不器用な二人3







「いやー…警察の手続きって、超面倒くさいんだね。遅くなってごめん」

「……」

「──大将は?」
「…職場に泊まり」

「そう…。…はいコレ、無事戻って来た」

と、あの紙袋をテーブルに置く。


「……要らぬ」
「え」

「まだ、卒業しておらぬ…」
「うん、だからさ──」


「受け取らぬ!」


バッと幸村は立ち上がると、佐助の腕を取り、

「そんな格好で走って──バイク相手に、丸腰で!このくらいの怪我で済まなかったら、どうしていたのだ!?こんな物のために、お前がもし…ッ」

「こんな物って……ヒドいなぁ…。結構したんだよ?これ。絶対似合うと思って」

「では、そのときまではもらわぬ。…お前がその日に、直接渡せ」

「旦那…」

佐助は悲しい表情になるが、幸村の顔を見て、ハッとなり、


「ごめん…。もう、無茶な真似しない。……ただ、これは本当に…色んな思いを込めたやつだから、絶対に盗られたくなくて、…受け取ってもらいたかったんだ」

「……」

「財布は、いつも使うでしょ?だから……、…」






──幸村は、あの日と同じことを、またやっていた。





「…二度目は、もう驚かないよ…?」
「………」

「それとも、また…怒らせたいわけ?」
「違う」

「じゃあ…」


「留学なぞ、聞いておらぬ…!大会なんかより、ずっと大事なことであるのに!何故!?」

「……!」


「一体、いつからそんなことを考えておったのだ?どこの国に、何の勉強で行くと言うのだ!?俺が納得する理由でなければ、絶対に許さぬ…!遊び半分で行くのだと言うなら、ここにいろっ。そんなことで、俺から離れるなど」


「だ、旦那…、それって」

「言えぬのかっ?」


「あ!いや…っ」

佐助は慌てて、

「A国、C州、L市で、語学と、専攻してる科目の勉強のためです。…将来のため、に…」


「……そうか……」

幸村は、腕を離した。

そのまま、くるりと佐助に背を向け、


「──ほんの…仕返しだ。大した理由でないなら、殴ってやろうかと……」


幸村の声は、静寂に吸い込まれた。



「な、……にを」


自分の、真似か…?



…幸村は、後ろから佐助に抱かれていた。




「ごめん…。本当は、他にも理由があってさ…」
「ほ、他に…?」


その顔は、幸村の耳のすぐ傍に来ており、そこから熱が回っていく。

…彼の体温は、低いというのに。


「本当はさ、待つつもりだったんだ…俺様と同じところに来るまで。だけど、もう…抑えられそうになくて。怖くて…逃げたくてさ」

「逃げ…」

「──もう、十年以上も片想いしてんだよ…本当に、苦しくてさぁ。絶対、叶わないって思ってたから」

「それで、逃れよう…と?」
「ごめ……俺様、弱虫で……」



───………



「…ならば、やめれば良いだろう。そのような、相手」

「え…!?」

佐助はギョッとし、幸村の肩を掴み、今度は正面から向き合う。


「な、何で」

先ほどのあれは、自惚れてはならない意味だったのか…

佐助に、絶望感が押し寄せる。

しかし、幸村はこれ以上ないほどの、真っ赤な顔で、


「お、お前の十年以上に比べれば、太刀打ちもできぬほど短くて、箸にも棒にもかからぬ、ちっぽけなものなのだろうが…。

──俺のだって、負けぬほど強い」


「は…」


「す、すまぬ、おかしいだろうが…しかし。…そう、だ、慶次殿が仰っておった、あ、愛すより愛される方が、幸せな場合もあると。」

「え、え?」


「俺が…お前の十年以上よりもっと、もっとずっと、想うから。だから、留学する理由に、もうそれは入れるな。…悲しいものを持ったまま、そんなところへ、一人で行くな…」



「……」


佐助は、無言で再び幸村を抱き締めた。

そして、


「旦那って、ホント年下には思えないくらい、男前…」

「そん」
「はぁ。──ホントに好き」


「?何が?」


「ぶっ!」

佐助は、思い切り吹き出して、


「いや〜…ホントに…。泣けてくんなぁ、色んな意味で」


「佐助…?」


佐助は、ニッコリと笑い…ただし、少々情けない顔になっていたが、


「俺様の好きな人ってな、十年以上も一番近くにいた人。俺様と同じところにってのは、高校卒業のこと。色々辛いのは、近過ぎて…遠くて、離れたいのに、離れたくないから。大学の一番の志望動機は、家から通えるっていう…」


「……」

幸村は、口をパクパクさせている。…顔は、気の毒になるほど大炎上。


「ちょっとー…俺様だって、相当キてんだからね、ここに。…んなの見たら、ますますヤバいじゃん。…てか、今思うと、十年以上なんて、全然だわ。今日、この瞬間に比べたら」



二つの手が重なり、指と指が絡み合う。


…数秒間の沈黙は、言葉を紡ぐ二つも、重なっていたせい。





「好きだよ。…これからも、ずっと」

「…以下同文…」

「え、そりゃないでしょ、旦那ぁ」

「──……」



「…よくできました」





………………


その後、佐助は留学するのだが──何と、期間はたったの半年。

幸村の卒業、大学合格発表の時期には戻り、大学三年生から再びスタートする。

そして、同じ大学に合格した幸村とともに、キャンパスライフを堪能した。
…大学院に進み、幸村の卒業までの四年間、全て余すところなく。


念願の、同じ学校生活が送れ、周りも祝福せざるを得なくなるような、それはそれは幸せそうな様子で。


お祝いの財布は、贈った本人と同じくらい、いつも彼の傍にいたらしかった…。







‐2011.8.31 up‐

お礼&あとがき


ぱんだっこ様、リクエスト頂きましてありがとうございます!

うあああ、本当にすみません、こんな…。

とりあえず、スーツ佐助はスゴいんじゃないのかと。それにドキドキして欲しかった、幸村に。

幸村の口を上手くできない(泣)
『自分が佐助をすごく愛して、それで幸せにするから、その人のことは忘れなされ』と言わせたかったんですけど、回りくど…!

佐助の大人の色気や幸村への情熱が、本人たちにも気付かない内に、幸村への罠と化してました。
…というのを出したかったんですが、撃沈!

せっかくの素敵リクを粉砕してしまう傍若無人サイトですが、良かったらまた遊びにいらして下さい(^^ゞ

本当にありがとうございました♪


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