深夜の青い春4






それから数日後、幸村は店に現れなくなった。

急に、また別の会社――これも叔父のものだが――での研修が決まったらしく、最後の挨拶は、佐助の休日にして行ったらしい。

佐助に限らず、スタッフ全員へお礼のお菓子等は置かれていたが…。



「さぁあ、飲み直すよー!カラスも来てよね!」

閉店後、やたら今日はテンションがさらに高かった慶次が、休憩室で皆に声をかけている。


「どーしたの?夢きっちゃん…。いつもより何か…」

と、元親にこっそり尋ねると、

「broken heart…らしいぜー?ま、毎度のことだけどな」

代わりに、政宗が答える。

「今度のは、運命だ!ってすげぇ舞い上がってたからなー…相当痛手だったらしい。…しかも、コクる前にフラれちまったし」

と、元親。


「へー…。そんな人がいたんだ…」

「――何だ。お前、知らなかったのか?あの話」



「え……?」














「カラス殿…」
「…ごめん。呼び出したりして…こんな、遅くに」

都会の街から少し離れた、ある橋にて落ち合った二人。

乳白色の街灯が、いくつもの影を地に映し出す。…車も人も通らない深夜。


「いえ…、…あの…」

「皆に聞いてさ。


…お見合い…――するって…?」


「あ…」

幸村は、赤くなり俯く。


「…同業の家の、お嬢様なんだってね。旦那、大丈夫?お姫様たちとはまた違うかも知れないから、当日失敗すんじゃないかって…」

「よ……余計なお世話にござる」


「あ――うん。そうだよな…」



「では…」

と、去ろうとする幸村の手を、佐助が素早く捉える。


「カラス殿…?」

「あっ――」

佐助はすぐに手を離し、


「ご、めん…。…というか、こないだも…」
「……」



「――聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」


うん、と佐助は頷き、


「俺らの仕事……旦那は、どう思ったのかな、って」
「…え……」

「大将だって、若いときはそうだったけど……旦那自身は、どう思ってんだろう…って」

「それは…」


幸村は、普段のように真面目な顔になり、


「…実は、思っていた以上に…大変な仕事だと。テーブルでの所作から、至るところまで細かくやることが一杯で。

お客様へいかにサービスを奉仕するかは、一般の企業とも何ら変わらぬ姿勢であるし。

満足して頂いたからといって、それに留まらず、日々お客様の気持ちを考え――また、喜ばし。金と同等以上のものを与えられるよう、皆必死に…」

幸村は、顔を歪め、

「…カラス殿が、某に言われたことは、本当に真実。申し訳ござりませぬ、生半可な心構えでお仕事のお邪魔を…」




「……違うんだ……」


――小さく、囁かれた声。



「カラス殿…?」

「…違うんだよ」


佐助は繰り返し、


「俺様……最初っから、嫌だった。アンタがあの店に来たことも、その理由が女を克服させるためもあるってことも…」

「……」

「…だって、アンタにあんな場所、似合わない。いさせたくない。だから、毎日毎日嫌でたまらなかった。…多分、それは俺様がこの仕事に、本当はどこかで劣等感を持ってたから」

「劣等…」

「ナンバーワンになっても、心底誇りにできない。…根っこから、この仕事に打ち込めてないから。アンタに、そんな自分を見られるのがすごく嫌で…。――だから、聞きたかった、アンタはどう思ってるんだろうって」

「……」

「嬉しいよ。…本当は、自信が欲しかった。この仕事に誇りが持てるような、何かを。…アンタが来て、実は……それを客から教えられたんだ。
でも、もっと努力しなきゃダメだ。そんで、誰もが認める奴に、絶対なる。…なってみせる、だから――」



(え……)




「見合いなんて――やめなよ……」



…回された腕。

目の前に来た肩が、微かに揺れて…



「…あいつらにあの目を見せたのも、嫌だった。――本当は、胸が苦しくて……あんなの、初めてで。
…あれを、俺に……練習じゃなく向けて欲しい。この先、ずっと」


「――…」

幸村は無言のまま、微動だにしない。



(俺様、初めてフラれるんだ…)



そう佐助が、彼から離れると、



(…え…)


目に入ったのは、




「カラス殿ばかり、ずるい…。某にも言わせて下され」

幸村は、真っ赤な…かつ、情けない顔で、

「あの、カラス殿のクールな顔…。あれを、他の人には絶対見せないで頂きたく…――仕事以外では」


「え…」



(えっ――……?)


釣られて、すぐに顔が熱くなる佐助。

……続けて、早鐘を打ち鳴らす心臓。


幸村には気付かれないことをひたすら願いながら、


「仕事でも見せない。…だって、知らないんだ、初めてした顔なんだから。


……どんな顔してた?」



…だから、反応が予想できなかったんだ。


(――それ見て、旦那は…どう思った…?)




「……教えて……?」





…その後、幸村の見合いを破談にさせた償いの意味も加え、彼は、あの店に大いに貢献するようになる。

信玄の元で働くようになった幸村を、「上司なんだから」と、敬語を止めさせ、自分を本当の名で呼ばせ…


『鴉』は、信玄の『大虎』に続く伝説の名となり、佐助は、あの日の言葉を本物にする。


――ちなみに、幸村が深酒をするのは必ず自分と二人のときに、というのは最後まで違えることはなかった。




(だって、本当は……)



……めちゃくちゃ可愛くって、どうにかなっちゃいそうだったんだよ…!!









‐2011.8.11 up‐

お礼&あとがき


キリ番4444踏まれた方様、リクエスト頂きましてありがとうございます!

せっかく素敵なホストパロを下さったのに、ホストっぽいところが少ないし知識薄いしで、本当に申し訳ないです(泣)もっと、ワイワイきゃあきゃあとするもんだったのでは…とか(--;)

しかも、クサいしで。
佐助、二重人格気味…? お見合いを聞いて、突然分かりましたみたいな。こう…何かのきっかけで必殺技に覚醒する、漫画の主人公みたいな(汗)

源氏名は悩んだんですが、いや、でも本名じゃないよねホスト。うーむ(@_@;)
で、あのひどい名付けセンス(涙)

こんなことですが、良かったらまた遊びにいらして下さい…!

本当にありがとうございました♪


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