そうなる運命4
「ここまで来れば、絶対大丈夫だね」
「あ、ああ…」
──安全は、とっくの前に保証されてはいたのだが。
幸村は、惚けたように周りを見渡す。…波の静かな、夜の浜辺。
(怖かったのであろうな…)
そう思うと、胸が掴まれる。
「うむ、もう大丈夫だ。しかし、佐助は足が速いな。俺も全速力に近かったぞ」
「本当っ?早く、旦那追い抜くまでになりたいなー」
「ん、む…、良い心構えだ」
言いにくそうな幸村を、佐助は「ぷぷっ」と笑う。
「笑うな…。だが、あれくらいの輩、俺がのめしてやれたのに。全く、見せどころを奪いおって」
皮肉に笑いを含めると、佐助は止まったように静かになった。
「どうした?」
「…まぁ、それは分かってたんだけど…」
苦笑し、幸村の手を取る。
「早く大きくなりたいなぁ…。旦那みたく強くなって、あんな奴ら、チョイチョイって倒せちゃうくらい」
(佐助…)
「俺様が守った──とか、思いたかっただけ。夢だもん、『イイ男』になるの」
「──…」
見上げてくる顔に、幸村の頬が染まる。
恐らく、この暗さでは見えていないだろうが。…であることを、幸村は切に願う。
「ねぇ、俺様の好きな人、分かった?」
「(う…っ)」
佐助は、真っ直ぐな眼差しを向ける。
昔と、何ら変わらぬ澄み切った瞳。
「結婚できないって分かったけど、どうやってやめれば良いのかは、分かんない。やめたくないし。でも、やめなきゃダメ?旦那なら知ってるでしょ?高校生だし」
「え…」
近付く佐助に、幸村は思わず退くのだが、情けなくも力が抜け、尻餅をついてしまう。
「ねぇ、教えてよ。俺様、どうしたら良い?ずっと、ずーっとなんだ、一回も会わなかったのに。この夏休みはね、旦那と会って離れるまでの間と、同じくらい楽しくてしょうがないよ。旦那は?」
「お、俺も楽しいに決まって、」
尻餅をついたままの幸村の脚の間に、佐助が膝を着いて入り込んだ。
「旦那が好き。知ってたと思うけど。…ね、旦那は?俺様のこと好き?嫌いじゃないよね?俺様の記憶は、確かだもん」
「し、かし…俺は、男なのだ、が。こんな、お前よりも、大きい…」
佐助は手も着き、ずいっと顔を寄せてくる。
「知ってるよ?けど、ゴメンね?俺様もっと大きくなるから。んで、絶対『イイ男』になるし」
言った後で、唇をクッと動かし細く笑む。
…彼は、確かまだ十代にもなっていなかったはずだが。
力も何もかもを奪われ、幸村は砂に沈んだ。
「旦那…?」
覗く佐助の顔は、もう元に戻っている。…こんな調子で、自分はやっていけるのだろうか、と項垂れる心地だったが、
(──その日『も』楽しみだ、と思ってしまうとは…)
やはり自分には、威厳を示すなど無理な話であったらしい。
初めから、もう負けていた。
「佐助、俺も、…」
人生初の行為には、もれなく人生最大の赤面がつき、
それをごまかそうと再度開いた唇の上へ、二度目の誓いが落とされる。
「…あま。──あぁ、リンゴ飴かぁ」
「……………」
「あ、分かんなかった?俺様、あんま食べなかったもんねぇ」
「…………!!」
遅れて頭から火を出し、震える腕を上げる幸村だったのだが、どちらも治まるまで耐える羽目になった。
──六年前のあの日に見た、忘れられない笑顔。
「俺様、絶対イイ男になるからね?待っててね、旦那!」
「…おぅ…」
もう既に、と思ったが、これ以上は生死に関わる。
(小さくても大きくても、きっと自分は…)
浮かんだ思考が、佐助と同じであることに気が付く。
結局はそうなる運命かと明解し、笑い混じりの息が、夜に溶けていった。
‐2011.12.14 up‐
お礼&あとがき
ミワコ様、リクエスト頂きましてありがとうございます!
「ちび佐助×幸村で、佐助のアタックにタジタジな旦那」という素敵なリクを、本当にすみませんでしたm(__)m
細かい設定、申し訳ない;
佐助は両親いない、二人を一緒に住まわせない、でもお館様関連、血の繋がり、将来のしがらみなし。二人を許しちゃう親バカな親二人。
将来もラブラブ幸せにしたい妄想が、本編に無関係なものを付属してしまいました。
(お館様、出番ないし;)
佐助アタック、微妙でごめんなさい。子供らしくもなく、とても中途半端でした;
また、自分だけ楽しまさせて頂きまして。
こんなことですが、良かったらまた遊びに来て下さい(^^)
本当にありがとうございました。
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