ポーズはおしまい6






翌日の昼休み。

小太郎が『開かずの間』の壊れたドアを黙々と直していると、通りすがった小十郎も加勢に入ってくれた。


「何でもっと早く言わねぇ」
『壊れたの、昨日の放課後だったので』

↑もう面倒だったので、そのまま帰った。


(真田の奴、悪化してんじゃねぇか…?)


修復中、カウンセラー小太郎を渋い顔で窺う小十郎だが、


「風魔殿!──おお、片倉先生もいらしたのでっ?」

『あ…』
「…真田」

噂をすれば正にで、現れた幸村が二人にペコリと頭を下げる。


「風魔殿、毎日のように話を聞いて下さり、誠にありがとうございました。さらに的確な言葉まで…。先生にもご心配をおかけし、申し訳ございませぬ」
「いや…」

小十郎は少々戸惑うが、幸村は持っていた袋を小太郎に差し出すと、

「こちら、今朝コンビニで買ったものでして、きちんとしたお礼ではないのですが…」

正式な物は次回に必ず、とそれを手渡した。
小太郎も、感謝を表すよう軽く会釈する。


「お前……」
「はい?」

(う──)


向けられた幸村の顔に、危うく金ヅチを落としそうになる小十郎。
昨日までとは全く違う彼の様に、ただ口が開くばかりだった。

姿かたちが変わったわけでは、もちろんないのだが…


(いきなり垢抜けたみてぇな…ってより、)


『きらきらきらきら』
『つやつやツヤツヤ、艶々』

そんな効果音に加え、頬には薄く浮かぶ桃色、どれだけたっぷり寝たのか、健康そのもののパッチリ眼は、いつも以上に輝いている気がする。

元々の健やかさがパワーアップ、かつ、それに正体不明の要素(お色気)が付随していた。


「??先生…?」
「いや……で、悩みは解決したのか?」
「あっはい、お陰さまで!それで、風魔殿にご挨拶に」

幸村は、笑顔で花を咲かせ撒き散らしていく。積もったそれらは、二人の頭と肩に山を成していった。

『それは良かった』

「誠にかたじけのうござる!某、これからは隠さず、真の己で参ろうと誓い申した。『嬉しいから、嫉妬も我慢せずに居て良い』と言われまして、ならば思うがままさせてもらおう、と」

『…(こうならなければ良いが)』

直し途中のドアに目をやり、初めて佐助への気遣いをしてしまった小太郎である。



“今日からはカウンセラーとしてでなく、友人としてお付き合い下され!”


そう爽やかに放った後で、幸村は去っていった。結局、ドアのことは告げなかった二人だが。
小太郎はもらったプレゼント(お菓子)を眺め、小十郎は未だ複雑そうな顔でいる。


「…悩みってのは、まさか」
「………」

秘密厳守なので、小太郎は聞こえぬ振り。


「いや、俺はあいつの心配を…」

「や、どーもどーも。旦那がお世話になったみたいで〜」
「っ!」

フラッと佐助が現れ、小十郎は口をつぐんだ。
佐助は馴れ馴れしい態度で、小太郎を肘でつつきながら、

「ほら、俺様たち『もう秘密はなしにしよう』って決めたわけ。で、アンタに相談してたって聞いてさ?…で、どうよ?旦那、どんな感じだったの?」

はぁっと、恍惚の息を一つ漏らすと、


「やきもち妬く旦那…めちゃめちゃ可愛かったんだろーなぁ…!必死で隠そうとしてさ、いじらしいったらないよねぇ。『佐助ぇ』って泣いてたり?なぁ、どーなのそこんとこ?てか、忠実に再現してくんない?得意の変装で旦那になって、声もできるよね?金なら払うし、いくらでも──」











「……」
「…何も言うな」

(そもそも筆談だし、)言おうともしてませんでしたが。
そう思った小太郎だが、彼の背中の哀愁が、それを文字にするのを阻んだ。

小十郎はフッと笑い、


「親の気持ちっつーのが、よく分かった気がするぜ。教師にとっちゃ万々歳だ。──今夜は、赤飯でも炊くとするか…」

ポツポツこぼすと、しんみりした様子で小太郎に手を振った。



(……彼の方が、もっと焦るべきなのでは?…何となく)


幸村の言う通り、佐助は確かに大勢の女性に人気があり、嫉妬も跡を絶たないのだろうが。

広く浅く/狭く深く…という言葉が浮かび、幸村の方は数は少なけれど…
そこまで思ったところで、『干渉し過ぎか』と止める。

それに、ああいうのを繰り返すのも、恋人同士には付き物だ。…と聞く。



(自分も、相談係として勉強になった)


小太郎はそう頷くと、綺麗に直ったドアを閉め、午後からの授業(小十郎の教科)には出ることにした。







‐2012.10.13 up‐

お礼&あとがき

雲英様、リクエスト頂きましてありがとうございます!

素敵リク「佐幸で学パロ、幸村が嫉妬する話」でしたが、結局コッソリやきもちに終わり、最後はいつもな二人だし、脇役沢山、読める展開の山谷なし、幸村贔屓的…全て好き勝手なものにしてしまいました。
本当に謝るところしかなく、お待たせしといてこれで、申し訳ないばかりです。

幸村に嫉妬で愚痴って欲しかったんですが、恋愛に興味なさそうで無口な人希望で。本当は、最後に鶴姫(一年)出して、コタがお菓子(幸村からの)をあげて…っていうオマケも入れたかったり。

コ(確か、この子にも想う人が…)

まだこんなに小さい(※二歳差)のに、いずれはあんな風に悩んだりするのか。
憐憫が湧いて、お菓子(←『ファイト!』とか書かれてる)を差し出し、頭なでなでしてあげる。

鶴「はい…!私、頑張ります!!(いつか、あなたに振り向いてもらえるように…!)」

鶴ちゃん狂喜。

家康はちゃんと割り切ってるので、佐助には、女子の方が脅威的だったらしい。

雲英様、大変申し訳なかったですが、良ければまたお越し下さいませ。

本当にありがとうございました。


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