つまりは結局4







「…で、あれは、…でして…」
「おぉ」

「──が、──で、──でござる」
「ふーん」

「…ですが、…だったり…」
「うん」


「………」


「──ん?どした?」

急に黙る幸村に、元親が顔を向けるが、


「…具合でもお悪いので?」
「はっ?何だよ、いきなり」

「いえ、先ほどから口数が少ないので…」


「…いつもこんなもんだろ。てより、お前が喋り過ぎなんだよ、いつも」

「………」

それもそうか、といった顔をした後、幸村は話題を変える。


あの、里親を募集していた仔猫の引き取り手が見付かったらしい──という話から発展し、一向に減らない『捨てられてしまうペット』について。

将来の夢が『地球の平和を護る者』である彼なので、日頃から心を痛めている問題の一つだった。


「どうすれば、なくなるのでしょうなぁ…」

「…さぁ…」

気のない返事に、幸村はムムッと、


「やはり、さっきから変でござる、元親殿。本当に、ちゃんと聞いておられまするかっ?」

唇をひねり、元親を見上げる。





「──分かんねーよ。…俺、頭悪ィから」

「え?」

何を言われたのか分からなかった幸村が、きょとりと目を見開く。

その仕草にさえ、元親の胸はざわめき、


「…お前が分かんねぇのに、俺が分かるわけねーだろ」

と、ぶっきらぼうな口調で放った。


「あ、の…」


「何で隠してやがったんだ?キャラ作りってヤツか?…んだよ、『リチカ』って。よく考えりゃ、無理過ぎだよな…あんな漢字読める奴が、里親くれぇ読めねーわきゃねぇし」

「えっ?いや、それは」

慌てる幸村に目もくれず、元親は自嘲するように、


「俺、馬鹿みてー…つぅか、その通りなんだけどよ。…お前よりデキるとか、ふんぞり返ってて。あー…マジ騙されたわ」

そう笑うと、幸村に背を向ける。


「『目指すは正義のヒーロー』とかの話もよ。…んな振りすんの、もうやめといた方が良いぜ?嫌味にしか思われねぇから」

「──…」

言葉をなくし突っ立つ幸村をチラリと見てから、いつもより大股歩きでその場を去った。














(──俺、何言ったんだ…)


あれから数分ですぐに目が覚め、激しい後悔に襲われた元親。

だが、今時ケータイを持たない幸村に、まだ素直になれるその手段でも謝ることすらできず、時間だけが経ち…


気付けば、既に運命の試験の日。

確実にパスする気持ちで励み、準備は万端ではある。…のだが。


幸村は、あれ以来学校に来ていない。
周りは、いつものことだと気にしておらず、試験勉強のためかサボりがちだった政宗も、それと同様であった。

元親の胸中だけは違い──だが、日が経つにつれ、顔を合わす勇気が萎えていく。

今日の試験が終わったら、必ず面と向かって…と、考えていた。



「幸村の奴、おっせぇな…忘れてんじゃねーだろな」

もうすぐ朝のホームルームが始まるという頃になり、政宗が苛々と窓の外に目をやる。

元親も同じ思いで、ジリジリするが、


(まさか…)


と席を立とうとすると、担任教師が困惑顔で教室に入って来る。


──元親の頭に、嫌な考えがよぎった。












(ここか…)


ゼェゼェと切れる息を整え、玄関のチャイムを忙しく鳴らす。

「はーい」という声とともに、ドアが開き、自分よりは年上に違いない青年が出て来た。

恐らく『彼』だろうと、元親は姿勢を正し、


「あの、俺…」


「何しに来やがった、クソガキがぁーッ!!」


(へ──!?)

突然向けられた鋭い拳を、寸でのところで避ける。


「なっ、ちょっ、いきなり…っ」

「うっさい!その風体──アンタでしょ、ウチの子苛めた、眼帯銀髪。…わざわざ、そっちから出向いてくれるなんてねぇ。覚悟はできてるって解釈で、良んだよね…?」

『サスケ』だと思われる彼は、禍々しいとしか言いようのないオーラを噴出させ始めた。


「あー…と、…怒ってますよね、幸村…くん」

(↑呼び捨てにすると、斬られそうだったので)


「…それなら、まだ良いよ。

──旦那はねぇ、昔からとびきり優秀で、中学のときも常にトップだったんだ。…でも、それ以外があまりに『純粋』なせいで、逆に周りの反感買って…、アンタが言ったようなことなんか、友達になった子に必ず言われてさ、いつも離れられて」

くぅっ、と涙?を拭い、


「アンタは、今までの中でも一番ヒドい。『頭の良し悪しなんて関係ない』とか言っときながら。…旦那、そりゃあ喜んで、毎日のようにアンタの……それにも腹立つけど、旦那を傷付けたことは、万死に値するよ」


(あ…)



『では、関係なく、親しくして下さいまするか…!?』


(あの嬉しそうな顔は、それで…)


合点がいくとともに、元親の心は後悔に沈む。


「旦那は嘘なんかつけない。いつだって本気なんだよ。勉強が嫌いで避けたがるのは、苦い過去のせい。それと、頭良いくせに天然だからさ…、たまにおかしな思い込みすんの。簡単な言葉を知らなかったりね」

ふん、と鼻を鳴らし、

「同じ読みだと思うくらい、ずっとアンタのこと考えてたんでしょ…それがこんな奴で、俺様としては非常に残念ではあるけど?」


「──すんません!」

「あっ、ちょっと勝手に…っ」

制止する声を後ろに、元親は家に上がり込んだ。


「幸村…っ?」

「元親殿!?」

リビングでのんびり寛いでいたらしい幸村が、驚きの表情で振り向く。

…テレビ画面には、彼が好きだと言っていた、特撮ものが映っていた。

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