初めての3
「…った、――…あ、の」
幸村が苦痛に顔を歪める。…慶次がその腕を掴む力を強めていた。
「慶次殿…?」
「……だよ、その顔……」
「え……」
慶次の声は、低くしかも震えている。――怒りに。
「何で……嫌がらないんだ?」
「え、…それは…」
幸村の頬はますます赤味を帯びる。
「…もう、したことがあったから?――あいつ、と」
「――え?」
幸村の表情が止まった。
瞬間、慶次の胸は完全に黒に染まる。
「いつから…、いつからそんな顔できるようになったんだよ、好きでもない奴の前で…!」
「…あ…の」
「あいつとも…したのかよ…?だからされても平気だったのか…!?ふざけんなよっ、俺はお前をどれだけ…」
「慶次ど」
「あんっな奴…俺の方が絶対お前のこと想ってる!俺以上にお前を好きな奴はいない!俺よりもお前を大事にする奴だって」
「最近会えなかったからって、その仕打ちはねぇだろ!?俺は別れたつもりねぇし、てか離すかよ…っ。知らねぇよ、あんな奴。俺を見ろよ俺だけを、なぁ…っ」
「好き…なんだよ、…。誰にも渡したくねんだよ…。だから……お前の嫌がること…嫌われたくなかったからさ、ずっと我慢してたんだ。今日やったこと全部。どうすれば良かったんだ?…分かんねーよもう、わけ分か」
慶次の言葉が止まる。――止められる。
……唇に、それと同じもので塞がれて。
本当に軽く触れる程度だが、その効果は抜群。…伝わってくる細かな震え。
――慣れている者のする仕草では全くない。
「ゆ…」
慶次の頭は混乱する。
…確か、自分は振られたはずだが。
「――好き…です。慶次殿…」
幸村は顔を燃やしながらも、慶次の目を見て、はっきり言った。
そして、呆然とする慶次の隙にという風に、
「好きです、某も。…某も、慶次殿を好きだったというのに、告げられた際に嬉しさのあまり、頷くことしかできず…それで。それで…練習しておったのです、元親殿にお頼みして」
『良いのか?早くあいつにちゃんと言わねぇと』
『はい。…それはもう……分かってはいるのですが』
しかし、最近慶次に避けられてばかりいたので、愛想を尽かされたのではないかと毎日不安に思っていたらしい。
「すみませぬ…慶次殿に誤解をさせてしまうようなことを。某が初めから言っておれば。…しかし」
幸村は、まだ慣れない動作で慶次の手に触れ、
「嬉しかった……とても。慶次殿はいつもお優しいので…某は、迷惑をかけてはおらぬかと。だから、先ほどのような…」
慶次は、ようやく頭が覚醒し始めた。
「ご、め……俺、ひでぇこと…」
急速に血の気が引いていく。
「慶次殿」
幸村は慶次を窺い、
「ちゃんと…聞いておられましたか?某は…、う、れしかったのです。…某以上にその言葉を言ってくれ……誤解とはいえ、嫉妬まで」
「某の方こそ、申し訳ござらぬ…。慶次殿はそうやって嬉しくて幸せになれる言葉を多く下さるというのに、某は…」
幸村は沈んだ顔になるが、今度は慶次の方からその手を握り返してくる。
「…に言ってんだよ…めちゃくちゃ嬉しいこと…一体どれだけあったと思ってんだよ…」
その眉はこれ以上ないくらい下がっており、目尻は少々滲んでいた。
「はは…。――腰抜けた…」
本当に立ち上がれなさそうにドームの壁へ背中を預けて慶次は笑った。
その笑みは、今までの中で一番ホッとした風で。
「…だから、もう…我慢など、しないで下され。某だって慶次殿と同じほどに想っておるのですから」
幸村は、精神的な意味でのことを言っているのだろうが…
――慶次はニッと笑い、
「その言葉…忘れないでくれよな?」
と、その手を引き寄せる。
重なったシルエットがドームの壁に薄く映し出された。
‐2011.6.29 up‐
お礼&あとがき
雪乃様、リクエスト頂きましてありがとうございます!
本当に、ありきたりな…よめまくる展開でごめんなさい; 知恵が欲しい…。
ボディタッチが普通な感じの慶次が、手すら触ったことないとかあり得んやろ…と思いながらも(汗)
ま、まぁ…恋人になってから、っていう話なんでしょう多分;
初めて尽くしっちゅうことで、このタイトル;
佐助以外と幸村の両想い話は私も初めてだったので、勉強になりました〜。結果コレですが。
良かったらまた遊びに来て下さい♪
本当にありがとうございました。
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