深夜の青い春2
「笑顔と……クール…」
うーん…と頭をもたげる幸村。
(…ったく、からかわれてるとも知らないで…)
佐助は、息をつき、
「帰るよ、小虎のダンナ」
「あ、はい!」
深夜一時を過ぎ、帰路につく二人。
女の子じゃないのだから必要ないのに、とつくづく思うのだが、あの支配人からの命とあらば逆らえない。…佐助は、毎日彼を家まで送り届けていた。
「…どう、少しは慣れた?」
「あ、はい!皆さん、よくして下さるので…」
「そう…」
(……あー……苛々する)
裏表がなく真っ直ぐで、その瞳には汚れ一つない。
他のどんな人間よりも、極めて善良――それは、日を追うごとに思い知る事実。
だが、その分増していくのが、この…
(…何でなんだろ…)
彼が来てから、毎日こうだ。
今までは、何の障害もなく仕事をこなし、売り上げは望む以上に伸び続ける日々。いや、別に指名が減ったとかいう事態にはなってない。
なのだが…
「今度のイベント……頑張ろうね」
「はい!」
その笑顔に、胸の奥がざわつく。
(――嫌…なんだ…。俺は…)
「夢ちゃん、おめでと〜!」
「ありがとー!んじゃ、遠慮なく頂きま〜す!」
わぁぁ〜!と湧く歓声。
ホストクラブで一際華やかな催し、シャンパンコール。
積み上げられたグラスが、キラキラと輝く。
本日の主役は、慶次こと夢吉。
彼のバースデーイベントで、店内は当人を囲い盛り上がる。
誰もが、入った酒を飲むことができるというわけで…
「ドンペリ入りましたー!」
「あっ、次私も!夢ちゃんのために、ゴールド入れちゃう!」
「マジで〜!?ありがとー!お姫様!!」
「私、プラチナ!この日のために用意してたんだよ〜?」
「う〜わぁ…!嬉しくて泣きそう!俺、もっともっと男上げるから、これからもよろしくな!?」
「夢ちゃんカワイイ〜!!」
きゃあきゃあ言う声の中、政宗、元親もいつもより酒が進む。
「リュウ様、素敵〜!」
「こっちにも来て、リュ〜ウ〜」
「Haha、夜はまだ長いぜ、princess…」
「オーちゃ〜ん、すごーい!」
「男らしーい!」
「そうだろ!?野郎ど――お姫様ども!アニキって呼んでくれて良ーんだぜ!?」
だが、すぐに元就からの華麗な拳が飛んでくる。
「さっ、トラちゃんも飲んで飲んで!?」
「はっ!ありがとうございまする、お姫様!」
生真面目な顔で受け取る幸村。
「トラ、普段あんま飲んでないから、今日はガンガンいっちゃえ!」
「夢吉殿…っ。はい、頂きまする!」
「おっし、その意気や良し!」
――佐助は、その様子を少し離れた席で見ていた。
(…まあ、大丈夫…か。旦那、強いみたいだし…)
イベントを、ゆっくり眺めたいらしい客と、二人。一時の騒がしさは治まり、ポツポツと客が話し出す。
…仕事や、人間関係の悩み。
「――そっか…。俺様が思うに――」
―――………
「………」
「ん?どうかした?」
静かになった客を見返すと、
「や、何か……カラス、変わったなーって」
「……変わった?」
「うん。…前は、そんなに一生懸命色々答えたりしなかった。あ、でもいつも甘いこと言ってくれて、気分良くしてくれてたけどね?何て言うか…」
(――……)
彼女は微笑み、
「こういうの、すっごく良いと思う。…また、話聞いてね。ありがとう」
「あ、――うん…」
―――………
イベントは大盛況で――深夜を過ぎ、閉店。
ソファに転がる、慶次、政宗、…幸村。
「旦那、起きて。帰るよ」
幸村のマンションまでは、歩いて着ける距離なのだが、
「……にぇ…?…らす……どの……」
ぽわーんとした表情と目で笑う彼。
(…こりゃ、今日はタクシーだな)
すぐに呼び、他の二人は元親に押し付け、店を出た。
[ 20/101 ][*前へ] [次へ#]