臆病者の結末3
『まさむねどの、だいすきでござるっ』
「……」
「……」
佐助は、何回か押してみた。
『まさむねどのがいちばん、くーるでござるな!』
『かっこいいですぞ、だれよりも!』
『はやく、おあいしとうございました』
『…おやさしいところも、あるのですなぁ』
『──だいすきでござるっ』
……………
「…何コレ……ショッボぉ…」
「案外、慎ましかったんだなぁ、政宗…」
佐助と家康が、引いた目で見ていると…
「……は、れん…ちな……」
幸村は、プルプルと身体を震わせ、真っ赤になっている。
(え、あのくらいで…?)
同じ思いに違いない、三人。
「だ、だだだ大好き……など、と」
(あー……)
どうやら、先日の政宗のふざけた告白でも、大事なところは通じていたらしい。
「…しょーがねーだろ、本当に好きなんだからよ…」
「──!!」
幸村も佐助も、硬直した。…家康だけは、楽しげに眺めている。
「いつか、必ずその口から聞き出す。…覚悟しとけ」
シリアスな顔で、幸村に近付く。
「ま、さむね、殿──」
カチッ
幸村は、思わず人形を強く押してしまい…
『…あつうござるっ、まさむね、どの…っ』
「……は?」
「あ、ちょっと、幸村…」
政宗が慌てて手を伸ばすが、幸村は軽く避けて、ボタンを数度押す。
『もう、かんべんしてくだされ…、…っ』
『は、はずかしゅうございます』
『…まさむねどのの……おすきなように…してくださ』
「──政宗殿……これは…」
「てんめェェ……」
ゴキ、バキと手を鳴らし、瞳孔全開の佐助。
「いや、これは…!てか、こんなのまだ可愛いモンだって!パス入れるとな、もっと際どいのが──」
「天誅!!」
「幸村!いつか絶対、これも言わせてやるから、楽しみに」
「………」
「…一言が、多いんだよなぁ」
今度、正しいアプローチの方法とか書いてる本、プレゼントしてやろう。
…家康は、やれやれといった風に、二人を止めるため腰を上げた。
(…ったく、あの変態が)
佐助は、目の前にある、あのチビ幸村を眺めながら顔をしかめていた。
結局、家康に戻すと他の奴に売られていきそうな気がしたので、奪い取って来たのだ。
(よく、こんな小さい子に、あんなこと言わせられるよ)
本物の、大人な姿ならまだ分かるけど──
……いやいや。
佐助は首を振り、その考えを棄てる。
「……」
政宗が入力していた台詞は、全て消去した。…今は、無言の彼。
(『お館様ー!』とかかな?やっぱ…)
苦笑しながら、キーを打とうとしたが、
……気付くと、全然違う言葉になっていた。
(う…わ!ヤベ、無意識に…ッ!消せ消せ)
「──佐助、風呂空いたぞ」
「っ!…っうん、分かった!」
タイミングが遅ければ、入力してしまったものが、音になっていたかも知れない。
胸を撫で下ろし、佐助は部屋を出る。
「──……」
幸村は、佐助の様子を敏感にも悟り、チビ幸村の、台詞入力システムを見た。
「……?」
(何を入れようとしていたのだろう…)
そこには、一番最初の二文字だけが、残されていた。
『好きなんだからよ──』
佐助は、風呂に浸かりながら、何度もあの言葉を思い返していた。
(……俺様だって……)
しかし、すぐにあの笑顔が浮かぶのだ。…決して失いたくない、その顔が。
(──ダメな奴……)
…のぼせる前に、上がった。
『──……っ』
(……ん?)
リビングから何か聞こえ、佐助は耳を澄ませてみた。
『──、さすけっ』
(え?何か、言われてる?俺様…)
コソッとドアに忍び寄り、中を覗く。
見えるのは、幸村一人の背中。
(一人言…?)
『だいすきだ、さすけっ』
「──……!?」
ノブを持つ手が止まる。
「…これは、違うよな…恐らく。政宗殿のから、頭を離さねば…」
幸村は、苦笑いをもらし、それを消去しているようだ。
『だいすき』
「…お主、すごいな。俺と同じには、全く見えんわ。…政宗殿もそうだが…」
幸村は、その四文字も消して、
「二人を…見習わねばならぬな。…その勇気を」
そして、
「『だい』…『だい』……何だろう…他に……」
───………
(……合ってるよ、旦那……)
佐助は、とにかくまず…
この、赤くなっているだろう顔や、飛び出そうな心臓、微かに震える指先、まともな声を出せそうにない喉、全部溶けてしまったかのような、頭──
これら全てを、どうにか元通りにしてから、部屋に入ろうと思うのだが。
結局、静まりそうにないのをすぐに悟り、その言葉だけはハッキリ伝える──それのみを、ぐずぐずの頭に入れ、
…一歩、踏み出した。
‐2011.8.30 up‐
お礼&あとがき
葵様、リクエスト頂きましてありがとうございます!
やりたい放題しちゃってすみません!政宗、あんな感じにした上、可哀想なことに;
最後、佐幸ちっく。
チビ幸村の声も、本物とほぼ同じなので、あの一言は、相当な攻撃力だったみたいです。で、『もしかして、旦那も俺様のこと…?』と。
私の文章では、佐(←)幸、伝わらんかもと思いまして、補足をば;
家康が政宗に買ってあげる恋愛指南書は、ムダになります(^^; でもきっと諦めないはず、彼は。
かすがちゃんは、女子高生の振りをしたボディーガード(つるぎ)なんですよ。謙信様が、何に狙われてるかは、不明ですが(@゚▽゚@)
ウチの家康は、KY。の振りした何か。
こんな珍妙妄想サイトですが、良かったらまた遊びにいらして下さい(~_~;)
本当にありがとうございました♪
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