ポーズはおしまい4







(むっ、あれは…)


勢いそのまま駆けて帰ると、家の前に人影が見えた。それは二つで、佐助と誰かかと思ったのだが、どちらも学校の女生徒のようである。

一人は三年生、もう一方は一年生。前者は佐助にピアスを見せ付けていた、あのセクシー系美女で、後者は幸村に必死で弁解していた、可愛らしい彼女だった。
…で、何やら険悪なムードが漂っている。


「いい加減、サスケに近寄んのやめて!家まで来ちゃってさ…ッ」
「そっちこそでしょッ?私、帰り道なだけです!」
「嘘つきなよ、覗いてたくせに!」
「してません!それに、向こうが声をかけて来るんです、言いがかりはやめて下さい」
「私だって、最初は…!アンタも、どーせすぐ飽きられるのよ!」
「何それ、八つ当たりじゃない…っ最悪ですね、先輩が嫌がるのも分かる…」

「この──っ」


(ッ、いかん!)


カッとなった先輩彼女が手を振り上げ、咄嗟に幸村は飛び出してしまった。
考える余裕が短かったのと、女子相手に腕を取るのもためらわれ、つい無防備のまま、


「…っ、」

幸村の姿に、「えっ…!?」と驚く二人。
彼女の手は幸村の首元に当たり、爪で引いた痕が三本、じわりと血が薄く滲んだ。


「う、ウソ…っ!」
「やッ、血が…!ヒドい…!」

後輩女子が、キッと相手を睨むが、

「これしき何ともござらぬ、それより…」



「──何やってんの?」

全員が振り返ると、今帰ったらしい佐助が、呆れた様子で立っていた。



「…あのさぁ、昨日もちゃんと話したよね?この子とは何でもないし、…ていうか、お宅ともさ」
「っ…、だって……、」

「勘弁してよ…平手打ちとかならまだしも、目にでも入ってたら、どう責任取ってくれんの?」

呆れを通り越したのか、佐助は冷徹な表情で彼女を見据える。彼女は、それに黙りこくってしまった。


「もう一回言うね。俺様には、何より大事に想う人がいる。それはこの子じゃないから、もうやめたげて。あと、そういうのが嫌だから、誰なのか言いたくないわけ。了解?」
「………」


「佐助…」
「大丈夫?…ごめん、俺様のせいで」

佐助は眉を寄せるが、幸村の前でハッキリ気持ちを言えキメられたことに、かなりの満足感を得ていた。

幸村の頬は染まり、早く二人きりになりたくてたまらなくなる佐助。
さっさと彼女を言い聞かせるため、向き直ろうとすると、



「こっ……の…、

不届き者めがぁぁあ!!」


「「「!!?」」」

幸村以外の三人の思いは一様だったが、中でも佐助が最もポカンとしていた。

優に数メートルはぶっ飛ばされ、殴られた顎は燃えるよう、脳も数秒揺れが続く。



(…は、──ぇ、何?……何で!?)


しかし、その衝撃のお陰で、女子二人の興奮はすっかり治まっていた。というより、固まっているのに近いが。

幸村は紅潮させた顔で、声は抑えようと深呼吸を繰り返し、


「まずは、謝罪の言葉から述べるべきであろう!佐助はそうでも、この方はお前を一心に想っておったのだ!なのに、お前は…!」
「え…、……?」

「想えば想うほど、どう足掻いても妬んでしまう──何故分からぬ…っ?俺でさえ…己だからこそ、よく分かる。そのように刺々しい声で…そんな目で見られ、どれだけ痛いかも…」



(旦那……)


佐助は立ち上がるが、幸村は先輩彼女の前に行き、


「こんなものでは済まされぬし、間違っておりますが…代わりに謝らせて下され。加減せなんだので、彼はしばらく口をきけませぬ。──先ほどの通り、佐助には恋人がおりまして…」

「……はい」

先輩であるが、幸村の丁寧な態度に、彼女も感じ入ったらしい。完全に大人しい態度に変わっていた。


「相手は、あなたのように綺麗で華奢で、素直で可愛らしい人間では全くござらぬ。某でも、佐助の心移りに頷けまする。…しかし……」

幸村は、力を出すよう両の手をグッと握り、


「あなたと同じく、佐助を想う気持ちは本物でござる。嫉妬も多く抱いて…知れば、佐助の気は変わるかも知れぬ。──ですが、誰にも渡したくない。必ずや、彼をずっと大切にする…それだけは、約束できる相手ゆえ」











その後、彼女は『分かりました』と、幸村には深々と謝罪の言葉を述べ、去っていった。

巻き込んでしまった後輩彼女には、佐助が神妙な顔で頭を下げていたが、


『サスケ先輩のことが、やっと分かりました。大人しく身を引きます。…お幸せに』

と何故か清々しい、またイタズラっぽい笑みで手を振られたことだけが、幸村には不思議でならなかった。














「『加減しなかった』──なんて、嘘ばっかり」

「………」

後ろから聞こえる佐助の苦笑に、幸村は気まずそうに視線を泳がせる。

今は家に入り、リビングのソファに腰を下ろしていた。その背後に立つ佐助の身体も顎も、既に痛みは引いている。


「旦那が、やきもちねぇ……未だに信じらんないんだけど」

「っ…、」

幸村は、うっと身体を固め、「すまぬ、ずっと黙っておって…」


「そうじゃなくてさ。…すげー嬉しかったよ。さっきの言葉も、全部…」
「さ、佐助……っ?」

ソファの背もたれ越しに肩と首へ腕を回され、幸村の胸が跳ねる。振り返りもできずにいると、佐助の顔が耳元に寄り、完全に動かせなくなった。


「何か誤解してるみたいだけど…俺、浮気とかしてないぜ?旦那がいんのに、するわけないじゃん。したくもないし。あの子とも誰とも、誓って何もない」
「……え?」

幸村は、思考も止まる。


「でもま、誤解するのも無理ねーよな…謝るのは俺様の方でさ。昨日も言ったけど、『大事なもの、見失いかけてた』って。…俺様のが最低で…嫌われる可能性大だよ」


「…それはあり得ぬ」

己を最も大事に思ってくれたのなら、心移りの数度も、拳何発かで許せる…そんな考えにまで到っていたのだ。

幸村には、もう怖いものなしである。


「………」

どう思ったのかは分からないが、佐助は何も言わず幸村の隣に座った。

[ 88/101 ]

[*前へ] [次へ#]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -