとんど会えなかったから、というのもそうだが、
今日は、昔に戻ったように──また、取り戻すかのような時間を過ごせているから…、であった。


「あれ?毛利じゃん」
「おー、偶然」

三、四人の男性グループが、親しげに元就へ寄ってきた。

幸村に「すぐ戻る」と言い、元就は彼らと少し離れた場所へ移動する。


(………)


彼らは楽しげに盛り上がり、時折幸村の方を見ては元就に何か言い、笑っていた。


「──待たせた。習い事の、同窓の者たちなのだ」

「ああ…」
「では、行くとしようか」

幸村が食べ終わると、元就はすぐに次の場所へと促した。











やって来たのは、遊園地。


意外だったが、きっと自分が好きそうだから──と、選んでくれたのだろう。

…と、思うことにしておいた幸村。



「あっ!」

幸村が、ゲームスペースのパンチングマシーンを発見し、


「久々にやってみてもっ?」

と、顔を輝かせる。

許さぬ道理もない。元就も、立ち止まった。



──『ズバァンッ!!』


凄まじい音が鳴り、直後に響き渡る派手なファンファーレ。
高得点が出ると聴くことのできる、称賛のメロディである。


「すっげぇ!」
「え、出したのあの子っ?」

周りからも、驚愕の声が多数。


「うーむ…。まだ、満点には届かぬ」
「充分であろう」

相変わらずだ、と言わんばかりに、元就は苦笑した。

それからは、色々な乗り物を堪能し──…


「元就殿、迷路でござるっ!しかも…『ミラーハウス仕様』であると!」
「ほう、懐かしいな」

人気がないのか、ゲートの辺りは閑散としているが…。
古い洋館をイメージした、不思議で妖しげな壁の絵が、一層雰囲気を漂わす。

入場してみると、…思った通り、客は誰一人いない。


『カツーン…コツーン…』


鏡の“館”も意識しているからか、やたらと靴音が響く。

鏡だけでなく、間間に屋敷をイメージした絵も並び、鏡なのか壁なのか。錯覚が錯覚を呼び、普通のものよりもさらに迷宮である。

進むのも退がるのも困難だ。

だが、それを攻略していくのが醍醐味。二人は、楽しみながら道を探り当てていく。


その内、少し広めの場所に着いた。
壁が多角形を成しており、天井には絵やビロードのカーテン。
絵がかなり細かく、宝石箱だかおもちゃ箱だかをイメージした部屋らしい。

色使いが、ビビッドだったりダークだったりで、…絵のタッチもちょっと恐ろしげだ。
人影の絵が幾つも並び、自分とは逆側の壁を見ている元就の背が、それに同化してしまいそうだった。



「──元就殿?」


本当にそうなったのかと、一瞬ヒヤリとする。
彼の姿が、いつの間にか小部屋から消えていた。


(わざと…であるよな?)


ここへ来たルートではない、数個の出口を一つ一つ覗くが、元就は見える範囲にいない。


(某の攻略能力を、試して…)


幼い頃、謎々でもクイズでも、ちょっとした勉強でも、出題・解説は彼の役だった。

己のために、それをまたやってくれるというのだろう、…が。

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