二枚目半活劇3







「あれ〜?旦那はぁ?」


道場を覗きざま、佐助が声をかけると、政宗はたちまち嫌な顔に変わった。


「…このストーカー野郎。あいつの気持ちも、知らねーで…」
「はぁ〜?てか、別に、ちょっと用があっただけだし」
「Ha。…今日は、自主練だったぜ?何か、新聞部がどーのこーの言ってたが」
「新聞部…?」

政宗は、チラッと佐助を見ると、

「あの噂の出所でも、調べてんじゃねーの?」

「………」



(まさか…)


佐助は顔色を変え、道場を飛び出した。










『先月、真田先生にタバコ見付かったの──で、恨んでんじゃないですか?噂を広めろって言われましたけど、断りましたよ。嘘じゃないですって!…でも、最近ずっと登校してたでしょ?あれ、自分で噂広めるためじゃないですかね』


新聞部を絞り上げ、聞き出した情報。

幸村に、恨みを持っている不良…。


──彼の寮へ行ってみたが、留守だった。
佐助は、すぐさま街へと駆ける。

幸村のケータイにかけても、全然出ない。


(落ち着け…。あいつの繋がりは、確か…)


コンビニの裏でたむろしていた、その不良の友人たちを締め上げる。


「な、何だ?お前…っ」


…嗚咽や悲鳴も、聞こえない。

居場所を吐くまで、ひたすらに腕と脚とを、相手へ撃ち込んだ。










「…その話、真か…?」

「ああ。だから、こんなことしてんだろぉ?」


不良の彼が、幸村へズイッと近寄る。

ここは、彼のアジトなるものらしい。…外から見るとただの廃墟だが、充分暮らせそうな内装。

そこに置かれたベッドの前で、幸村は人生最大のピンチに陥っていた。


「ずっとこうしたかったんだよ、アンタと…!なのに、あんのクソ野郎のせいで」
「あ、あああの、ちょっと」

「恨んでなんかねぇからな?んなこと言った新聞部、今度シメとくぜ」
「いや、それは…っ」

「あの日から、アンタにシビれちまったんだよ!優しくすっから、な?」
「ま、待たれよっ、某は教師で男で、お主は生徒で男で」

あわわ、と幸村は後ろに下がるのだが、退路を絶たれ、絶体絶命。


(佐助の言っていたことは、本当だったのか…っ)


…と、今さら思い知っても、もう遅い。


強引にベッドに座らされ、幸村は足をジタバタさせるが…



──そのとき、


『ドドドド!』と、ものすごい音が階下から響き、部屋のドアがなぎ倒された。



「旦那を離せ、この腐れ外道がぁッ!」


凄まじい勢いと表情で、飛び込む佐助。


「佐助…!」


生徒に救ってもらうとは、またもや何と情けない。
そう思う幸村だったが、その顔は一瞬で安堵のものへと変わった。

──が、





『ガッシャーン』



「……え」
「──は?」


幸村と佐助、同時にポカンとする。


二人の間に突如現れた、鉄格子。


「…なにこれ」

佐助が棒を叩くと、


「ここを前に使ってた奴、そーいう趣味があったみてーでさ」
「どーいう趣味よ?」

「さー。SMとか?俺は、別に興味ねーから。…でも、それは便利だよなぁ。よく見えるだろ?そっから、ここ」
「──……」

「んじゃ、ゆっくり見てろよ。俺らの愛の営み」
「佐助っ」

「旦那!正当防衛!タコ殴りにしちゃって、んな奴!体罰になんねーよ、こんなの」

「残念だったな〜。先生、俺が淹れたジュース飲んでから、調子あんま良くないみたい」

「力が入らぬのだ、佐助…」

「あんだってぇ…!?」

助けに来ておきながら、絶望的な声を上げる佐助。


「んじゃ、早速♪」
「(ひぃぃ!)か、考え直してくれ!もう一度、話し合おう!?」

「無理だぜ、もう。散々待たされたんだ…さぁさぁ」
「おわ、ちょっ…」

ベルトに手をかけてくる行為に、戦き上がると、



──ガン!



「…あー…?」

「…?」


激しい音に振り返ると、


「て、てめぇ…」

不良の手が、止まった。


その間も、ガンガンという音は、鳴り止まない。


…佐助が、頭を鉄格子に打ち付けている。



「気でも触れたかよ…んなことで、折れるわけねーだろ」

「佐助、止めろ…っ、…」

幸村は、起き上がろうとするが、全身が痺れて、手が震えるばかり。


「旦那に、触るな…。…ここで死体が出たら、疑われるのはアンタだよ。旦那に手ぇ出したことも、知られたら…どう、なるんだろう、ね…っ?」


そう笑いながら、佐助は再び頭をぶつける。

ガツン、ゴキン、などと、鈍く響き続ける音。

床に飛び散る血飛沫。



「…っ、何だよ、こいつ…!」

「さ、すけ…っ」


──さらに激しく音を鳴らし続けた後、佐助の身体がゆっくり傾き、ドサリと倒れた。


「佐助ぇぇ…っ」


「…う、嘘だろ…」


慌ててリモコンを操作し、鉄格子を上げる不良。


「し、知らねえよ…。勝手にバカなこと…」


そろり、と倒れる佐助に近付く。





──ガッ!


不良の足首が、掴まれた。



「テメ、やっぱ…!」


(てか、どんだけ石頭…!?)


と思った瞬間、目の前に星がいくつも輝いた。



「うっげ…っ」


頭と鳩尾に一撃を同時に食らい、床に転がる不良。

佐助は、素早く幸村のいる方へ駆けると、



『ガシャーン』



「──あっ」

「…ははっ、バーカ」


リモコンを操作し、今度は彼を、鉄格子の中へと閉じ込めた。


「佐助…」

上手く身体を動かせない幸村を、ひょいっと抱え、

「もう大丈夫だよ、旦那。さー、帰ろ」


「ちょ、待て!」


「聞こえなーい。そんだけの罰で済んで、ありがたく思えよ。…今度は、ただじゃおかないから」

血を流しながら吐き捨てる様は、見たこともないほど恐ろしい姿。


不良は、それきり大人しくなった。

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