最高の贈り物7
年が明け新学期が始まると、幸村は徐々にバイトの時間を減らしていった。
もう必要ないのだから辞めれば良いのに、と佐助は言うが、幸村にそんな仁義に反することができるはずもない。
「三年に上がれば、さすがに辞めるつもりだ。受験勉強もあるし…」
「分かんないとこは俺様が教えるから、塾とかカテキョやんないでね?」
「おぉ…それは助かるが、良いのか?」
「良いに決まってんじゃん。進路の相談も何でも乗るしさ」
「進路か……実は、今の今まであまり考えておらんでな」
幸村は唸ると、
「佐助と離れとうないゆえ、◇◇大…もしくは近くの△△大や▲▲大などというのは、あまりに動機が不純であろうなぁ…」
「──とか!!!とんっでもねぇ可愛いこと、クッソ真面目な顔で真剣に!そりゃあナチュラルに言うわけ!!俺様、よく無事でいられてると思わない!?」
「…いや、全然無事じゃねーみてぇだがな。頭ん中は」
「会ったとき『生きてて良かった』って思ったけど、今じゃ毎日そうなんだ〜って言ったらさぁ、『同じだ』って真っ赤な顔で──…思い出したら、吐きそうになってきた」
「んでだよ!」
「好き過ぎて可愛過ぎて、心臓とか内臓とかぐるんぐるんなんの。嬉し過ぎて、吐いちゃうみたいな」
「分かんねぇ…全っ然分かんねぇ……分かりたくねぇぇ…」
こっちこそが吐きそうな顔で、元親は盛大にツッコんでやる。
女性関係にチャラついていた友人がようやくまともになったかと思えば、すっかり変態に変わっていた。…というより、これが彼の本性だったようだが。
しかしながら、残念極まりない末路だというのに、憎たらしいほどに幸せそうである。
今日は、まだ話でしか知らない『運命の相手』を紹介してくれるとのことで、元親は佐助が住むマンションに招待されていた。
「あー…でも、ちょっと心配だなぁ…。親ちゃん、旦那に惚れちゃうかも知んない…かーわいいもんなぁ…」
「どんだけドストライクでも、絶対ねぇから。俺はな、じーさんになるまでバイク乗るつもりなんだよ。今死ぬわけにゃいかねーの」
ビシッと釘を刺すと、元親は首を傾げ、
「『旦那』っつーのは?」
「え?──なーいしょ〜」
「………」
聞くんじゃなかった。
増えたピンクのオーラに、元親の眉間の皺が深くなる。
相手が来るまで暇なので、佐助の寝室兼書斎で、彼が集めている雑貨やフィギュアを眺めることにした。
(恋人の写真か…?)
全く、似合わないことをするようになったもんだ。苦笑しながら、フォトフレームを手に取るが、
「………」
しばらく元親が固まっていると、気付いた佐助が、
「あ、言ってなかったね。『旦那』、男の子なんだよ」
「……いや、もう……良いけどよ」
元親は、フレームを一つ一つ見比べ、
「どうせなら、もっと正面から撮りゃ良いのに」
「やー…こんときゃまだね、恥ずかしくてさ。これ全部、話す前に撮ったやつだから」
「……あ゙?」
「──あっ、旦那来たみたい。下まで迎え行って来るから、ちょっと待ってて」
「…あ、お、おう」
佐助は出ていき、元親はフレームを元に戻す。
すると、枕の横に置かれた分厚い本が目に入った。
ベッドから落ちそうだったので、デスクの上にでも置いといてやろう…との親切心だったのだが、ほんのわずかな好奇心が、指をページの中へと誘った。
『バサバサバサ──』
「げッ!?」
開いた途端何かが大量に落ち、元親は慌てて本をベッドに置く。どうやらアルバムだったらしく、後で整理するつもりだったのか、散らばったのは写真だった。
やっべぇ、と素早く集めていくと、
(……こりゃ、全部……)
佐助の恋人の写真である。
なるほど、やはり男には違いない。
学校の制服姿も何枚もあるし、体操着姿も、着替える手前の腹が覗いている写真も……
「……ッ!!」
後で問い詰めるとして『とりあえずは隠せ!』と、元親は必死の形相で写真を詰め込む。
しかし、その努力も空しく、
「親ちゃん、お待たせ〜」
「初めまして、長曾我部殿!お会いできて、嬉しゅうございまする!」
(ぉぎゃ!!)
声にならない叫びを上げ、ベッドの上の惨劇を隠そうとする元親。
「某、真田幸村と申しまする!…あぁ、ほんにお元気そうで…」
「へっ?はぁ……まぁ、元気だが…?」
「…ちょっと。何勝手に触ってんの、親ちゃん」
「い!いや、落ちそうだったもんでよ!拾おうとしたら散らばって!」
「初対面で手ェ握るとか、あり得なくない?」
「(そっちかよ!)おっ、俺じゃねーよ、こいつが勝手に…っ」
「『こいつ』ぅ?」
「大変でござる、写真が…!某も手伝いまする!」
「いッ、いーって、いーって!俺が落としたんだし!」
「…むむっ?これは…」
(だぁぁ、終わった…!!)
元親は、絶望に瀕しながらも、
「ちっ、違うんだ、こりゃ…!こいつ、心底あんたに惚れちまったみてーで!こーいうのに慣れてねぇもんだから、分かってねぇだけなんだ!悪気があったわけじゃなくて、その…ッ」
なんという説得力のなさか。やはり、自分はこういうことにとんと向いていない。
元親は項垂れるが、
「これは…全て、佐助が?」
「全部は入んなくてねぇ。もっと良いの二冊買ってんだけど、レイアウト考えるのに時間かかっててさ」
そーいう問題じゃねーだろ!と、元親の顔は今にも叫びそうだ。
だが、幸村のムッと歪んでいく口元に、『絶対ヤバいだろこれは…』と、佐助を気遣わしげに見るしかない。
とうとう幸村は、顔をしかめると、
「こんなに早ようから見ておったなら…すぐにでも、声を掛けてくれれば良かったものを」
今となっては、別に良いがなもう…と、リビングの方へ踵を返す。
佐助の度を過ぎた写真の撮りように、染めてしまった頬を隠したい──という素振りは、元親にも伝わってきた。
「(いっ……今の、聞いた…!?なっ!?マジだったっしょッ?めちゃくちゃきゃわいーでしょ!?…はぁー…どうしよ、興奮治まんない)」
「…おい、何だってあんなリアクション?いや、おかしいだろ…お前、どんな手使ったんだよ?あんな、まだ未来あるガキを、お前──お前よォォ…!」
「も〜、親ちゃんてばホント涙もろいんだから。でもありがとね、そんなに喜んでくれて」
………………………………
その後、兄貴気質の彼はどうしても二人を捨て置けず、長く彼らの側で、その行く末を見守った。
初めは佐助のおかしさばかりが目についていたが、幸村の方もなかなかに、佐助馬鹿それ一辺倒である。
二人の間には不思議な絆があるようで、その運命とやらを最後まで眺めていたいだけかもな…と、たまに思い巡らす、案外とロマンチストな彼であった。
‐2012.11.27 up‐
お礼&あとがき
まる様、リクエスト頂きましてありがとうございます!
素敵リク「転生話、記憶なし佐助×記憶あり幸村」で、もし使ってもらえるなら「幸村は佐助を探してる→佐助が先に幸村を見て一目で気になり、ストーカーまがいの行動→幸村気付かない→エスカレートして佐助宅に拉致→幸『会いたかったぞ、佐助!』→佐助混乱」雰囲気はおまかせ他キャラもお好きに、とのことだったので、ネタ全部使わせてもらい、好き勝手やらせて頂きました。
結果、こんな内容の乱文に…。ネタから現パロ重視で行きたく、前世のことはあえて詳しくしませんでした…と言い逃れ(^^;
幸村、佐助が忍だったとかどんなことしてたとか、わざと言いませんでした。忘れてたのは、幸村の願いだったのかも…。
二人だけにしたかったんですが、ツッコミ不在きつかった。一番邪魔しないでいてくれるのは、アニキしかいませんで。いつも、佐幸に付き添わせて悪いですが…;
まる様、お待たせしてこんな結果で大変申し訳ありません。よろしかったら、またお越し下さいませ^^
本当にありがとうございました。
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