告白合戦いたしましょう6





──…What?



先日の、想いを告げた日にも、同じように耳を疑ったが…

政宗は、もう一度幸村の言葉を整理してみる。


「初めて」=「二度目」

「二度目」=「自分」

「自分」=「初めて」


………………………
…………………
……………



『幸村の初恋の相手=自分』






「い……やいやいやいや!違ぇだろっ?俺、お前にkissしたりしてねーぞ!?」
「で、ですから、忘れて…」
「忘れるわけねーだろ!Haaa!?」
「十年も前の話ですし、」


(十…!?)


どう数えても、小四の夏は今から六年前だ。

怪訝がる政宗だが、幸村は辺りを見渡し、


「この河川敷も、幼い頃とは大分変わりました。このような遊具はなくて…」




……………………………




まだ保育園に通っていた、あの年の夏。

いつものように汗をかきかき、幼い幸村はこの川辺で遊んでいた。
草地に潜むバッタを追ったり、小石をボールに見立てて、どこまで飛ばせるか川に投げてみたり…

ふと気付くと、土手の上の道に小さな人影が見えた。
幸村は、同じ年頃や少し年上の子供なら、顔見知りでなくとも『挨拶』する、とても物怖じしない性格だったので、


『こんにちは!』
『!?』

『そのしたで──』

暇なら一緒に遊ばないか、の類いのことを、幼児なりの言葉でかけようとした幸村だったのだが。

相手の少年の姿をはっきりと見るや否や、硬直してしまった。
夏だというのに肌は白く、人形のように綺麗な顔。自分とは全く異なる、サラサラの髪がまたよく似合っている。それで、きっと小学生のお兄さんに違いないと予想した。


『め…ケガしたのですか?いたいのですか?』

眼帯を見て尋ねるが、相手は何も答えず、幸村の顔をずっと見ている。

もしかすると、外国人なのかも知れない。目の色が蒼っぽく見えた気がしたし…
というのは、その視線に何故か耐えられず、幸村が目をそらしたからだ。



『…それ、にあう』
『──え?』

『Cute…』


その後の彼は、見た目と違ってとても子供らしかった。
逆に幸村は口数が減ってしまい、煩わしくて脱ぎたかった麦わら帽子を、最後まで被っていた。

二人が遊べたのは、その日の数時間だけだったが…












「某、『ゆき』としか名乗りませんでしたし、覚えてないのも当然でござるよ」

幸村は苦笑するが、すぐにそれを収め、


「再会できたときは、本当に夢かと思いました。政宗殿が覚えておられぬことに、安堵しつつ…言ってしまえば、…く、口付けっ…のことも思い出すかも知れぬでしょう?」

ですが、やはり寂しく感じたりなど…と、控えめにも紡ぐ。



「………」

「ですから『平気』だったのです。…政宗殿、でしたので。だから、某の方が『追って』おるのでござる。……ずっと、お慕いしておりました。政宗殿お一人だけを、ずっと…」




……声が消えた。


川がさらさらと流れる音と、草地に棲む夏虫の鳴き声と。
抱える重みを急に失ったため、キィキィと軋む回転遊具の音。

やけにはっきり聴こえるそれらと合わせ、二人は互いの鼓動を感じ合う。
遊具からほとんど飛び下りた勢いのまま抱かれ、幸村の身体は政宗の腕の中に収まっていた。

間近で感じられるほど…


唇を押し付けられ、吐息が奪われていく。
窒息に喉や胸が詰まった。が、動悸が激しく苦しくなるのは、きっとそのせいだけではない。


(初めてではないのに──)


初めてのとき、二度目のときよりもひどくなるのだとは。…この法則性が正しいのならば、心臓を鉄に鍛えでもしないと。

そんなことを幸村が本気で考え始めた頃、唇は解放された。



「同じだな…」
「…え?」

政宗は幸村の唇を示し、


「あんときも同じ味がした。別れる間際に食った、vanilla soft」

「……!」


(おっ、思い出されて……)


政宗の笑みに、幸村の顔はさらに燃える。自分も、同じことを思っていたのだ。
ソフトクリームは、迎えに来た政宗の親戚が彼にと持っていたもの。それを二人で分け合い、その後…



「…ったく、お前がさっさと言ってりゃ、こんなに悩まねーで済んだのによ」

「は…っ、その、誠に面目なく…!まさか政宗殿が、そのように気を揉まれるとは思ってもおりませんでっ…」

緩く睨みニヤリと笑う政宗に、幸村はまた焦るが、


「Ha…ま、いーぜ。その分の甲斐はあったし、俺も長ぇ間、お前を悩ませちまったらしいしよ。…ただ、いまいちピンとこねんだよな、何つーか…」
「……?」

「言い方の問題かねぇ…『お慕い』なんてのは、やっぱ堅苦し…いやまぁ、お前らしくて俺は『好き』だが。…けど、俺は英語使わなかったよな?」


「──(ゔ…)」

わざとらしく『好き』の言葉だけ強調する政宗を前に、幸村でもその笑みの真意を理解する。


(あれでも、自分にとっては…)


清水の舞台から飛び下りるよう…というのを、身をもって知った。
そのくらいの覚悟や緊張や羞恥の嵐の中、為したことだったというのに。

やはり、彼は意地が悪い。


…だが、そんな彼が、夢に願った以上の言葉を沢山くれた。
自分とは全く違い、誰が聞いても歓びと幸福で満たされる、『すぐにピンとくる』言い回しで。


「………」

今は静かな微笑みに変わった政宗に向かい、幸村は再び舞台に上がる。

きっと自分は、この先も彼に完勝できはしないのだろう。しかしながら、それで良い。そうやって全ての意味で彼を追うのが、本当は何より心踊るのだ。

初めは、類いまれな容貌に惹き付けられたのだと思っていた。けれど、ほんの短時間の関わりでそれはすぐに塗り替えられて。
夏の再会を果たす度に確かなものへと変わり、胸を占める域が広がっていった。

自分も彼と同じく、




「政宗殿を、ずっと…、…政宗殿ですゆえ、誰よりも、

…この先も、某は、



──生涯、政宗殿だけが好きでござる!!」


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