彼らなりの求愛2


「どんなの?ちょっとだけ見せてよ」

二人の間に、ひょいっと顔を覗かせると、


「!いかんっ。見せぬッ」
「下手だから、勘弁してよ〜」

…慶次の言葉はともかく、旦那の態度には、ちょっとショックだった。


「いーから、見せろ!」
「ああっ」

腹が立ったのか、政宗が旦那から弁当箱を奪う。
ナイス、と心の中だけで称え、一緒になって中身を見てみると──

「…Ah〜…?」
「ちょっとぉ…」



「「どこが弁当だ!?」」

ハモる俺様と政宗の声。(非常に不本意だったが)

「てか、アンタのもだったけどね」
「これよりゃマシだろ!?」
「…ま、確かに」

二人して、慶次を蔑視する。


「あはは…。だって、普通の料理じゃあ敵わないと思ってさ…」


普通でない料理…

慶次の弁当箱の中には、色鮮やかな、


──お菓子が、詰まっていた。



「かっ、返して下されっ」

呆れたままの政宗の手から、旦那が弁当箱を取り戻す。

「もう、頂いたのだ…っ。残したりはできぬぞ、佐助っ」

威嚇するように、お菓子を庇う旦那。


(それで見せてくんなかったのか…)


いつも自分が、彼の大好物の甘味を制限するため、取り上げられると思ったのだろう。

溜め息をつき、俺様は渋々、

「もー…今日だけだよ?」
「佐助…っ」

すぐに、ぱぁーっと輝く顔になる旦那。ふりふり揺れる尻尾が、また見える。

「ありがとう、お義母さんっ」
「だ・れ・が!…ったく、余計なもん作って…」

仔犬化した旦那の隣で、無駄にデカい奴まで尻尾を振った。ウザい。


「佐助、すごいなぁっ。これも全部、慶次殿が作られたのだそうだ」
「ヘェー」
「いや、まつ姉ちゃんに教えてもらいながらだけどさ」

それでも、さっきの政宗と同じようにデレデレになる慶次。

「どれもこれも、美味でござるっ!…すまぬな、佐助。分けたくとも…我慢できぬ」

「…っっ、」

慶次やお菓子に嫉妬しながらも、旦那のとろけるような笑顔に、倒れそうになった。



─────………



「…結局、勝負つかなかったじゃねーか」
「勝負?」

「旦那は気にしないで?…あのさぁ、言っとくけど」

あんなもんで俺様を越えられるなんて、大間違いなんだよ──と言おうとすると、


「だいたいさぁ、スタートの時点で負けてんじゃん?一緒の家に住んでるとか…ズルいよ」

「いや、んなこと言われても」

慶次の拗ねた口調に、心中では優越感に浸っていたが、


「じゃあよ、こうしねーか!?」


さぞかし名案であるのか、自信に満ちた顔で笑った政宗に、再び嫌な予感がした。













『俺らのことも、もっと身近で知ってもらおうぜ!』

政宗が持ちかけた提案、それは──…



「ほら、もう電気消すよ?」
「Ah〜?まだ良いじゃねーか」
「佐助ぇ…あともう少しで…」

ぶーたれた顔を向ける政宗と、許しを請うように見上げて来る旦那。──二人の手の中には、携帯ゲーム機。


「旦那、いつもはとっくに寝てる時間でしょ。ゲームだって、『武田家ルール』を大幅に破ってんだからね?大将が知ったら、どう思うか…」

「!おっ、お館様…!」

「悲しむだろーなー、大将。旦那がこんな悪い子に」

「もも申し訳ございませぬ、お館様ぁぁぁー!!」

旦那は飛び上がり、俺様の隣の布団へ滑り込んだ。


「Shit…」
「ホントにオカンだよねぇ。なになに、『武田家ルール』って?他にどんなのがあんの?」

苦い顔で俺様を睨む政宗と、楽しげに尋ねて来る慶次。

俺様たち四人は、同じ部屋で布団を並べていた。


「俺ん家なのに、何で俺が一番遠いんだよ…」

政宗が、部屋の端から恨めしそうに眺める。


「「一番危険だからに決まってんじゃん」」


今度は慶次とハモってしまったが、ここは大いに同調して良いところ。


──そう。政宗の提案とは、俗に言う『お泊まり会』

今日はこいつの家、明日は慶次の家。
俺様にとっては、全く気の抜けない連休となってしまった。

朝から引っ張られて来たのだが、一日中、政宗は旦那から離れようとしない。

本人は大真面目な顔で、

『お前を越えるために、同じことしてんだけど?』

とほざくので、本当に殴ってしまいたかった。…が、奴の執事の強面のお兄さんがマジで怖かったため、やめておいた。



(まぁ、旦那は楽しそうだったけどさ…)


既に寝入っている旦那を見た後、俺様も目を閉じる。

先日の弁当以上の豪華な食事を振る舞われ、あの執事が手がけているという菜園での収穫に、身をたぎらせたりしながら──

頭に再生された眩しい笑顔に頬を緩めつつ、俺様も眠りへと誘われた。









ふっと意識が浮上し、隣に目をやる。


(旦那…?)


布団が空だ。…トイレにでも立ったのだろうか?

反対側を見ると、すぴすぴ寝ている慶次。
さらにその向こうを覗くと…


「…あァ!?」
「ぉえッ。──何?」

勢いのまま慶次を踏んでしまったらしいが、そんなの問題ではない。

「ちょ、あいつどこ行った!?布団ねーし、…旦那もいねんだけど!」

「…ぇえ!?」

ガバッと起き上がった慶次は、自分の隣を確認し、真っ青になる。

「探そう!」


昼間入った政宗の自室に行ってみたが、いなかった。

俺様たちは、とにかくだだっ広い屋敷の中を開けて回り…


(ここか…!?)


行き着いたのは、立派な座敷。床の間に、高そうな業物二刀が飾られている。

──部屋の中央に敷かれた、見覚えのある布団。

モゾモゾ動いたかと思うと、


「…観念しな、幸村」
「あっ、政宗殿…っ!そのような強引な…──ぁあッ」

「Ha…!これで何回目だよ?弱ぇ…。もっと楽しませろよ」
「…っ、何分、某は初めてであるゆえ…」

「まぁ、こっちは気持ちイイからいーけど。お前は溜まる一方だろ?手加減してやっから、一回くれーは」
「そんな…──痛ッ」

「Hey、大丈夫か?力入れ過ぎだ。見せてみろ、揉んでやるから…」
「っ、…ぁ…」


──俺様の手が業物の刀に伸びたが、間一髪のところで、慶次が布団をめくった。

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