最高の贈り物3







二学期の終業式は、クリスマスイブの数日前に執り行われた。

年末年始以外はバイトをするつもりだった幸村だが、両親から『今年は休め』と強く労られ、さすがに無下にできなかった。

そして、前々からの計画で、幸村は二泊三日の温泉旅行を両親に贈っていた。二十四日からの出発で、近場だが良い宿なのだ。
二人は感激していたものの、『幸村も一緒に』と望んだ…のをどうにか説得した。


『夕飯は、クリスマスディナーを頼んでおいたからね』

余計な金を使わせてしまい、こちらが贈った甲斐がないではないかと苦笑の思いだったが、そんな両親の気持ちこそが、幸村にとっては何よりのプレゼントになった。



「『**ダイニング』の者です」
「はい……おお!!」

宅配ディナーの配達人は、サンタクロースだった。それも、白くて立派なヒゲまで付いている。

「凝っておりまするなぁ」
「ぁ…あったかいんですよ、これがあると」

付けヒゲのせいで声がこもっているが、まだ若そうだ。丸メガネの奥の瞳は伏せ気味で、照れ性なのかも知れない。

幸村は気を利かすつもりで距離を取り、視線もずらしておいた。


「こちら、クリスマスカードになります」
「なんと、これがカードとは…!」

それは、何ともお洒落で可愛らしい、華奢な木彫り細工のクリスマスオーナメント。
ほんの小さなライトが付いており、点灯するとまた幻想的だった。

「このような見事な物まで…感謝致しまする」
「こちらこそ、ご注文ありがとうございました。良かったら、食卓にでも飾ってあげて下さい」

サンタは最後に『メリークリスマス』と告げ、当然だがソリではなく車で去っていった。









ディナーは格別だった。

想像していたよりずっと家庭的な味付けで、心身ともに癒された気分である。
さらに感動したのはクリスマスケーキで、幸村の特に好きな味の二種類もあったのだ。

あのオーナメントをよく見える位置に置き、一人だが楽しく味わえた。


満腹のせいか瞼が重くなり、トロンとした目でオーナメントの光を見つめる。



(…早よう働きたい…)


幸村がアルバイトに打ち込むのは、夢の実現のためだった。

名前も姿かたちも性別も、年齢の差も(大幅に)昔とは違っているかも知れず、そもそも、ハッキリと思い浮かべもできない。
そんな者を、一体どのように探せば良いのか。

子供の頃は小遣いを懸命に貯め、思いあたる昔の諸国や、合戦の跡地に赴いたりしてみた。己が思い付くことを、彼もまた偶然この日にしているかも…そう願って。
だが叶わず、金の儚さや現実の厳しさを学んだのみに終わる。

けれど、それは無駄骨ではなかった。
大人になれば、社会に出れば行動力も上がる。困難な依頼を請け負う会社もあると知り──いくらでも探しようがあると、前向きに考えを改められた。

そのためには、少しでも多く貯えておかなければ、と。



(…さすけ……)


きっと会えると、信じている。…であっても、ふいに陰ってしまうのは仕方のない話だろう。彼は、もう何年も保証のない希望を抱き続け、その裏の絶望とも闘ってきた。

友人らとの時間は、心から楽しい。
だが、油断すると囚われる──何故、そこに彼は存在しないのだろうかと。

幼稚園、小学校、中学校、全て楽しかった。
楽しければ楽しいときほど、後で涙腺が決壊した。


歯痒くて、悔しくて。
切なくて、寂しくて、恋しかった。


どうしていない

俺はそれを、お前と最も分かち合いたいというのに。



(…いかんな……)


こんな風によどんでいては、運気も逃してしまう。

幸村は思考を止め、眠気に従い、コタツを布団に横になった。
















──カチャリ


玄関の鍵が、静かに回る。



(…失礼しまーす……)


心の中でそう断ると、佐助は足音を立てないよう奥へ向かう。
心配無用なのは分かってはいたが、初めての『お邪魔』は、さすがに緊張するものがあった。


「……ッ」

居間のコタツに寝転ぶ姿が目に入った瞬間、漫画のごとく胸がドキンと鳴る。

玄関先のあの距離でも、普通を装うのに必死だった。今のこの有り様なら、意識のある彼の前では頭も口もてんで回らなさそうだ。

佐助は自身を苦笑すると、あのオーナメントを、予め用意していた同一の物とすり替えた。見た目は全く同じなのだが、回収した方の内部にはカメラが入っていたのである。

幸村が素直に目の前に置いてくれたお陰で、ずっとその様子を見ることができた。佐助が丹精こめて作った料理を食べ、何度も顔をほころばす姿を。

薬は、害のあるものではない。軽い不眠症に効く処方で、カメラ回収のためだけでなく、彼の日頃の疲れが少しでも取れたら、との思いもあってだった。


(嬉しかったな…)


綺麗に空いた器に、陶酔の息を漏らす。


……こんなにも、柔らかかったなんて。

髪に、睫毛に、頬に触れ、佐助は驚きや感慨にふけた。望遠レンズでは感じ取れなかった温もりが、指の先から熱と化し広がっていく。



「…ぅん…」
「──…」

ふいに漏れた甘い寝息が、肩まで布団を伸ばしてやろうとした手を静止させる。



数時間後、幸村はベッドの上できちんと布団に入り、依然穏やかな顔のまま眠っていた。


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