初めての2
(はぁー…。さすがにずっとこれじゃあなぁ…)
慶次は深い溜め息をついた。
あれから数週間、何かと言っては幸村と二人になるのを避けてきた慶次。
だが、長い間ゆっくりできてないことに果てしない寂しさも感じていた。
…極めて複雑な心境である。
(よし。…忍耐力をつけるためにも…本人目の前にしねぇとな)
今日は幸村を誘って一緒に帰ろう。
そう思い、幸村のクラスへ迎えに行くことにする。
『……』
『……』
教室から話し声。――慶次のよく知る声だ。
(いつもの、明るい感じで――)
と、戸に手をかけると、
『……きです』
―――え?
『俺も……だ』
この声…
『良いのか?あいつ…』
『は…い。……もう』
震える声。
少し開いた窓から覗くと、よく知る友人と、…彼の姿。
慶次は、ドアを開けずに一人で帰った。
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「ゆーき!今日は一緒に帰られる?」
「あっ、慶次殿…」
幸村は、どこか心落ち着かない風に慶次を見返した。だが、すぐ笑顔になり、
「はい。ともに帰りましょう」
「…うん」
それから幸村の好きなデザートが置いてあるカフェに寄り、幸せそうに食べる彼の顔を慶次は終始笑顔で眺める。その視線に耐えきれず顔を赤らめる様子も、いつもなら幸村を思って見ない振りをするというのに、一時も目をそらすことはなく。
その後は夕方スタートの映画を観て、慶次は隣のその手に少しだけ触れた。緊張は伝わったが、抵抗は起きなかった。なので、そこを出てから帰るまでの人気のない道で今度はしっかり繋ぐと、幸村は耳まで真っ赤になる。その顔も、慶次の瞳から逃れることは許されなかった。
ぽわんとしたライトの光が昼間のそれとは全く違う顔に見せる、小さな夜の公園に誘うように足を踏み入れる。自分たち以外は誰もいない。
しばらく、懐かしい遊具で二人して子供に返っていた。
ぽこぽこ穴が空いたドーム型の遊具に入ってみると、成長した今の身体では二人でちょうど良いスペース。
穴から光がほんのりと入り込み、適度な暗闇はどこか安心感をもたらしてくれる。
「幸」
再び、慶次が幸村の手に触れた。
幸村は恥ずかしさからか一切彼の方を見ようとしない。
「…俺のこと、好き…?」
その質問に、幸村の反応は素早かった。目を見開き、その後ですぐに悲しげな表情に変わった。
慶次の胸に冷気が抜けていく。
白い光が幸村の顔を浮かび上がせる。唇を見つめる。
幸村の二の腕を力を込めないよう留意しながら掴む。
そのまま顔を寄せた。
「――」
…また、抵抗は起きなかった。
「慶次…殿」
幸村の顔は、見たこともないくらいの…。
恥じらいに色付かせながらも、どこか喜びも混じったその。
慶次の胸に、抑え隠してきたものが一気に込み上げてきた。
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