慟哭の夜2







「…旦那、俺様といて楽しい?」
「ああ、もちろん」

「他の友達より、俺様の方が大事?」
「当たり前だろう」


「俺様のこと…嫌い?」
「そんなわけないだろう?馬鹿者」





「じゃあ――好き?」





佐助は、またあの表情を見せて問う。

幸村は、顔に熱が集まるのを感じていたが、





「……好き、……だ」





――その顔は見たくない。



佐助は、初めて心底嬉しそうな顔を見せ、その日から毎日幸村の部屋に泊まるようになった。

と言っても、幸村を腕にして眠るだけだ。
…すっぽりと、包み込むように。
抱かれる側だというのに、幸村は何故かいつも逆の立場にいる気がしてならない。

すがられている、ような。


そして、日に何度も何度も問うのだ。



「俺様のこと…好き?」





――それから、佐助はバイト先を幸村と同じところに変えた。

幸村の入っているサークルが終わるのをいつも待っている。
申し訳なく思った幸村が一度早めに切り上げると、佐助はあの嬉しそうな顔で出迎えた。


…その日を境に、サークルに赴く回数が激減した。


ほとんど四六時中二人でいる。

友人たちと、疎遠になっていった。





「…佐助?」


佐助が、幸村のケータイを開いていた。


「あ、旦那」

佐助はニッコリと微笑み、

「もう良いよねって人たちの番号、消しといてあげた。俺様も、全部消したよ」

「……」


幸村はケータイを受け取り、電話帳を確認する。


「…俺様より大事な奴なんて、いなかったよね?」


幸村は、消された者の顔を思い浮かべながら…


「ああ」


…お前より大事であるわけがない。


佐助は、またあの笑みを見せた。

幸村も同じように笑う。


電話帳には、まだ消されていない者が何人か残っていた。












「最近…らしくないよ」


慶次が心配そうに幸村を覗き込む。


「そんなことはありませぬよ?毎日、健やかに…」
「や、そういうことじゃなくて」


慶次は、幸村の手に触れ、

「心配だよ、俺…。だってさ」


「慶次殿…?」



「……」

慶次は、しばらく黙っていたが、


「俺……自惚れてたんだよな。あの、花火の日…」
「――え?」


慶次は苦笑し、

「お前が……俺のこと、ずっと見てた気がして…」


「――……」

幸村は、ピクリと触れられた手を動かした。

慶次は、それを感じ、



「幸、俺…」



幸村は、パッと勢い良く立ち上がり、


「某は、慶次殿を見てなどおらぬ。……思い違いでござろう」



「幸…」



慶次は、少し悲しげな顔になり、

「――だよな。…ごめん、変なこと言った」


「いえ……」




…それから、キャンパスや他の場所でも、慶次と会う日がなくなった。













「お疲れー」
「ああ、待たせた」


幸村のバイトが終わると、佐助がにこやかに出迎えた。
外で数時間待つなど退屈だろうと幸村は気遣うのだが、本人は「全然」と首を振る。


「…シフト、一緒にしてって言ってんだけどなぁ」
「だが、だいたい同じではないか。全てするのは無理なのだろう」
「一緒にしてくれた方が、俺様の優秀さもケタ違いなんだけどな」
「……」

佐助は、毎日そういうことをサラリと言う。
幸村は、いつまで経っても慣れることがなかった。

…その顔を見て、佐助はまた嬉しそうに笑う。





「――あ、…慶次」

「え…」



佐助の言葉に振り向くと、もう数ヶ月は見ていなかった彼の姿。


社会人ではあろうが、童顔の可愛らしい女性と車を挟んで立っていた。


向き合い、二人で楽しそうに話している。

慶次が甘えるように、何やら謝っている雰囲気。
女性は、仕方ないという風に、だがその顔は笑っており、瞳は親しげな者を見るそれ。


慶次が助手席に乗り、女性が車を走らせた。





「…新しい彼女、年上なんだ」

佐助が呟く。



「そうみたいだな」

幸村も頷いた。

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