深夜の青い春3







「もー…」
「……か…たじ、け……にぁい…」
「にゃいって何?にゃいって。飲み過ぎだよ、たく…」

きつくした目を、幸村に向ける。
佐助は肩にその腕を抱え、彼の顔はずっと俯かれていたのだが…


「…すみま……せにゅ」

と、ふにゃふにゃ笑う。


(……少しも効いてねぇ)

佐助はソファに幸村を座らせ、冷蔵庫から水を持って戻る。


「…って!こんなとこで寝るなってば、もう…!」

ペシペシと頬を叩くが、佐助を見上げ、先ほどのように笑うばかり。

「みず……」
「ほら…(何で俺様がここまで…)」

佐助は、幸村の背中の下に腕を回し、少し持ち上げる。
コップを唇に付けると、初めは勢い良く飲むのだが、途中からこぼしてしまい…

「あっ、もぉぉ…っ」

(赤ん坊かよ!)


拭くものを取ろうと腰を上げると、幸村が佐助のシャツの襟を掴んで引き寄せた。

(え、ちょ…)


――ぐいー。……フキフキ


「ちょおっ、人の服!勘弁――」

近付いた唇からもれる、酒の匂い。
ウィスキーなどの強いものではなく、甘さを含む…

佐助は、幸村が果実酒ばかりを好んで飲んでいたことを思い返す。


(…だから、お子さまなんだよ)


「ほら、服脱いで……ちゃんとベッドで寝なって」
「……ん…」

幸村はボタンに手を掛けるのだが、もたもたとおぼつかない。

「あーもう、ホントに…!」

佐助がパパッと開き、上体を起こし、アンダーシャツもどうにか脱がせた。

「立って、下脱いでてよ?」

そこまで面倒見きれるか、と佐助は着替えを持って来るのだが、


(――もう、放っとこうかな)

……またもや、ソファに仰向けになっていた幸村。


「――……」


綺麗についた筋肉と、呼吸に合わせて動く肩や胸が、佐助の目に留まる。


(へー……ヒョロいかと思ってたけど…)


腹筋にそっと手を乗せてみると、固過ぎず、しなやかな弾力が返って来た。

やたら肌がスベスベで……つい、そのまま腕や脇腹を軽くさすってしまう佐助。


(…体温まで子供…。…あ、酒のせいかな。
…肩の辺りも、綺麗…)





「……す……どの……」


――幸村の目が、開いていた。


…いつもより細められたそれ。
そこから向けられる眼差しが、佐助の瞳へ一直線に注がれる。

正にその表現がしっくりする…視線以外の何かが流れ込んでくるような、不思議な感覚に陥った。


(…旦那……)



「――いかが、でしたでしょう…?」

幸村が、おずおず口を開く。

…あの視線がなくなり、心の平常を取り戻す佐助。


「…何、が…?」


「…リュウ…どのが…教えて、下さった……クール、な……」


(あー……)


佐助の中で、すぐに全てが明解に。

政宗の言動を真に受け、今まで一人、何度も練習に励んでいたのだろうか。
…そう思うと、呆れよりも降参する気持ちの方が、強く押し寄せる。

本当にこの子は、どうしようもない真面目な……と、だがそれは、馬鹿にするものなのではなく――



「…リュウ殿たちは、褒めて下さったのですが、カラス殿のお眼鏡に敵うかどうか…」

「――……」



(あいつらにも、見せたんだ…)


――佐助の心は、急激に正反対のものへと変わる。





「……そんなの、全然ダメだね」

佐助がぶっきらぼうに言うと、


「です、よな……」

と、目を伏せる幸村。





「クールな視線ってのはね――…




………こう…」



目の前が、幸村の顔だけになるくらいにまで近付く。

改めて見ると、…本当に澄んだ瞳。
光も何もない場所でも、ここまできらめくのは一体。

そこに、自分がどう映るのかは、全くもって予測できない。何故なら



「…アンタにゃ、現場は向いてないよ。上で働くのは、決まってるんでしょ?だいたいのことは見知ったんだから、もう充分だと思うよ」

「――え…?」


佐助は、鼻で笑うと、

「分かんないかなぁ…。――邪魔だっつってんの。俺様も、大将の手前我慢してきたけどさ……アンタの世話や尻拭い、結構キツいんだよね。何やかんやで、最初に予定してた見習い期間、過ぎてるでしょ?」

「………」

「他の奴は何も言わないかも知れないけど…俺様は、今すぐにでも辞めて欲しいのよ。別に、大将に告げ口しても良いよ?まぁ、恩知らずなこんな奴だからね。今回のことで見損なわれた方が、これから楽だし?」

「――……」


「…ま、そういうことで。――じゃね、おやすみ…」


佐助は出て行き、幸村は遅れて立ち上がったが…

フラッとよろけ再び座り込み、同じことがなされることはなかった。

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