そうなる運命3
それから毎日二人で、色んなことをして過ごした。
水泳だけでなく他も教えてやれたし、小学生らしく微笑ましい姿を沢山見られた。
が、大人びた面も同じほど持っており、その度ヒヤリとさせられる。
昔から可愛がっていた、あの感情とは別の何か。…が湧き、持ったことのないそれに、幸村は戸惑いを感じていた。
──そろそろ戻る日も近付いてきた頃、懐かしい夏祭りへ出向くことに。
夕方から家族四人で赴き、信玄たち兄妹は近所の友人たちと飲みに行った。
しっかり小遣いを頂戴した二人は、出店巡りへ。
途中、何人もの佐助の友人と出会った。
男女関係なくその多さに、幸村は胸を撫で下ろす。
佐助は恥ずかしかったのか、何やら拗ねているが…
「ホッとしたぞ。友達がいるのか、少し心配しておった」
(何しろ、そんな様子を全く見せぬので)
「あ〜あ、見られたぁ。絶対、しつこく聞かれるよぉ。旦那のこと」
「?従兄弟だと言ったではないか?」
「じゃなくてさぁ。…特に女子。聞こえなかった?『カッコい〜!』って。旦那のこと騒いでたでしょ」
「!?」
小学生相手に破廉恥とはさすがに叫べず、ただただ驚きに目を見開く。
「だから、ヤだったんだよー…。はぁ、もう」
「だ、大丈夫だ佐助。俺はすぐ帰る、どうせ忘れられる」
「…うん」
静かになる佐助に、幸村は慌てて、
「あの子たちはお前のことを、すごく好っ…いて、おるっ。そう心配するな」
ようよう言ったというのに、佐助は「へっ?」と間抜けた声を上げた後、あまつ笑い始めた。
「そんな心配してないよ〜。あの中に、俺様の好きな子なんていないもん」
「──そ、そうなのか…」
では何故?と、即座に疑問が湧く。
「あ、リンゴ飴!イチゴ飴もあるよ、旦那。どっちにする?」
「ん、あぁ…」
「俺様これ全部食べらんないからさぁ、一個を分けない?」
「そうだな」
一本買い、屋台の通りから抜けた場所へ移動する。
「あと食べて〜」
「良いのか?」
「うん、もー無理」
佐助は、飴とリンゴのほんの一部をかじったところで、根を上げた。
幸村にとっては、大歓迎である。
昔もよく食べた味に舌鼓を打つ姿を、佐助は楽しそうに──どこか嬉しそうにも眺めていた。
「…ね〜、俺様の好きな人、知りたい?」
「ん、っ!?」
口の中で溶けた飴が一気に流れ、むせそうになる幸村。
しかし、都合良く叫ぶに及ばず、…思案もできた。
(知りたい──かも知れぬ)
やはり、特別な存在だからなのだろうか…?
初めて持った考えに、幸村は驚きながらも、
「お、教えてくれる、のか?」
「えっ、嘘?聞きたいの!?」
同様な顔で返され、すぐに後悔する。──が、どうしてか目を輝かせていく佐助。
「あのね、じゃあヒントあげるからさ、当ててみて!」
「ぬ…?」
(他の友人を知らぬ自分には、難しい気がするのだが…)
「施設のことなんて全然なのに、あ〜んなチビが、あの約束だけは覚えてるのって……何でなんだろーね?」
「(え…)」
「あ、約束っていうか、俺様の一人相撲だったんだけど。それが、ヒント〜」
(そ、れは、もしや…)
と思ったとき、背後から肩にぶつかられ、
「あっ、すみませぬ」
明らかに相手がフラついて…というのは分かっていたが、幸村は振り向き頭を下げる。
──が、
「あー…?んだァ?何しやがる、んのガキ」
Tシャツの襟口を掴む手に、眉をひそめた。
…いかにもな風貌な上、酔ってまでいる。
しかも、数人の仲間が、ニヤニヤとこちらを窺っていた。
理不尽を口々にし、どうも、大人しく解放してくれる気はなさそうだ。
(仕方ない、軽く撃つしか)
「…佐助、持っていてくれ」
相手から目をそらさぬまま、リンゴ飴を後ろの彼へ差し出す。
しかし、
「な…っ?」
出した手首を掴まれ、飴が地に落ちた。
──と思いきや強く引かれ、足がその場から離れる。
この小さな身体のどこに収まっていたのか、幸村さえも抗えぬ力で疾走させられた。
「待て、コラ──」
怒鳴る声が、既にもう遠い。
呼吸と駆ける音だけが響く。
祭り会場も追う者も過ぎたというのに、止まるまで繋ぎ目は切れることがなかった。
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