プレミアムナイト3





「さ、サンタどの……?」

「フォッフォ、その通り。──見てみるかの?」

と、まだ呆然とした幸村を、バルコニーに誘い出すサンタクロース。

立派なソリには、白い大きな袋がいくつか乗せられ、綺麗なトナカイが二頭いた。しかし、彼らは石のように固まって動かない。


「今は魔法で止めておる。坊やにびっくりして鳴いたら、近所迷惑じゃろう」

「まほう…!」

幸村はパァッと顔をほころばすが、「…っくしゅん!」とクシャミを一つ。
「あぁ、すまんのぅ」と、サンタは幸村を部屋に入らせ、彼も後に続いた。

気さくな雰囲気に、幸村も徐々に緊張が解けてきて、

「日本ご、しゃべれるのですな…」
「世界中の言葉を知っておらねば、プレゼントが用意できんのでな」

そうか!と納得したらしい彼に、サンタはにこりと笑う。
老人でも、やはり外国人だと大きいのだなぁと、幸村はまじまじ眺めた。


「でも、坊や損したのぅ…好きなオモチャも頼まんと、こんな…」
「…っ……!!」

幸村は首を忙しく振り、「てがみ、とどいたのですな…!?」と、顔を輝かせる。


──そう。
彼が欲したプレゼントとは、


“プレゼントはいらぬので、サンタどのにおあいしとうござる。一かいでいいので、どうぞおねがいしまする”


…で、あったのだ。




「サンタどの、ありがとうございまする!ほんとうにあえるなんて…っ」
「いいや…何だか悪いのぅ」

サンタは気の毒そうに言うが、幸村はまた首を振り、

「それで、サンタどのにききたいことがあって…」
「おぉ、何でも聞いとくれ」

「はい!…それがし、きょねんもてがみをだしたのですが、とどきましたか…?」

「───」

一瞬止まったサンタだが、「も、もちろんじゃ」と答える。

よかった…!と、幸村はホッとした表情で、ベッドに腰を下ろした。どうやら、力が抜けてしまったらしい。


「それをしりたかったのです…。サンタどのがいなくて、みんながうそをついておるなら……かたくらどのも、あにうえにいわれて、」


…それがしがだいすきというのは、うそなのだと。



「かなしくて…かたくらどのにきけなかったのです。だれにも…。でもよかった、あにうえにきいて」


「………」



(サンタどの?)


彼の行動に、目をパチクリする幸村。
急に黙ったかと思うと、幸村の頭に両手を乗せ、ぐしゃぐしゃと撫で回す──その力の強さに、『おこっておる…?』と不安がよぎる。顔もこわばっているしで、幸村は身を固くした。

サンタは頭から手を離すと、今度は肩や腕を優しくさする。それで、幸村は自分の思い違いを知った。


「サンタどの、」
「…かやろぅが……」

え?との聞き返しに、サンタは我に返り、

「安心せい…去年は、ワシがちゃんとあの男に手紙を渡した。知っておったからな。……彼が、坊やのことを大好きじゃと」

「っ……!!」

幸村の心臓は飛び上がり、突然ほっぺたが熱くなった。去年、本人の口から聞いているというのに、それとは違うような驚きや歓びが湧く。


「ほ、ほんとに?いまもですか?…大人になるまで、ずっとそうでござるか…?」

「当たり前だ…じゃ。…彼こそ思っとるよ、坊やはずっと、自分を大好きでいてくれるのだろうかと」


(え……)

それが自分が言ったのと同じ意味だと理解すると、幸村は驚きで絶句した。


「ああ見えてな、寂しがり屋なんじゃ。坊やが小学校に入って、自分に甘えなくなったとすねておったりのぅ」

「…だって……かたくらどの、『もう小学生だろう』と…。それがしも、早く大人になりたいゆえ…」

「じゃなぁ…坊やが正しいよ。向こうが大人のくせにな」

サンタは苦笑し、また頭を撫でる。


「大丈夫じゃ、彼も坊やが大人になるのを楽しみに待っとる。本当は嬉しいんじゃよ。…少しだけ寂しいのは、大人なら仕方のないことなんじゃ」


「ぅ……?(むずかしい……)」


「??」と首を傾げる彼だが、不安な色は消える。

頃合いを見てサンタは他の話題に変え、サンタクロース業についてなど色々と語った。











「さて、そろそろ行かねば…年寄りの話をずっと聞いてくれて、ありがとう」

「おはなし、とてもたのしかったでござる!ほんとうにありがとうございました!」

このことは家族以外には秘密だと言われ、幸村はしっかり頷く。

バルコニーまで見送りたかったが、トナカイが気付くといけないのでと、許されなかった。
窓越しにはソリの後部しか見えず残念だが、そこは素直で良い子の幸村、大人しく納得する。

いよいよサンタがバルコニーに出ようというとき、彼はふっと振り返り、


「…もし、彼に何か言いたいことがあれば、伝えておくがの…」
「かたくらどのにっ?」

幸村は、『うーん』と考え、

「もっと、いっしょにいとうござる…。ときどきいっしょにごはんたべるのが、もっとあったらいいのに。…あ、はたけにもはいりとうござる。それがし、くさむしりならできるので!」

「…分かった。伝えておこう」

「………」
「他にもあるのか?」

そう聞かれ、幸村は「ぇっと…」と、


「…を……」
「ん…?」

「──なんでものうござる!それだけにてっ」

はにかみ笑うと、幸村はもう一度サンタに礼を告げた。
サンタもまた彼の頭を軽く撫で、「来年も良い子でな」とバルコニーへ。

ソリに乗り、幸村に軽く手を振る。手綱を引くと銀色の光があふれ、幸村は眩しさに目を細めた。
カタカタ、ゴトゴト、という物音がした後、シャンシャンシャンシャン…という涼やかな音色が響き出す。

幸村の目がやっと慣れた頃にはもう、銀色のシルエットは、バルコニーから離れた空にいた。



(ほんとうに、ほんとうでござる…!)


我慢できず幸村は窓を開け、バルコニーから両手を大きく振る。

だいぶ小さな輪郭になっていたが、かすかに振り返してくれたように見えた。

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