臆病者の結末2
「はぁー…スゴいねぇ」
「元親殿がおれば、大喜びであったろうな」
「……だね」
家康は、ハハハ、と笑い、
「今度は、皆で来ると良い」
──家康宅の巨大な地下室にて、幸村と佐助は、口をあんぐりとさせていた。
周りには、映画に出てくるような、機械やロボットなどがスペース一杯に広がる。
「特別に、とっておきの新作を見せてやるぞ。…ほら」
と、示された方を向くと──
「え…っ?」
「上杉先生…!?」
…その美しい人は、ショーケースのような、ガラス張りの小部屋に直立していた。
それを開け、家康が二人の前へ誘導する。
…全く無理のない動きで、謙信?は到着した。
「すごい…」
「本物、そっくり…」
「そうだろう?ワシも少し参加させてもらったんだ、制作に」
「でも、何で先生?」
「それがなぁ…」
作り手としても、やはり美しいモデルの方が、やる気が出るというもの。
家康は、まず孫市に頼んだらしいのだが、門前払い。
次に、かすがに言ってみると──
「…まず、力量を見せてみろ、と言われてなぁ…」
「ああ…あいつらしいねぇ…。──で、どうだった?反応は」
「それが…」
『ふざけるなっ。これが、あのお方だと!?お前らの目は、節穴か!?ここは、こうじゃない、もっと美しく──ああ、何だこれは?謙信様の指は、もう少し長く、滑らかだ!出直して来い、貴様ら』
『あ、じゃあ詳しく知りたいんで、本人に触らせてもらっても良いですか?』
──と言った研究者は、今、長期入院中であるらしい。
「…あ、はははは…」
「──しかしな、この機能は、結構気に入ってくれてたぞ」
家康が、謙信モドキのうなじを押すと…
『わたくしの、うつくしいつるぎ…』
「「!?」」
しゃ、喋った!?
…しかも、本人の声!!
「これ、面白いだろう?作ったんだよ、色んなデータ組み合わせてなぁ。他の奴の声も出せるんだぞ?まあ、これは先生以外の設定は許されなかったんだが…」
「す、すっげぇ…」
「本人の声にしか、聞こえませぬ…」
『なまえでよんでも、よいですか…?かすが……わたくしの、うつくしいひと…』
「……」
『あなたいがいは、このめにははいりません…。しんげん…?けいじ…?だれです?おかしなことを、いいますね…』
「……」
『わたくしには、あなただけ…。ごらんなさい、あなたとわたくし、…ほかにだれがいるというのです?はじめから、せかいにはふたりだk』
…佐助が静かに、うなじのボタンを押した。
「──……」
「佐助?」
佐助は、しばらく考え込む様子を見せていたが…
「もしかして……これじゃ」
「え?」
「…ね、徳ちゃん。──まさか、政宗にこれ…」
「ん?」
「…旦那の、作ってあげたんじゃ…あいつ、ボンボンだし」
「俺の?」
家康は、「おお」と声を上げると、
「何だ、口外するなって言ってたのに、やっぱり話してたのか?お前ら、仲良いもんなぁ」
「違うから。──てか、マジで…?信じらんねぇ」
「?何だ?どういうことだ、佐助?」
佐助は、心底気分が悪いという顔で、
「あいつ、旦那の人形に…勝手なこと喋らせて、妄想浸ってたんだよ。気っ持ち悪…!」
「な…!?」
「きっと、あんなことや、そんなことや……、…〜〜あり得ねぇ!許せん!百回は殺んなきゃ、気が済まねぇッ!!」
「さ、佐助…?」
「何だ、何だ?やっぱりお前、真田のことが」
「徳ちゃん、空気はね、吸うだけじゃなく、読むこともできるものだって知ってる?てか、知れ」
「ど、どうした佐助?」
「真田、こいつな、お前の知らないとこで、結構こういう…」
「アンタも同罪だからね、あいつに、こんなもん渡して」
「Ah〜?何だ、客か?家康……ッ?」
階段を降りて顔を覗かせた政宗だったが、幸村と佐助の姿を見て、すぐに踵を返す。
「何で、お前らが…!?」
「テメェェーッ!今すぐ家に連れてけ!跡形もなく、ブッ壊してやる!」
「そんなこと、できるのか?──これだぞ?」
家康が幸村を示すが、
「政宗殿、目を覚まして下され!佐助、俺がやる、どけ」
若干、青い顔で政宗に掴みかかる幸村。
「や、まず俺様に殴らせて。旦那がしたら、家行く前に逝っちまう」
「何なんだよ?何がワリーっつんだ?本人に実害はねーんだから、構わねぇだろが!?」
「…気分が良くないでござる」
「ヴッ──!」
幸村の一言に、ガクッと膝を着く政宗。
『ゴトン……ゴロゴロ』
「?」
政宗の持っていた荷物から、何かが転がった。
「何?これ」
「か、返せ!」
佐助が拾うと、政宗が噛み付くが…
「こ、これは…っ!」
「何だ?」
幸村が、横から覗くと、
「……俺……?」
──それは、目覚まし時計くらいの大きさの、幸村の人形。
幸村を、そのまま小さくしたような…顔もその分、幼いのだが。
「も、しかして……これ?」
佐助が家康に見せると、
「政宗の小遣いでも、このクラスはさすがに無理だ。でも、それもなかなか良くできてるだろう?」
と、にこやかに答える。
「た、確かに…」
佐助の視線は、チビ幸村に集中しっ放し。
(…てか、俺様も欲しい)
「これも、喋るのであろうか…」
幸村の言葉に、ハッとし、
「そうだった!政宗、覚悟!」
「Wait、wait!!頼む、やめろッ」
(旦那に、完璧嫌われろ!)
佐助は、ボタンを押した。
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