最高の贈り物2







それから二、三日後。


「親ちゃん、俺様好きな人ができた」

「今度は何学部だァ?ちゃんと、前の女と終わってんだろうな」
「や、彼女じゃなくて。片想い〜」

「肩が……水子だろ、そりゃ」
「あはは、怒るよ?」

数分かけて一応納得はしたが、元親の驚き顔は直らなかった。

何もせずとも寄って来られ、恋人に苦労などしたことのない佐助に、まさかそんな日が来ようとは。


「あれが一目惚れってやつかねぇ…しばらく気ィ遠くなってさ。心臓止まりそうだったよ、打ち過ぎて」

「おーおー、そりゃあ…」
「今まで生きてて、ほんっと良かった!人生って素晴らしいね!」

佐助のデレデレ顔に、『こりゃマジだな』と理解確認できた元親である。


「真面目な子でさぁ、一目惚れとか警戒されそうなんだよね。だから、まずは向こうのことよく知ろうと思って」
「ほー…良いんじゃねーか?」
「あとさ、やっぱ車買うことにした。バイクは、またいつか」
「なーんでぇ」

元親は面白くなさそうにするが、


「それと、カメラ買うの付き合ってくんない?望遠が良いやつ」
「おっ?やっとお前も興味持ったかよ」

得意分野を尋ねられ、すぐに機嫌を良くする。

佐助は、終始楽しげな笑みを浮かべていた。














まずたじろぐであろう同性という事実は、何も引っ掛からない。

自身のその反応も、これが『運命』であるとのサインに思えた。









俺様の運命の人、真田幸村くん。

△△高校の二年生、※月※日生まれの、血液型は※型。身長※※センチ、体重※※キロ。
俺様よりいくらか低く、体重は十キロ以上も軽い。なのに剛力だし、身体能力も高い。きっと、良い筋肉の付き方をしてるんだろう。

あの口調は小さいときからで、真似事には思えないほどの侍魂。趣味はスポーツ全般、かつその観戦。体力作り。意外に読書も。

嫌いな食べ物はほぼゼロ、何でも美味しそうによく食べる。でも、やっぱり肉だとテンション上がるかな。子供みたいに喜んで、ご飯三〜五杯は軽くいく。
カーテンが開いてるときしか見られないけど、聴こえる会話で様子は把握できた。常人離れした耳の良さも、きっとこのためだったのだ。

それと、甘いものが好物。
好きな色は赤で、それを身に着けてるのを見ると一層胸が躍った。


予想通り、これまでずっと恋愛には無縁。真面目なだけでなく、その分野については嘘みたいにウブで、ことごとく佐助の胸をときめかせた。









(ああ……今日も愛しいなぁ…)


学校帰りの彼を車の中から眺め、佐助は恍惚の表情を浮かべた。

あれから数ヶ月が経ち、季節は冬である。
車を買ってからは時間を有効に使え、佐助は貯金をしていた自分を心底称えた。

毎週土日は、朝からバイト先のイベント会場に忍び込む。
平日は放課後に間に合うよう車を飛ばし、咎められない場所に駐車、あとは徒歩で彼の後を行く。目立つ髪は、帽子で隠していた。

さらに、週に一日二日は講義をサボり、高校にも潜り込んでいる。
入手した制服に着替え黒髪ウィッグを被り、怪しまれることなく侵入。眼鏡をかければ、顔もそう目立ちはしない。

彼がきちんと家に帰り着き、部屋が消灯するまで見守る毎日である。


(それにしても…)


彼は、よく働く。

遊びたい盛りの年頃だろうに、自由な時間はバイトと勉強に全部費やしている。佐助にとっては、悪い虫が付かなくて好都合なのだが、たまに疲労でウトウトする姿を見ると、胸が締め付けられた。

そんな風に他人に気を揉んだり、いとおしむ気持ちが湧いたのも初めてだった。



(もっと見たい……色んな姿を)


もっともっと知って──もっと近付きたいんだ、君に。


知れば知るほどに満たされたが、欲はその度に増えていく。もはや中毒状態なのは、まごうことなき事実である。

しかし、恋は盲目とはよくいったもので、佐助には後ろめたさも罪悪感もなく、違和感にすら気付いていない。

ただ純粋に想い、浮かれ、幸せや喜びに浸っていた。















冬風の冷たさが増してきたある日。

食後の昼休み、幸村は親しい友人らと喋っていた。


「これ、お前にやろうと思っててさ。俺苦手だし」
「おぉっ…かたじけないッ!」

友人から渡されたのは、いくつかの小さな焼き菓子が入った、透明な小袋。赤いリボンで結ばれ、見た目からもうヨダレが湧いてきそうな秀逸品だった。


「朝駅前でな、アンケート答えたらくれた」
「ボランティアサークル…◇◇大学ですか」

ほうほうと幸村はラベルを見つつ、菓子を口に入れ、


(ッ!?)


「──どした?」
「不味いのか?」

「いっ……いえ!!」

摘まもうとした友人の手から袋を庇い、幸村は首を振ると、


「う、美味過ぎまするぅ……!」

感動のあまり、目と頬と口元がとろけていた。

友人らは、「あ、そ」「もう取らねーって」と苦笑する。



(これが、手作りだとは…)


幸村はあっという間に袋を空け、満足顔でお茶を飲み干した。












「………」

静かな校舎の一画で、佐助は身を震わせていた。今は、午後の授業の真っ最中である。

今日はいつもと違い、彼の友人に接触した後『登校』した。
手作り菓子は、彼に何かを贈りたい願望がとうとう弾けた結果だ。友人から届かなければ、仕事帰りの彼の父親経由を狙っていた。

ところが、それが叶ったのをデジカメ越しに見たとき、佐助の全身に戦慄が走った。



(あんな──…)


美味しそうに食べる顔は、今まで幾度となく見てきた。その度、すごく可愛くて愛しいと胸をたぎらせて。なのに。

……それが、自分が作ったものだというだけで、まさかこんなにも…


だからなのだろうか?
今までのどの顔よりも、その味に心惹かれ、喜んでいるように見えてしまうのは。



(どうしよう……)


味をしめてしまった。
それも、とびっきりの美味を。

これきりなんて、絶対無理だ。もっともっと、もっと食べてもらいたい、お菓子だけじゃなく、色んなものを。
彼が大好きなあれやそれ、それもあれも、もっと沢山……

佐助は、熱に浮かされた目で幸村の教室を覗く。元親に勧めてもらったカメラは、文句なしの性能の良さだ。



(──…)


沁みていく慕情に胸を詰まらせ、佐助は新たな欲心へと溶けていった。

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