プレミアムナイト2





「OK!じゃ、証明してやる!欲しいプレゼントをこれに書け。サンタに手紙出し行くぞ」

「…え……」

「四時半までに書けよ?郵便局、五時までなんだからな」
「ぁ、あにうえ…?」

「何書いたか見たら、俺がやったんだと思うだろ?だから、俺にも誰にも言ったらダメだ。──OK?」

書けたら持って来いと、政宗は幸村の部屋を出ていく。


「………」

幸村は便箋をしばし見つめていたが、『サンタどのへ…』と書き始めた。



…………………………………



そうかからずに手紙は完成し、二人は近所の郵便局に来ていた。
封筒は糊付けされ、幸村がしっかり握っている。宛名には、幸村が書いた『サンタクロースさまへ』と、政宗の筆記体による外国の住所。

「ちょっと聞いてくるからな」と幸村を椅子に座らせ、政宗は窓口へ。少しすると戻り、


「ほら、これがサンタの国まで行く切手だよ」
「おぉ…!」

北欧の冬の風景が描かれた切手に、幸村は目を輝かす。

政宗は彼を窓口まで連れ、自分で切手を貼らせた。女性局員が、笑顔で幸村から受け取り、

「ちゃんとサンタさんに届くから、安心してね?」
「ぉ、おねがいしまする!」

女性の態度に、幸村も幾分かは安堵したらしかった。帰り道では、もう浮かない顔は治っていたが、

「プレゼント、もらえるでしょうか…」
「大丈夫だって。まぁ、いつもより良い子にしてた方が確実だけどな」

「それがし、がんばりまする…!」

「Ahー、その意気だ」

真剣な顔で言う彼を、陰で忍び笑う政宗。
家に着いた頃には、ツリーや庭園の電飾が点いており、幸村はまた大喜びで眺める。

それを部屋から窺う小十郎の姿に、『心配ならもっと寄れって…』と苦笑し、すぐに知らせてやった政宗だった。











翌日、政宗宛てに郵便物──中身は、もちろんアレ──が届いた。

窓口の女性に別の封筒を渡し、発送を頼んでおいたのである。
政宗は、早速封を開け、


(なになに…?)









「幸村の奴、結構高ぇもん書いてやがってよ」

「それは……意外ですな」
「ま、あの親父だから惜しまねーだろうが」

「………」
「何だ、もしかして妬いてんのか?」

冷やかす政宗を「お戯れを」と一蹴し、「ただ、あまり甘やかすのは…」と、小十郎は顔を渋らせた。
まーな、と政宗は苦笑し、

「けど、あいつまだ半信半疑な感じだったからな。思いきって書いたんだろーぜ」
「そうですか…」

「──で、お前にも頼みてぇことがあんだよ」

幸村の手紙を小十郎に見せると、殊勝にも政宗は両手を合わせ、請うのだった。











いよいよやってきた、クリスマスイブの夜…


幸村は美味しい料理をモリモリ食べ、トランプやボードゲームで遊ぶよう、大人たちに迫る。
テレビゲームは不得意だが、両親や政宗の手腕を見るだけでも面白いらしい。彼らも、付き合いでなく本気で楽しんでいるので、幸村にもそれが伝わるようだ。

そんな楽しい時間を過ごした後、幸村は一足先に部屋へ。少し前までなら『もうちょっと…』とぐずるところだが、さすがに今日は、最も聞き分けが良かった。


「サンタどの、きてくれますかな…?」
「心配すんなって。さ、もう寝ろ?Good night…」

「はい…。おやすみなさい、あにうえ」

幸村がベッドに入ると、政宗はライトを消し部屋を出た。

外の電飾の光がカーテンの隙間から入るので、真っ暗にはならない。目覚まし時計で時間を確認し、幸村は目をつむった。











『ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピッ!』



(…うー……)


鳴り続ける目覚まし時計を止め、幸村は再び目を閉じた。
が、


『ピヨピヨ、ピヨピヨ』
『パッポー、パッポー』
『〜♪〜〜♪♪』

「〜〜うるさぃっ!!」

子供と言えど、安眠を妨害されればキレる。時間差で鳴り出した目覚まし時計たちを、幸村は次々黙らせていった。
(実際は、寝起きのせいで舌が回らず、『うゅひゃぃ…』とモゴモゴ、ノロノロした動きだったが)

怒りで目が冴えてしまったものの、まだ真夜中。外のイルミネーションは消えている。


(──ぁ、そうか…)


ようやく幸村は、自分が目覚ましをセットしたのだと思い出した。
政宗が出ていった後、こっそりこの時間に合わせたのだ。普段は使わない、予備のものまで。

その目的もすぐに自覚し、ベッドの中で、幸村は緊張をみなぎらせた。


(……?)


かすかに聴こえた音に、視線を泳がせる。テレビなどの、生活音ではなかった気がするが…


『シャンシャンシャンシャン…シャンシャンシャンシャン…』


「………!!」

『ま、まさか!?』と、幸村はベッドから飛び降り、カーテンを開けた。
外は真っ暗だったが、


(あれは……!)


夜空を駆ける、銀色のシルエット──紛れもなく、トナカイが引く、サンタクロースのソリに違いなかった。

きらきらと光の粒が後にこぼれ、舞い降り消えていく。生まれて初めて見た美しいそれに、幸村の胸はドキドキし、目は釘付けである。

両親や政宗を呼びに行こうとしたが、シルエットが窓ガラスから消え、幸村は慌てて走り寄った。


(おらぬ…。どこかへおりた…?)


雲が晴れたらしく、月の光が射す。

──幸村の目の前に、ぼんやりとした人影が浮かんだ。…窓のロックが、ひとりでに上がっていく。だが幸村には、それも恐ろしいとは感じられない。

ただ驚きと期待に胸を膨らませ、窓が開くのを待つ。




「メリ〜、クリスマ〜ス!」



「………」


有名過ぎるあの赤い服と帽子に、白くて豊かな眉毛とヒゲ……

笑みをたたえるその異国の老人を、幸村は声もなく見上げた。

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