最高の贈り物4









続きが気になる夢に限って、良いところで目が覚めてしまう。


そしてそういうときこそ、続き見たさに再び閉じてみても、大概は叶わないのだ……












(…あと少しで、会えそうであったのに)


悔しさに息を散らし、幸村は目を開ける。
まだ真夜中のようで、辺りは深い漆黒に包まれていた。


『何時だ…?』と枕の周りに手をやり、ケータイを探す。こちらの方が便利なので、いつもアラームに使っているのである。

しかし、傍にはないようだ。
暗闇のせいで見えない…いや、居間に置き忘れたか?寝る前に、アラームをセットした覚えがなかった。

幸村は、ふっと止まると、


(俺は、いつここに来た?)


確か、食事の後眠気が来て…そのまま、コタツで横になってしまったはず。
意識のないまま、部屋に向かった?自分は、そこまで疲れていたのだろうか。
信じられない気持ちで、とにかく周囲に手を伸ばすが、


「……!?」

ヘッドボード上の小さなライトが点き、幸村は数秒目を見開く。


──そこは幸村の部屋ではなく、両親の寝室でもなかった。



(…どっ、どういうことだ……っ?)


一度も見覚えのない部屋に、幸村は混乱した。必死に思い返してみても、コタツ以降の記憶がない。

ほのかな灯りだけを頼りに、壁を探る。
ロールスクリーンに隠れた小窓があったが、ほとんど飾りのような物らしい。第一、開閉の操作が分からなかった。
部屋の照明のスイッチは、どうしても見つからない。そのままドアのノブを掴むと、嫌な予感が当たった。
──鍵が、外から掛かっている。


「だッ、誰か!?どなたか、おられませぬか!?」

どう尋ねるべきなのか躊躇したが、どうか敬語を使うに値する状況であって欲しい。
…いや、きっと自分の思い過ごしだ、手足は自由なのだし。誘拐するなら、もっと裕福な家庭を選ぶだろう。

しかし、何度呼び掛けても返事はなく、人の気配も感じられない。ドアは、彼の腕でも破られそうにない、見た目より重厚な造りらしい。
幸村は一旦諦め、ベッドに腰を下ろす。


(これは……)

今気付いたのだが、サイドテーブルに複数のフォトフレームが置かれていた。
ライトの方へ持っていくと、


「俺……か?」

服もそうであるし、他人の空似には無理があり過ぎる。どれも、記憶に新しい格好ばかりだ。

だが、撮られた覚えはなかった。



(──まさか、)


…馬鹿な。そんなわけがあるかと、幸村は首を振る。一瞬、友人に借りた漫画のある話を思い出してしまったのだが、…あれは女性だったし。
違う、これはきっと、何かやむを得ぬ事情があってのことなのだ。そうに違いない。
そうだ、あるはずがないだろう…あれは漫画の話だ。


『コンコン』

「!!」

ノックの音に、幸村は「開けて下され!」とドアへ駆け寄るが、


「ごめん、それは無理なんだ」
「ッ!?」

幸村の身体中から、汗が吹き出る。

上ずった声は、男のものだ。やはり、これは誘拐なのか?ということは、あの写真は標的を覚えるために?


「ごめんね、びっくりしたよね。でも大丈夫、ここは俺…の家だから」
「…っ?どうして、」
「それは、あとでちゃんと説明するから…今は、まだ寝てて?」

「な!?馬鹿な…!」
「日頃の疲れを、じっくり取らなきゃ。バイトも休みなんだしさ」

「──…」


(何故、……)



「君のことは、全部知ってる。うわべだけの、軽い気持ちじゃないよ…」

「……に、…が、」

幸村の頭には、あの漫画のシーンばかりが彷彿する。
確か、その女性の行く末は、



「君と俺はね、──運命なんだ」



照れた口振りのその一言に、単なる誘拐の可能性は潰えた。















思えば、彼の家に行ったときから、全てが『初めて』ばかりなのだ。

佐助の興奮と緊張は、頂点を極めていた。とうとう、自身の言葉で彼と会話を…


(俺様の気持ち、伝わったよね?)


自分がいかにして彼と出逢い、彼を知り、その上で想いを重ね、これが運命であるかを悟ったか、懸命に一つずつ丁寧に話した。
本当は、面と向かってするべきなのだろうが、扉を隔てていてもこの動悸であるので…。

幸村は驚きで言葉を失っていたが、相手が同性であることには異を唱えなかった。


「…ならば、ここを開けて下され」
「ごめん、さっきも言ったけど」


(まだちょっと無理ってのもそうだし、)


幸村を家に運んでから、しばらく心ここにあらずで、少し前にやっと動けた。

シャワーも浴びておらず、鏡を見れば『こんな髪で、会えるわけないじゃん…!』
こうなると分かっていたなら、確実に美容室へ行っていた。久しく切っていなかったため、ボサボサでとても見せられないと。

他人から見ればおかしくないのだが、今の佐助は恋する乙女と同質である。またファッションにうるさいゆえ、髪型が決まらないだけで、朝から気分が上がらないとか、そういった面倒な類いの一員だった。

それで、『自分で切るか?』と浴室の鏡に向かっていたところ、ドアを叩く音に気が付いたのだ。
残念ながら、己の過ちは未だに分かっていない。


「お…れは、ずっと、ここに…?」
「んー……あ、お腹空いた?喉は?トイレ行きたい?」
「──…」

「そっか。じゃあ、ちょっとだけ待っててくれる?準備できたら、ちゃんと開けるから」
「準…備?」

「うん。(髪を)切るのは、すぐ済むからさ」


「………」


幸村は、再び黙ってしまった。

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