つまりは結局2
「では、某と同じですな!?嬉しゅうござる!」
(……)
こぼれ落ちそうなほどの笑みに、ああ、やっぱり…と、自分の失言を呪う元親。
「某、この高校にして良かった!長曾我部殿や政宗殿たちに会え、毎日が楽しくて!」
「…あ、そ…」
いつの間にか、政宗を下の名で呼んでいることにも、少し驚く。
そういえば、何故政宗といつも勝負をつけようとするのか、と聞かれ、
「これこれ。カブってんだろ、キャラが」
と、眼帯を指し返す。
幸村は笑って、
「某も、最初お目にかかったとき、双子なのかと思っておりました」
「(ないない)」
元親は、また呆気にとられる気分になるが、笑う顔に、自分の口元も釣られていたことに気付く。
知らない間に、嫌でも慣らされていたのだろうか…と、段々諦める気持ちにもなりながら。
幸村の夢は、『強くなって地球の平和を守ること』らしい。
必殺技がどうとか、仲間が何人必要だとか…
(まさか俺、その『仲間』の候補にされてんじゃねーだろな…)
──頼むから、大きい声でそんな壮大な夢を語らないで欲しい。
道行く人々が、クスクス笑いながら自分たちを見ていることを、幸村は少しも察していなかった。
「……」
「どうした?」
突然幸村が立ち止まり、街の掲示板に手を着いて、何やら難しい顔をしている。
その貼り紙は、『探しています』の文字に、仔猫の写真。
(迷い猫か…)
まだこんなに小せぇのに、と不憫に思っていると、
「長曾我部殿も、もし見かけたら教えて下さいませぬか?」
「あ、おぉ…」
「リッチー、今頃震えていなければ良いが…」
「え、お前ん家の猫?」
「いえ、違いまするが…。『リチカ』という名なので、勝手に呼んでおるだけでござる」
と、照れたように苦笑する。
元親は「ふーん?」と、手をどける幸村に返したが、下から現れた貼り紙の文字が目に入ると、
「──って、アホかぁ!迷い猫じゃねーじゃねーか!?」
「…えっ!?」
幸村は、目を丸くして見上げるが、
「よく見ろよ、ここ!探してんのは、『里親』の方だろ!…んだよ、もー…本気で心配して、損したわ」
「さ、さとおや?…とは?」
「──…」
いよいよ、目眩がしそうになったが。
…頭が小学生以下であると思えば、『里親』の言葉も身近ではなかった、…ということなのだろう。
説明してやると、
「で…は、ちゃんと家にいるのですな…!?」
と、明るく嬉しそうな表情へ。
その前に自分の不憫さを嘆けと、もはや元親の方が、涙が滲みそうになる。
「漢字も読めねんだ…」
頭悪ぅー…、などと囁く声に目をやると、「逃げろっ」と、バタバタ走って行く後ろ姿。
傍で聞いていたらしい中学生たちから、思いきり笑われていたようだ。
(…だよな)
とは思ったが、頭をかく幸村に、それ以上言う気にはなれなかった。
「…人間、勉強ができるできねぇ、頭の良し悪しなんざ、関係ねぇよ」
自分も言える頭ではないが、元親は励ますように幸村の肩を叩く。
幸村は、パァッと再び顔を輝かせ、
「真でござるかっ?──では、関係なく、親しくして下さいまするか…!?」
(へ…)
一瞬、「誰と?」と聞き返しそうになったが、
「あの、…下の名で呼んでも、良うござるか…?」
おずおず、と上目遣いで見てくる顔に、どうしてか、「あぁ…」と、素直に答えていた。
「元親殿の名を目にし、『ちか』と読むと、初めて知ったのです」
「あー、よく言われる」
幸村は苦笑し、
「ずっとそれが頭にあり申して、てっきりこやつの名が、『リチカ』と読むのだと」
「……」
“ 里親 = りちか → リッチー ”
(…えぇぇ…)
俺のせいかよ、と少々ショックを受けた元親だったが、本当に楽しそうに笑う彼を見ていると、
(よっぽど、心配だったんだな…)
──そういう奴は、嫌いじゃない。
再度自然に笑み、幸村の隣へ並んだ元親だった。
学校でも常に付きまとってくるせいで、知らぬ内、幸村と一緒に行動するようになっていた、元親と政宗。
元々気が合う性格同士だったらしく、幸村と政宗は、以前からの仲であるようにまでなっていた。
そんなある日…
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「Hey、やべーぞ!」
「何が?」
政宗が、真剣な顔で来たかと思うと、
「“image up 戦略”とかで、今度の試験でライン越えねー奴ァ、強制退学だとよ!」
「ええぇ!!」
「まっ、マジか!?」
幸村が叫び、元親も血相を変える。
前々から、生徒や学校全体の粗悪さには、親や地域からの苦情が多かったのだが。
今回、とうとう大々的な改革を試みようと、職員会議で決定が下されたのだそうだ。
──反対デモなどは、即刻クビ(退学)とのこと。
「マズいぜ…、何とかその日までにゃ、ギリギリでも賢くなっとかねーと」
「Ahー…俺らはまだともかく、──幸村、お前一番ヤベェだろ!」
…何せ、二人以上に、授業に出ていないのだ。
(そうだぜ、『里親』すら読めねーのに、コイツ…)
元親も、自分のことより不安になってくる。
「試験は、○○日ですか…」
幸村は、うーむと腕を組み、「佐助に、身代わりで来てもらうか…」
「まーた『佐助』かよ!いちいちいちいち!このマザコンが!」
「何キレてんだよ、政宗?」
「政宗殿は、いつもそうなのでござる。佐助と、会ったこともござらんのに」
「知らねーけど、その名前聞くだけで、何かイラつくんだよ!次言ったらコロス…!」
「いだだだ、いひゃい、まはむえほほぉっ」
幸村の頬を、ギュウーッと片手でしぼる政宗。お陰で、幸村の口は「ε」に変形していた。
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