告白合戦いたしましょう5




(…少しは気ィ済んだか)


勝利を確信し、政宗の気分も落ち着いてきたようだ。

日が落ちると混雑してきたので、二人は中心街を離れる。
屋台で買った物を食べ、途中コンビニに寄って飲み物を──幸村は、レジで販売しているソフトクリームも買った。
政宗も、それを少し味見するが、


「Ahー、もう良いって。よく食うな、お前」
「育ち盛りなので」

幸村は笑い、帰り道にある河川敷へ政宗を案内した。

川の周りの平地には子供用の遊具がポツポツ点在し、懐かしさを身体で味わう。
回転遊具をフルスピードで回すのを『hell merry-go-round』と名付け、一方が乗り一方が動かすのを交代で何度もやり、完全に子供に戻る二人。

回転が止まり、幸村が遊具から腰を上げると、


「ぇ?…ッ」

乗り込んできた政宗に両腕を掴まれ、幸村の顔は真っ赤に染まった。整った顔がすぐ近くに来ており、目を忙しなく泳がせる。


「…いや。俺ら何やってんだと思ってよ。せっかく、二人きりだっつーのに」
「ぁ、…っや、…」
「ホッとしたぜ。お前があんまり普通なんで、ありゃ夢だったのか?…とか思っちまったじゃねーか」


──え…

苦笑する政宗を、幸村は驚きの目で見つめ返すが、


「言ったろ?お前が思うような、褒められた奴じゃねぇって。女々しく、鳴らねーケータイに毎日かじりついてよ…俺の方が、後で惚れたってのにな」

「……ッ!」

すぐに理解した幸村は顔を歪め、


「っ、申し訳ござらん…!某、何をどうすれば良いのか、その──は、恥ずかしくて、己から電話もできずにおりまして…っ」
「………」

「政宗殿がいつものようでしたので、『自分も』と……決して、そんなつもりではなく…」

眉を下げ、幸村は後悔の色を滲ませた。

その顔に政宗は二度目の安堵を抱くが、愛しさが募る分、それ以上を手に入れたい衝動に突き動かされる。
本来ならば『男らしく』何も語らず、振る舞いだけで惹き付け、その心の全てをものにしたいのではあるが。

生憎とその前に、prideや見栄はどこかへ旅立ってしまった。


「…じゃあ、俺が今までと違えば、お前もそうなんのか…?」

政宗は指で幸村の顎を持ち上げると、なぞるようにその唇を撫でる。


「──…」

彼の問いに頷く代わりに、幸村は静かに目を閉じた。











(……?)


何もなく政宗の指先は離れ、幸村は戸惑う。
早とちりだっただろうかと焦った後、政宗の表情を見て不安がよぎった。

それは、見たこともない…


「…やっぱ、俺の方が空回ってばっかだな」
「なっ…」

何を、と目を見張る幸村を意に介さず、政宗はただ静かに独眼の光を揺らめかせる。…幸村が、その瞳に弱いことを知らずに。

視線に縛られ、幸村は身も心もすくみ上がっていった。



「──俺とのkissも、『特別』にしてくれよ」


……え……


数度瞬く幸村だが、政宗は変わらず静かな口調で、


「強引にやっといて、言える立場じゃねーんだが……俺には、何より最高の『special』だったんだぜ?…大丈夫かってくれぇ、頭もここも全部熱くなってよ。お前からの返事聞いたときゃ、もう…」

「それはっ…」

自分も、と続けようとする幸村の言葉は、彼の左目で遮られる。


「お前にはつきたくねぇって思ってたくせに、あの日俺は嘘をついた。…初恋が特別なんざ、一つも思っちゃいねぇ。んなもん、お前を知ったときから──」



初めて会ったあの日から、お前は俺の……お前だけが、俺の『特別』になった。

あのときはひたすら楽しい気持ちにばかり気がいき、慕情だとは思いもよらずにいて。
…いや、無意識に気付かない振りをしていたのだろう。

友人として唯一無二の存在だとあそこまで思えたなら、電話でもネットでも交流する手段はいくらでもあったはずだ。
中学三年間、それを一度もやろうとしなかったのは、



「お前に、覚えといてもらいたかったんだよ。約束を忘れずにいてくれりゃ、お前も同じように思ってくれてんじゃねーか…って。それを、夢に見るまでずっと願ってた」

「──…」

幸村は驚きで言葉もないようで、政宗はそれを為した自身を苦笑する。


「いつもお前に偉そうにしてるくせに…だな」
「…そんな、」
「そんなことあるんだよ。…追ってたのは、俺の方だ」

政宗は表情を和らげると、


「こないだも言ったように、俺よりお前を想う奴なんざ絶対いねぇ。比べようもねぇが、必ずお前の初めて以上の奴になってみせる。だから、お前も俺を…


……俺だけを、『special』にしてくれよ」















政宗の言葉に初めは茫然とするだけの幸村だったが、それは段々とほぐれていき、喜びの表情に変わっていく。

先日以上に嬉しそうに頬を染める姿に、政宗は少々戸惑うが、


「某も、政宗殿の『初恋』を気にしておりました…。友人は綺麗な方が多いゆえ、『似た方がいるのだろうか』と…先ほども、そんな風に見てしまって」

「──really?」

はい、と申し訳なさそうに頷く幸村に、政宗の心は一気にざわめき始める。
あの矮小な行為が、結果そんな良いものをもたらしてくれていたとは。

しかし、湧き上がる自信も、嬉しそうなのに涙ぐむ幸村の前では、無言にしかならなかった。


「どうすれば、その方を越えられるだろうかと…。あの日、充分過ぎる言葉をあれほど頂きながら、そればかりに腐心しておりました。…某は馬鹿者でござる」

「…いや、俺の言い方も嫌味だったしよ。別に…つーか悪い気しねぇし、んな風に思われんの。俺も同じこと思ってたんだ、お互い様だろ」

『もっと優しく言えよ』と自身をなじる政宗だが、幸村の全てが可愛くていとおしく、胸が苦しくなり上手くできない。
目を閉じ、そこに存在を感じるだけで狂おしい。

──きっと、こいつの顔が誰よりも好きだ。だから何をやっても惹かれ、動悸は悪化する。
だがそれは、この顔が世の中一綺麗だからとか、そういった理由のせいではないのだろう。そう見えるのも、恐らく己だけで。

もうずっとずっと以前から、彼という存在を細胞レベルで求めている。…そんな、気狂い染みた考えさえ。


政宗がそんな悟りを開いていると、幸村は言葉の準備をしていたようで、


「同じではござらん…政宗殿は、そのように思う必要はありませぬよ」
「Ah?」

「もう既に、某の初恋の方を遥かに越えておられまする」

「──…」

政宗は詰まった後、「…そうかよ」とだけ呟く。「はいっ!」と、力強く頷く幸村だが、


「しかし、忘れるのだけはご容赦頂きたく…」
「Ahー…、俺もそこまで心狭くねぇよ」

「良かった」

幸村ははにかみ、遊具から降りると、



「某の『初めて』は、二度目と同じ方ですので」


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