彼らなりの求愛3
(ったく、紛らわしい…)
…だが、勘違いして動揺しまくった自分も恥ずかしい。
ふいっと視線を泳がすと、同じ気持ちだと思われる慶次が、苦笑いを向けた。
「すまぬ、佐助…」
しょぼん…と項垂れ、頭を下げる旦那。
「お前が、つまんねーこと言うからだろ?夜更かしくれぇ許せってんだ。こんな日、そうそうあるわけでもねんだしよ」
ブスッとなったまま、一つも悪びれていない政宗。
「だからって、こんなとこに隠れてまで…」
俺様は部屋の明かりを点け、溜め息をつく。
何のことはない、二人がコソコソとやっていたのは、
──ゲームの続き。
対戦型で、旦那が何度も負け、力み過ぎて手を痛めていただけの話だった。
「目ぇ悪くなるでしょーが。やるなら、明るいとこでやりな。…ルール、これ以上破ってどーすんの」
「…!佐助、では…っ」
嬉しそうに輝かす顔には、俺様だって弱い。
結局は元の部屋に戻り、楽しそうにはしゃぐ二人を、朝まで眺めていた。
「政宗って、家じゃ結構子供っぽいな。てより、幸がいるせいかな?」
「………」
慶次の呟きは無視し、今日もこいつらと一緒かよ…と、ゲッソリした俺様だった。
慶次の家は、なかなかに快適だった。
昨日伊達邸で食した、和洋折衷・高級料理も当然美味だったが、
「美味しい…」
「まぁ、それは良うござりました」
「どんどん食べると良い!まつの飯は日本一だぞっ?」
何だかホッとするような優しい味付けと、嘘みたいに仲の良いラブラブ夫婦。
慶次の叔父と叔母を見ていると、
(俺様たちも、こんな風に幸せに…)
どう考えても、エプロンを着ているのは自分で、男らしく魚を一本釣りしてそうなのは、旦那の方だが。でも、今は主夫ってのも増えてきてるし
…などと、またも妄想に浸りそうになる。
「おかわり、頂いても…?」
旦那も、遠慮がちながら茶碗を差し出した。
先ほどから、彼女を眩しそうに眺めている。うちはずっと男所帯であるので、その気持ちは俺様にもよく分かるものだった。
「──良いだろ?トシとまつ姉ちゃん!」
「Ah〜。初めて本物見たぜ…バカップルってやつ」
「うん」
「お二人ともお優しくて、すごく良い方たちでござる!さすがは、慶次殿の育てのご夫婦ですなぁ。慶次殿も、お優しくなるわけでござ」
「幸ぃぃっ──ぁだッ!」
両手を上げて旦那に抱き付こうとした慶次に、足払いをかけた。
しかし、それでもめげずにヘラヘラする奴には、腹を立てる前にその気が抜けていく。
「じゃ、寝よ寝よっ」
政宗とは違い、さっさと消灯する彼に、ますます調子が狂わされたが…
寝不足もたたり、すぐに就寝できたようだった。
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「うぉーい、起っきろ〜」
(はぁー…?)
気持ち良く寝ていたところを揺さぶられ、苛立ちとともに目を開けるが、
「まだ夜中じゃん。何でぇ…?」
夜明けにはまだ遠い時刻。いくら早く寝たとはいえ。
旦那も政宗も、あーうー唸りながら、寝惚け顔。
「さ、着替えて!外は冷えるぞっ?」
全く意味が分からなかったが、慶次の押しの強さは毎度のこと。
いつも、説明などは後回し。
皆もう諦め、彼のやり方に従うのは、暗黙の了解になっていた。
前田家の自転車三台を借り、慶次が道先を案内する。
旦那を後ろに乗っけたいと二人が言い張ったが、ガン無視した。
時間が惜しいらしく、慶次の方はすぐに引き下がったが…
「この先の山でさ、よく見えるんだって!テニスコートがあるとこ」
「Ha〜?」
「何がよ」
一人ハイテンションで浮かれ顔に、俺様と政宗が最高に冷たい目を向ける。
ちなみに旦那は、俺様の後ろでウトウトしていた。背中に温かいおでこがくっ付き、慶次を少しは免じてやるかという気になる。
「着いたよ、幸!」
ニコニコと旦那を促し、小山の拓けた場所へ駆ける慶次。
驚いたことに、他にも人がチラホラ集まっていた。
レジャーシートを敷き、「さ、観よ!」と、横になる。
「「だーから、何…」」
「おおお!!」
俺様と政宗のイライラ声は、旦那の驚愕の一言にかき消された。
「佐助、政宗殿!ご覧下され、空!」
(へ…?)
その言葉に、二人して天を仰ぐ。
──上空一杯、次々と流れ落ちる無数の星。
(ふぇ…)
唖然とし、そのまま口を開ける。
…隣の奴も、同様。
(流れ星なんて、初めて見た──のに)
そのありがたみがないほど、雨のように降り注ぐ光の筋。
「あっ、今端の方で流れた!ああ…!もう、目が足りのうござる!全部見ておきたいのに!」
もどかしそうに笑いながら声を上げる旦那。
やっとのことで、彼と慶次に目をやると、
「ほら。二人もこっちで、一緒に観よ」
と、笑顔で誘う。
──俺様を、自分と旦那の間に座らせた。政宗は、旦那のもう一方の隣。
(旦那の隣じゃなくて良いのか…?)
チラッと慶次を見たが、彼は空を見上げたまま。
「佐助、すごいなぁ…。これだけあれば、沢山の願いが叶うな」
「そうだねぇ…」
(願いなんて、一つしかないけどさ)
…そして、必ず自分で叶えてみせるが。
「──知らなかった。今日だったんだ…流星群」
「さっすが、こーいうのは抜かりねぇな、お前」
「だろ?もっと褒めて」
「ありがとうございまする、慶次殿!最高の思い出になりまする…!」
「…良かった」
そう言って、慶次は小さく笑った。
────………
朝方に近付くにつれ、流れる星も少なくなっていった。
それも予想していたらしく、慶次はバドミントンのラケット等を持参しており、旦那と政宗は、たちまち勝負に身を委ねる。
「わざわざ俺様たちまで起こさずに、二人でコッソリ来りゃ良かったのに」
そう冷やかすように言うと、
「それも思ったけど、こっちのが笑うもん、幸。絶対、『佐助にも見せたかった』って言う」
(………)
──バドミントンの気がすんだらしいところで声をかけ、帰ることにする。
慶次が疲れたらしいと旦那に耳打ちすれば、
「慶次殿、某の後ろに乗って下されぇ!」
と、全力で自転車をこぎ出す彼。
慶次は、「逆…!」と嘆いていたが、それでも心底嬉しそうに、笑っていた。
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