二枚目半活劇2






幸村が顧問を務めるのは、剣道部。

腕には結構な自信があった彼だが、ある生徒の強さには、一目を置いていた。


「…お疲れした」


部員全員を帰らせ──と思いきや、その生徒だけが残っている。


「どうした?伊達」
「………」

伊達政宗という、佐助と同じく、幸村よりも大人っぽく見える、精悍な少年。


何か、考えるような顔で幸村を見ていたが、

「なぁ…アンタと猿って、どんな関係?」

「え?」


(関係?…どんな?)


質問の意味が分からず、戸惑う幸村だったが、


(──まさか、弁当や、その他諸々がバレて…!?)


「いや、俺が言うことじゃねーけど。…何か、アンタら噂になってっからよ」
「噂…?」

「Ah〜…」

政宗は言い辛そうに、「恋人同士なんじゃねーかって…」


「は……ぁああああ!!?」


耳をつんざく大音響に、政宗は顔をしかめていたが、

「…の様子じゃ、違ぇみてーだな」

「あっ、当たり前だ!何故、某たちが!?男同士であろう!」

「Ahー…。いや、そう珍しくもねーんだがな、ここじゃ」

「…!?」

思い切り「?」顔をする幸村に、政宗は至極丁寧に教えてやる。

幸村は唖然としていたが、そのせいか、叫ぶ結果にはならなかった。


「アンタが猿にベタ惚れで、毎晩激しいんだとか、何とか…」

「な、何が…!?(まさか…)」

「あいつがすげぇテク持ちで、アンタは★★で、※※で、**なんだとか、俺でもhotになっちまいそーな、そういう噂が最近…」


「………」

幸村は、真っ白になった後、真っ青になっていった。


(──俺が弁当や、…ずっと、甘えていたから…っ)



「まぁ、信じちゃなかったけどな。あいつが、んなスゲーなんざ思えねーし?しかし、そんな噂、アンタも迷惑だろ。
…ど、どーだ?ここは一つ…俺を使って、噂を塗り返すってのは…」


若干、ドギマギしながら言った政宗だったが──幸村の姿は、既にそこから消えていた。














「最近、冷たくない?弁当だって、俺様のが、断然上手いのに…」

「馬鹿者、声が高いわ…っ」

と、辺りを見渡すが、廊下には誰もいない。


「部活終わった後、とっとと帰っちまうし…。てか、まともに食ってんの?ホントに弁当作れてんの?日の丸弁当なんじゃない?何か、痩せた気が…」

「〜〜ッ!おのれは、母親か!…きちんと食うておるし、作れておる!近いっ、それ以上近付くなっ」

しっしっと、手を振る幸村。


「傷付くなぁー。俺様、何かしたぁ?」


(…うぅ…)


拗ねた顔になりながらも、哀しい目をする佐助に、幸村の胸が痛む。


(すまぬ、佐助…。しかし、これ以上噂を広めるような真似は、お前に…)



『──で、猿飛と真田ちゃんがさぁ…』


「「!」」

二人は、ハッと顔を見合わせ、目の前の教室に飛び込んだ。

コソッと扉に耳を傾けると、


『マジでムカつくよなー、猿飛の奴…。事実か分かんねーけどさ』

『じゃなくても、あいつ常にベッタリじゃん、ウッゼェ。…チクッちまうか?校長に』

『でも、真田ちゃんがクビんなったら、つまんねーし。あ〜あ、俺も噂になりてーや』

『俺も』

ブーブー口にしながら、去っていく生徒たち。

その足音が完全に消えると、


「──あれのせい?」
「………」

幸村は、俯いた顔で、「すまぬ…。俺が、甘えていたせいで…」

だが、佐助は「なぁんだ」と笑って、


「あんな噂、気にしなくて良いじゃん。事実無根なんだからさ。やましいこと、何もしてないし」

「しかし…」

幸村は、顔を上げて、

「…いや、やはりいかん。お前の名誉が」
「むしろ名誉だけど」
「何を、」

「…ふざけてないってば」

と、佐助は幸村の二の腕を掴んだ。──切実そうな顔で、見下ろされる。


「佐す…」

「さっきの聞いた?…旦那にゃ信じがたいことだろーけど、アンタ、皆から注目の的なんだよ」

幸村が目を見開くと、佐助は苦笑し、

「憧れ…って言やぁ、聞こえが良いけどさ。さっきみてーな、大人しい奴らだけじゃないんでね。…だから、そう思わせといた方が、安全だろ?」


「な…」

そのまま床に倒され、幸村は短く呻いた。

が、佐助はお構いなしという様子で、


「…ほら。そーやって、誰に対しても隙だらけ。俺様みたいな手使う奴、死ぬほどいるんだぜ?羊の振りした狼…。アンタ、笑うだけで、勘違いさせちまうんだから」


そう、今度は真上から幸村を覗く。…ギラギラと光る、二つの瞳。


幸村の目が、戸惑いに揺れる。



「──だから、気を付けなよ、…って話」

小さく囁くと立ち上がり、幸村の手を取って身体を起こさせた。


「…ごめん。痛かった?」
「いや…」

服を軽くはたき、幸村は佐助を見るが、


「…ま、俺様に不名誉じゃなくても、旦那は嫌だよな」

「え…」


佐助は明るく笑って、

「もう、無理言わないからさ。その代わり、頼むから注意はしてくれよ?」

と、静かに教室を出て行った。


(……)


先ほどの彼の姿と声が、幸村の頭の中で何度も浮かび上がる。


それは、次の日から何事もなかったように接してきた佐助を見る度で、

…幸村の心には、新たな悩みが植え付けられてしまった。

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