迷路は明路へと1
ゆあ様、ありがとうございました♪
素敵リク「就と幸で、カップル成立してなくてもOK、ほっこり話」
→就幸に。幼児〜高校生。※かなり長文
就→←幸(友情〜恋へ)な感じで、恥ずかしいかも。長い道のりです、本当申し訳ない;
ほのぼの〜ちょいギャグ?
学パロの二人を気に入って下さったとのことなので、番外編的なのにしようかとも思ったんですが…、自己欲が止められず;
就と幸の、どっちの思考も書きたくて、シーン入り乱れです。いきなり回想入ったり。
全てにつき、すみません。私服はオシャレなのってことで、また;
学パロの二人っぽくないとこもあるんですが、愛だけは込めました(^^;
(全5ページ)
毛利さん家の元就くんは、非常におりこうさんなお子様である。
幼稚園ももうすぐ年長という歳で、街の地理や建物のほとんどを理解しており、行動範囲が半端ではない。
防犯グッズは抜かりなく、単独で外出するのは、彼にとっては至極簡単なことであった。
今日も、そうして外へ出回っていると、
「うわぁぁぁああ……!!!」
『ドン!!』
「っ!?」
大地を裂くような轟音が近付いて来たかと思いきや、元就の背中に鋭い痛みが走る。
「──っ、な、ん…」
息を詰めながら振り返ると、
「ゔぇッ…、ひぎゅっ…、…あぅぅっ…」
──頬と目を真っ赤にし、涙と鼻水にまみれた顔。
(…迷子…)
聞かなくても分かるその様子に、元就の肩が下がる。…恐らく、自分よりも幼い。
「ごごぁ、…どっ、でござ…っ?○○ちょ、ぉ…っ……?」
ひぐひぐとなりながらも、懸命に土地名を尋ねてくる。
だが、残念なことに○○町は、この辺一帯を広くそう呼ぶ地名だった。
「それはそうだが…」
元就は、その子の首から下がっているキャラクターものの財布の裏に、名前や電話番号を記した紙が入っているのを見付ける。
「そこに交番がある。あの角を、右に曲がって…」
『ぎゅうぅぅぅ』
(!?)
またもや、内心ギョッとなる元就。
指していたのとは逆の方の手を、しっかりと掴まれていた。
それはひどく熱くて、しかも汗ばんでいる。
──だが。
(………)
昔から、知能も精神年齢も、他の子たちより遥かに高かった元就。
合わない彼らと関わるのをやめ、もう随分と長い。
手を繋ぐなど、両親とも久しくしていなかった。
「…こちらだ」
「!」
そのまま軽く引いてやると、掴まれる力が少し弱まり、涙も止まる。
しゃっくりの方はまだ長引くようで、しばし無言であった。
…手のひらに伝わり来るものが、熱くて仕方ない。
「ぁ、りが、とう…ござい、…まする…」
嗚咽に抗いながら、彼は丁寧に謝礼を口にする。
「それ、がし…さなだ、ゆきむら、と…もうしまする」
「…我は、毛利元就という」
「もうりもとなり…」と、噛み締めるように呟く。
名残惜しそうに見上げてきたが、交番の前まで来ると、幸村は大人しく元就から手を離した。
少し離れた場所で様子を窺っていると、父親らしき人物が慌てて交番に入っていくのが見え──
手を引かれ出て来た幸村の明るい顔は、遠目にもよく分かるほど。
元就は、ようやくそこを後にすることができた…。
![](//img.mobilerz.net/sozai/1645.gif)
「もとなりどのぉーっ!!」
飛び込んできた元気の良い声に、教室にいる全員が、振り向く。
「また来たのー?」
「もうこの組の一員ね、幸村くん」
先生たちも、仕方なさそうに笑うしかない。
「せんせいにはおゆるしをいただきました!もとなりどの、えほんをよんでくだされ!」
「ああ…」
両手に何冊かを抱え、幸村が傍に寄ると、元就も軽く頷く。
何と、二人は幼稚園の新学期に再会し、元就は驚いたのだが、幸村はひたすら大喜びであった。
あの出会いの数日前に引っ越してきたらしく、幸村は元就の一つ年下。
だが、お構いなしに、毎日元就の教室へやってくる。
元就も、流されるまま彼と過ごすようになっていた。
「もとなりどのは、よむのがほんとうにじょうずですなぁー。としょかんのかたよりも、すごいでござる」
「…そうか」
既に何度も聞いた言葉なのだが、幸村は飽きることなく口にする。
無駄な労力にしか思えないが、元就は、どうしてか遮ったことはなかった。
正しくは、その際見せる幸村の顔に気をとられ、いつもその一言を返すだけで終わってしまうのだが。
しかし、幸村は(これも理解不能だが)嬉しそうに笑うのだ。
そんな、何の飾りもないつまらぬ言葉だというのに。
「きのうはおもしろくなかったでござるよ、ようちえん」
「そう…なのか」
今は、すごく楽しそうな幸村であるが。
珍しいと思うとともに、何かあったんだろうか、と元就の気が掛かる。
彼がそうなるなんて、よほどのことだ。まさかとは思うが、誰かに嫌なことをされたのか…
「おやつのプリンもドーナツも、あんまりおいしくなかったので、もっとつまりませんでした」
(何と…)
プリンやドーナツは、元就も好物。それが不味かったなど、大変信じがたいニュースである。
「幸村くんは、本当に元就くんが好きねぇ」
クスクス笑い、先生の一人が二人のもとへやって来る。
「「…え!?」」
『好き』という言葉は、おもちゃやお菓子に対してや、女の子が男の子、お父さんがお母さんを、といった場合にしか使わないと思っていた二人。
元就すら、子供らしく目を丸くし、先生を見返した。
彼女は未だに笑い、
「昨日、元就くんお休みしたでしょ?お家の事情で。だから、寂しかったんだよね?幸村くん」
「「──…」」
元就がそうなるのは分かるが、何故か幸村までひどく驚き、言葉を失う。
「元就くん、嬉しいねぇ?ずっと仲良くね、二人とも」
ニコニコと二人の頭を撫で、先生は他の子たちの方へと立ち去った。
「………」
しばらく、考えるように黙っていた幸村だったが、「…おおっ」と顔を明るくすると、
「だからだったのですなぁ、きのうおもしろくなかったのは」
と、にっこり笑う。
「それがし、もとなりどのとあそぶときが、いちばんたのしゅうござる!」
「──…」
返答に詰まる元就を、いつもの如く気にもかけず、
「もとなりどのが、すき──だからなのですな…っ!」
友人相手には言ったことがないからだろう、…一瞬つまずき、頬を赤らめたのは。
元就が、表情を変えぬまま幸村を見るので、幼心にも焦りや照れが急襲したらしく、
「え、えほんを…」
と、おずおず差し出してくる。
「──ああ。…」
元就も、ハッとしたように受け取り、少ししてから流暢に読み聞かせを始めた。
…………………
「あしたも、あさってもしあさっても、ししあさっても、またきまする!ずーっと!」
幸村が笑えば、元就の頬も(これぞ機微というものであるが、)柔らかくなる。
こうして、元就が卒園するまでの一年間、二人がセットでいる様子は、一種の名物となった。
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