緩やかなる決壊3








『佐助、またあれに乗ろう──』


お化け屋敷から出て、真っ赤な顔で叫ぶように言った幸村。



…今思えば、あのときに止めるべきだったのだ。









「大丈夫?旦那…」

ピタ、と冷たい水で濡らしたハンカチを額に置く。


「すまぬ…」

さっきからそればかり言っていた幸村だったが、

「…もう、平気だ」

と立ち上がり、インフォメーション内の緊急の医務室を後にした。


外はもう暗く、園内はライトアップされて、何とも好い雰囲気。

…しかし、隣の幸村はまだ少し青い顔。


お化け屋敷の直後のあれは、体調の悪さも入っての色だったのだろう。

何故、それにすぐ気付いてやれなかったのか──佐助の心は、後悔で一杯だった。



(観覧車なんて、問題外…)


かなり残念ではあったが、それよりも早く幸村に元気になって欲しい。



「ちょっと…観てから帰っても良いか…?」

幸村がネオンを指すと、佐助も救われた気がし、


「うん。──ここ、座ろ」

と、ベンチに促した。


しばらく二人、静かに光を眺めていたが…



「…昨日、なかなか眠れなくてな…」

幸村が、少し笑みを含んだ声で言った。


「そ……なんだ」

こうも素直に言われると、かえってからかったりできない佐助。



(ど、どーしちゃったの旦那?何か、やけに…)


…いや、幸村はいつでも可愛いが。

照れて本心とは違うことでごまかすのが、特に──と思っていたので、初めて見る姿に、佐助の頭はかなり動揺していた。


「あ、あのさ!…旦那って、絶叫もの、すごい好きだったんだねッ?普段、忙しくて行けないもんね…今度はさ、体調バッチリにして、今日よりガッツリ乗ろう?ね!」


「………」

幸村は、佐助を見つめ、「いや…良いんだ」


「え…っ?」


(お、怒らせた…!?)



「佐助は、強いのだな…。全然、怖がらない」

「え?あー…」


まさか、そんな格好悪い姿なぞ、見せるはずもない。
というより、そもそもあの程度で恐怖は感じない。


「なぁに〜?そんなに勝ちたかったの?ったく、旦那はいつもそうなんだから…」

佐助は、苦笑した。

だが、そういうところも、可愛く思えて仕方ない部分の一つ。


「…では、なくてな…」
「え?」


「……」

幸村は、少しためらうと、


「あのな…、──同じ恐怖を、ともに感じた男女というのは、後に恋人同士になることが多いらしい」

「あー、何とか言う……吊り橋ナンタラ効果ってやつね」


(──って、それ…)



「男女ではないが…」
「え!?旦那、俺ら恋人同士だよねッ?既に」

まさか、自分の勘違いだったのか!?と恐ろしい考えが襲い、佐助はいつになく慌てた姿を見せてしまう。


「あ、あああ当たり前だっ」
「(ホッ)──んじゃ、何で…」


「………」

「旦那……?」



「──だ」

「え……?」

幸村は、佐助に目を向け、


「不安……だったのだ」

「不安…?」


ああ、と幸村は息をつき、


「お前は、俺と違っていつも冷静で……すごく、大人で…格好良いし。…俺ばかりが、このように…」

「──…」


「だから、その……──ど、どきどき、して欲しかった、のだ…っ。何でも良いから、恐怖がきっかけでも、騙されてくれれば」



……………



「佐助…」


(きっと、呆れて…)





「──旦那って、ホントに…」


佐助は下を向いたまま、ベンチに置かれた幸村の手に自分のものを重ねた。

そして、それをそのまま持ち上げ、


「佐助…?」

「…ほら。──分かる…?」


佐助の左胸に置かれた、幸村の手の平。

…果てしなく忙しない鼓動が伝わってくる。



「俺様、いつもこうだよ…。あんなもんに乗らなくても、旦那といると、それだけでこんなんなんだよ?超カッコわりーでしょ…」


「さ、すけ…」



「旦那が好き過ぎてたまんなくてさ…。自分でもキモいって自覚してっから、どーにかバレないよう、必死こいてイケメン振ってたんだけど…




──もう、限界」




その一言と同時、幸村の手を引いたまま近くの建物の、死角に入り…



「──……」



…幸村のことを、やはりどこかで子供扱いしていたのかも知れない。


何故なら、またもや予想外だった。



──目を閉じてくれるなんて。


…こんなにも柔らかで、甘い…なんて。





「──っふ……、ぁ」


夢中になってしまい、その声を聴くまで、自分の行為のとんでもなさに気が付けなかった。

だが、同じくそれが熱を加速させる。



「…っは、…だ…んな…」


離れる際に鳴った、ちゅく…という音が、さらに頭を痺れさせる。



「……」


無言のままの幸村。


謝るべきか?──しかし、後悔はしていない。

だが…




「…は、初めてのくせに何故…」


幸村は唇に甲を乗せ、赤い顔で恥じらう。



「我慢できなかった。…気持ち悪かったよね、ごめん」

したことは謝らないけど、と付け加えると、



「ち…がう…っ。何故、初めてなのに、そんなに慣れておるのだ…っ?お前まさか、他に──」



再び軽く塞ぎ、…離れる。



「…何でかってさ、聞かない方が良いよ…?言ったでしょ、俺様キモい奴なんだって。──想像だけで、ここまでできるようになる変態…どう思うよ?」


「……」



佐助は、熱を帯びた瞳と頬のまま、


「気持ち悪いだろうけどさ、…本当に好きなんだ。──俺だけのものになって……旦那」


耳朶に口付け、囁く。



幸村は、微かに身を震わせ、


「やはり…お前の勝ちだ。──敵わぬ…」


と、諦めたように力を抜いた。






…そんなことはない。

やっぱり、俺の方が数倍余裕がなくて、…想い過ぎてる。


でも、その気持ちはずっと持って…騙されたままでいて欲しい。

そう思ってくれればくれるほど、こうやって俺の想いは増長し、その不安を払拭し続けるから。



…俺を求めて。

何が理由でも良い。

そのためなら、不安がらせることになったって、罪悪感も持てない自分は、本当に駄目な奴だという自覚はあるのだけど。



それ以上に、…………から。


だから──…





しっかりと掴んだ手を離さぬまま、二人は歩き出す。

今日だけは、このままいつもと違う自分たちになっていたい彼らを、後押しするかのように…

光の洪水が、背後でいつまでも輝き続けていた。







‐2011.8.17 up‐

お礼&あとがき


明華様、リクエスト頂きましてありがとうございます!

本当にすみません!自分的な甘々が、こんなんで…;
大丈夫ですか、吐かれなかったですか…!?
反吐とか唾とか砂とかは、思いっ切りペッして下さい!

完全、欲望の赴くまま自己満足突っ走りましたm(__)m
カッコいい佐助が書けない;

幸村は、佐→←←←幸、
佐助は、佐→→→→→→←幸
って思ってるようです。でも実際は、矢印数同じ(≧▼≦)
ラッブラブでいらっしゃるvV


こんな結果になり申し訳ないですが、良かったらまた遊びにいらして下さい…!

本当にありがとうございました♪


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